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 エリザベス・フェラーズの『嘘は刻む』を読む。
 近年、紹介されてきたフェラーズの作品といえば、トビー・ダイク&ジョージ・シリーズに代表される、カラッとした明るさとユーモアが身上の本格ミステリである。一方、本作は、本格は本格だが、雰囲気はまるで正反対。登場人物全てが胡散臭さを漂わせ、終始、陰鬱なムードに包まれた作品だ。
 とはいっても実は個人的にフェラーズのユーモアが苦手だったので、この暗さはまったく気にならない、というかむしろ望むところ。

 嘘は刻む

 舞台はイギリスのとある田舎町。オーストラリアから六年振りにイギリスへ帰ってきた主人公エマリーは、かつて愛したこともあるグレースのもとを訪れた。ところが久々の再会にもかかわらずグレースの気はそぞろ。気持ちの醒めるエマリーだが、仕方なく翌日に再び会う約束をして、いったんホテルに戻ってゆく。
 ところがその夜、グレースがいきなりホテルへ現れた。友人の家具デザイナーであるサインが殺されたというのだ。サインの家へ向かったエマリーが目にした物は、狂った時計で溢れかえった奇妙な殺人現場だった……。

 主人公のエマリーはグレースの言動に不審な点を感じたこともあり、成りゆきで独自に殺人事件の調査に乗り出す。しかし、グレースばかりか事件関係者はことごとく何かを隠しているようで、エマリーは常に疑心案義のまま聞き込みを続けてゆく。
 このエマリーと関係者の、オブラートに包まれ放しの会話が効果的である。登場人物たちの性格や人間関係は事件の背景にも密接に絡んでくるのだが、それを巧みにぼかしながらストーリーを展開する様はなかなか見事。要はプロットがしっかり作り込まれているのである。
 結論。暗く地味な展開ながら意外なほどリーダビリティは高く、解決のきっかけとなるエピソードやラストのサプライズも悪くない。渋めの英国ミステリがお好みの方ならぜひ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 エリザベス・フェラーズの『ひよこはなぜ道を渡る』を読む。
 友人のジョンの屋敷を訪れたトビーは、自分の目を疑った。書斎に倒れているのはまぎれもないジョンの姿。部屋は荒れ果て、弾痕や血痕までが残されている。だが、驚いたことにジョンの死因は自然死だった。では弾痕や血痕は果たして何を意味しているのか。“死体なしの殺人”と“殺人なしの死体”で幕を開けるトビー&ジョージ最後の事件。

 ひよこはなぜ道を渡る

 E・X・フェラーズなどと呼ばれていたときはけっこう渋い英国ミステリの印象だったが、創元でトビー&ジョージ・シリーズが紹介されるや、あっという間にユーモア本格ミステリの第一人者として認められた感のあるエリザベス・フェラーズ。実際はかなり古い物語なのだが、現代的にアレンジした翻訳、キャラクター設定も功を奏した感じで、見事に女性ファンを掴んだようだ。これは訳者の勝利か、はたまた版元の勝利か(笑)。

 ただ、キャラで読ませる部分も大きいが、それ以上に本格としてのエッセンスを備えているところがフェラーズの魅力である。本作でも“死体なしの殺人”と“殺人なしの死体”というひねくれた導入、次々と墓穴を掘りまくる登場人物など、ひと癖もふた癖もある設定で読者を引っ張っていく。真相もそれに応えるだけの驚きはあるし、タイトルの「ひよこはなぜ道を渡る」から一気に解決までもっていくジョージ君の推理も見事。
 そんなわけで基本的にはオススメの一作。
 ただし、ただしである。個人的にはどうしても本シリーズのユーモアが馴染めない(爆)。以前に『その死者の名は』の感想でも書いたのだが、笑いのセンスが合わないのである。登場人物たちが終始はしゃぎすぎているから逆にギャグが生きないというか、物語の起伏がぼやけるというか。ま、いろいろ理由も考えつくのだが、結局これは生理的なものに尽きるのだろうなぁ。ファンの人、ごめん。

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 エリザベス・フェラーズ『その死者の名は』読了。特に意図はしていないが、たまたま前回読んだアントニイ・バークリー『レイトン・コートの謎』と同じく、本書も作者のデビュー作である。創元推理文庫での再紹介が始まって以来、この一冊でほぼ初期の作品は出そろったことになるのかな?
 フェラーズも再紹介が進んで、バークリー同様ここ数年でずいぶん評価が上向いた作家だ。ただ、実は個人的にはそれほどのものかなぁという居心地の悪さがある。ほのぼのとした上品なユーモアが肌に合わないせいもあるのだが、インパクトのあるトリックや仕掛けを持ち出すわけでもないし、プロットも平凡。まとまってはいると思うがいかんせん小粒で、次も読もうという気になかなかならないのだ。
 とはいえ読みやすさは抜群だし(これは訳者のお手柄か)、本格としての水準点はクリアしているとも思う。シリーズキャラクターに好印象をもったり、このほのぼの感にはまる人がいるのも確かに納得できる話である。解説で書かれていたが、新本格として紹介されてもおかしくない云々というのも、まことに的を射た表現だ。ただ、新本格というよりはコージー派という表現の方が適切かも。ああ、そうか。だから自分には合わないんだ。新本格もコージーも苦手なんだよな。

 さて、本書であるが、こんな話だ。
 とある小さな村の警察署。そこへ深夜に飛び込んできたのがミルン夫人だ。なんとたったいま人を轢いてしまったというのである。警察はさっそくこの死体を調べるが、まったく身元がわからない。大量に酒を飲んでいた形跡はあるが、酒瓶の類もない。これは本当にただの事故なのか? そもそも彼はいったい何者? 何のためにこの町に来たのか?

 はっきりいって、自分的にはやっぱりダメでした。謎解きとかプロットとかということではなく、序盤の設定や展開に萎えてしまってのめり込めないのである。一番ひっかかるのが、人を轢いたわりにはえらそうにしているミルン夫人のキャラクター。自分のクルマで人を轢き、もしかすると自分が殺したかもしれないというのに、この態度はないだろうと言う感じで、読んでて不愉快になってしまう。
 ミルン夫人がそういう冷酷な人物という設定だったらわかる。あるいは徹底的に死を茶化すような狙いがあるのなら、それも可。でも、本書にそんな要素はひとつもない。しいて言うならミステリという劇画化された世界の物語、しかもユーモアを打ち出した小説だから、ということになるだろう。ただ、それでも本格ミステリとしてのリアリティ&お約束は必要だ。この世界は現実をできるだけリアルに模倣した虚構世界である。それを無視して話を進めてはいけないし、人物描写もまたしかり。実際、こんなおばさんがいたら、その場で遺族に殴られるぐらいは覚悟すべきであろう。おまけに警察の対応もいまひとつわからない。被害者が泥酔していたことが判明すると、これじゃ死んでも仕方ない、とくる。
 ミステリだから劇画化されるのは全然かまわない。しかし、これは単に人物描写が拙いだけのことではないかと思う。あるいはユーモアのピントがずれているのか? トータルではまずまず悪い作品ではないだけに歯がゆい限り。これは決して自分の嗜好だけが原因ではないと思うのだが……。

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