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 ジョナサン・ラティマーの『赤き死の香り』を読む。
 ラティマーといえば、一般的には軽ハードボイルドの作家といった印象である。テンポのよいストーリー、小気味のよい主人公のセリフ、適度なアクション、ブロンドの美女。必要な構成要件を見事までに備え、どこをどう取っても絵に描いたような軽ハードボイルドだ。
 ただし、そこらの軽ハードボイルドとちょっと違うのは、常に本格ミステリとしての要素をスパイスとして加えているところである。本格とハードボイルド、この相反する興味を両立させるのはなかなか難しい。それをさりげなくやってみせるところにラティマーの魅力と実力がある。

 思えば初めてラティマーを読んだのは創元推理文庫の『処刑6日前』だった。このときはスピード感やユーモアといった味付け、それこそ軽ハードボイルドの部分にばかり気を取られ、謎解き要素には驚いたものの、それはあくまでこの作品だけの例外的なエッセンスと捉えていたのだ。ところが二冊目、三冊目と読むうち、これがラティマーのデフォルト仕様であることを理解し、面白い作家がいるものだと感心するに至ったわけである。

 ただ、ハードボイルドと本格の比率は決してイーブンではなく、謎解き要素はあくまで味付けと見るべきだろう。生粋の本格作品に比べれば全体に緩さは否めないし、プロットもそこまでしっかりしたものではない。やはりキャラクターやストーリー、ユーモアを根幹とした娯楽読み物であり、本格要素はそれらをより効果的に見せるため道具だと思うのである。
 さらに言ってしまうと(以前に『シカゴの事件記者』の感想でも書いたのだが)、ラティマーはハードボイルドという形式すら、単なる文体や演出のための道具として考えていたような気がする。自分がよかれと思う小説を書くための、ひとつのツールなのだ。
 そこを読み違えて飛びつくと、つまりガチのハードボイルドや本格を期待すると、意外にがっかりするはめになるので念のため。

 赤き死の香り

 さて、本書『赤き死の香り』でも、以上のスタンスは基本的に変わらない。
 本作では、ある大富豪の家族に次々と襲いかかる変死事件を、シリーズ探偵のビル・クレインが調査にあたる。クレインは探偵事務所の所長の姪であるアンと夫婦役を装い、家族に近づくのだが、この二人が喧嘩ばかりしていて、いわゆるツンデレですか。そんななか金髪美人も次から次へと登場、クレインがあっちへフラフラこっちへフラフラしていると依頼主の大富豪までが……という展開。
 テンポは悪くないんだが、いつになくプロットが締まらず、ややダレ気味の印象。謎解きはもちろんあるけれど、こちらもそれほど驚くべきものでもない。正直、完成度はこれまでのなかでも落ちる方であろう。
 とはいえ、それでもけっこう面白く読めてしまうのは、やはりキャラクターの設定や各種エピソードの出し入れが上手いからだろう。男のためのハーレクイン、っぽいかな?

 ちなみにこれでラティマーの翻訳は全部で6作。未訳がまだ数作残っているのだが、せめてクレインものだけでも、どこかで出してくれないものかなぁ。


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 物語の舞台は映画「夜の虎」撮影も大詰めを迎えた映画スタジオ。いままさに主演女優のカレスがピストルで撃たれるシーンを収録するところであった。だが、そこで大変な事件が持ち上がった。撮影中、何者かが事前に空砲を実弾に代えていたらしいのだ。カレスはそのまま息を引き取り、容疑は自然、撮影でカレスを撃つ役を演じたリーザに向けられた。

 以上がジョナサン・ラティマー『黒は死の装い』のあらすじ。
 本作はここ数日に読んだ『処刑6日前』、『シカゴの事件記者』、『モルグの女』とは少し毛色が異なる。上記三作は軽ハードボイルドをベースに本格としての要素、軽快なユーモアなどを織り交ぜた作品だったが、本作はそれまでのギャグがなりを潜め、あくまでシリアスタッチ。
 また、章ごとに中心人物を変え、その人物の視点で事件を描いてゆく(といっても一人称ではないが)という手法を用いている。そのため数名の中心的人物というのはいるが、特定の主人公というものは存在しない。まさに映画的な手法で、スピーディーな演出とある種の緊張感を生むことに成功している。ハリウッドという特殊な世界で、どのような人物がどのように考え、どのように行動しているのか、それらをくまなく見せていくという意味においても効果を上げているといえるだろう(まあ、そこまで褒める程度のものではないが)。逆にマイナス点としては、物語の軸がはっきりしないこと、感情移入をしにくいということもあるので、どっちがどっちということもないか。
 お話の出来そのものは悪くない。映画界ならではの殺人方法、動機、展開が上手くまとめられており、盛り込まれるエピソードなども当時のハリウッドの在り方などがわかって興味深い。他の作品に比べて、ミステリとしての出来はやや落ちるが、エンターテインメント的にはこちらが上、というあたりに落ち着くだろう。ただ、個人的に気に入ったのは探偵役。「え、こいつが謎解きするんかい?」という感じ。そもそもしっかりした謎解きの場面があることが、ちょっと意外だった。ラティマーってけっこう本格に対する憧れみたいなのがあったのかも。

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 この忙しさは何であろう? 

 やっとこさジョナサン・ラティマーの『モルグの女』を読了。書誌的には『処刑6日前』の次に書かれた作品で、長編の第三作目にあたる。で、読み始めて少し驚いたのが、主人公は『処刑6日前』で活躍した探偵のクレインなのだ。まあ、考えてみると、実質的には『処刑6日前』の主人公もクレインといえばクレインである。ただ、物語の設定上どうしても死刑囚が主役なのだとインプットされてしまっていたので、クレイン・シリーズの一冊だとは思いもよらなかったのだ。ちなみにラティマーの著作を調べてみたら、クレインものは五冊あるらしい。

 こんな話。その暑い夜にクレインが訪ねてきたのはモルグ(死体置き場)だ。身元不明の美女の死体を確かめるためである。しかし、クレインとその場に居合わせた新聞記者たちが目を離したすきに、モルグの管理人が殺され、美女の死体が盗まれてしまったのだ。警察に嫌疑を受けたクレインは、探偵事務所の仲間とともに事件の調査に乗り出すが、例によってさまざまな妨害が……。

 ラティマーは実に楽しい作家である。これもおすすめの一冊。
 今回はクレイン単独ではなく、二人の仲間とともに捜査にあたる。これがまたいい味の探偵たちで、ドタバタや会話がいっそう盛り上がる。加えてギャングや美女の遺族らが乱入するので、とにかく展開がスピーディーで止まらない。最近読んだラティマーのなかでは最も楽しい一冊であることは間違いない。オチも相変わらず上手い。いわゆる純粋な本格の謎解きとは少し違うが、それでも本格の形式を巧みにハードボイルドに溶け込ませることに成功している。これって意外にうまくいっている作品が少ないんで、それだけでもラティマーの価値があるといえる。
 ただ、その物語設定&展開ゆえ、全体が少々雑な感じがしないでもない。筆(ペン、それともタイプライター?)が走りすぎるというか、説明不足なところもちらほら。まあ、こちらの読解力が低いのかもしれないが。
 とにかく絶版なのが残念な一冊である。

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 ううむ、神保町で働いているというのに、あまりの仕事の忙しさに古本祭りが始まっていることすら気がつかなかった。昼飯ついでにちょっと三省堂内の会場をのぞき、比較的安く出ている東京創元社の現代推理小説全集やクライムクラブの端本、ニコラス・ブレイクの『秘められた傷』なんぞを拾って帰る。あと、幻影城のバックナンバーをいくつか。せわしない一日。

 読了本はジョナサン・ラティマー『シカゴの事件記者』。『処刑6日前』が予想以上の面白さだったので、積ん読の山からすかさず引っこ抜いてきたもの。
 主人公はタイトル通りシカゴの新聞社に勤める記者、サム。離婚問題がひと山越えたサムは一人街に出て祝杯をあげるが、あくる朝目を覚ますと、そこには見知らぬ美女の死体があった。あわてて逃げ出すサムだが、その場に証拠を残してきたり、メイドやエレバーター係に目撃されたりと、捕まるのは時間の問題である。しかも出社してみると、被害者はなんと同じ新聞社に勤める同僚であることが判明。全社をあげて犯人探しに乗り出すことになり、サムは警察に怪しまれつつも必至で捜査を開始するが、やがて浮かび上がる被害者の過去がさらに事件を複雑にしてゆく……。

 結論から言うと、期待に違わぬ出来である。同じ作者の作品とはいえ、こちらは『処刑6日前』から二十年後に書かれた作品。その分作者は確かな成長を遂げたようで、人物描写などはますます磨きがかかっており、主人公もさることながら脇役陣が印象深い。また、軽ハードボイルド的なノリは健在で、語り口はたいへん軽め。主人公たちの掛け合いやドタバタが大変楽しく読める。
 ただ、これはもしかしたら軽ハードボイルドというものとは、ちょっと違うタイプのような気もする。『処刑6日前』もデッドリミットサスペンスといいながらけっこうユーモラスで、その点が緊迫感を欠いてしまって玉に瑕だったのだ。
 しかし、本書を読んで思ったのだが、ラティマーはことさらハードボイルドを書きたいとは考えていなかったのではないだろうか。登場人物たちのドタバタや会話、アクションも含めたテンポの良いストーリー、そしてラストの意外性。ラティマーは単にエンターテインメントを書きたかったのであって、たまたまそれを実現しやすいハードボイルドというスタイルを拝借した、そう思うのである。
 ちなみに本作でも謎解き部分は相変わらず巧い。これが通俗的なハードボイルドであれば、サムが最後にバクチをうち、それが功を奏した時点でハッピーエンドとしてもおかしくないところなのに、作者はどんでん返しをしっかり準備している。このことからもラティマーのポジションというかスタイルが、普通のハードボイルドとは違うことをよく顕している。

 とりあえずこの後には、さらに傑作の誉れ高い『モルグの女』も読む予定なので、ちょっと突っ込んでみたいところではある。

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 妻殺しの容疑で逮捕され、死刑の宣告を受けた男がいた。自分が無実なのは知っている。ただ、そのショックから為す術もなく刑を受け入れてしまったのだ。一度はすべてを諦めたはずの男だったが、死刑執行日が近づくにつれ、男にも本来の感情が蘇り、最後のチャンスにすがろうとする。しかし、もはや死刑執行まで残された時間は6日間。敏腕弁護士や名探偵、婚約者や仕事仲間の協力を得て捜査は再開されるが、やっと見つけた証人たちは、一人また一人と殺されていく……。

※今回ややネタバレかも

 ジョナサン・ラティマー『処刑6日前』読了。
 おそらく過去に何度となく言われてきたことだろうが、本書はアイリッシュの『幻の女』と比較されることが多い。単純にデッドリミットものが少ないから仕方ないことだが、その味わいはかなり異なる……というのも何度となく言われてきたんだろうな。
 面白いのは、本書が「デッドリミットサスペンス」の部分をそれほど強く押し出してはいないということだ。主人公の婚約者の女性など、調査の途中で食事が美味しいなどとのたまう始末で、思ったほどの緊迫感がない(あとから考えると、これもラティマーの持ち味&伏線だったのだと思う)。
 しかし、それを補ってあまりあるのが、まずは軽ハードボイルドとしてのノリの良さ。もとより作者のジョナサン・ラティマーはハードボイルド系の作家だから味付けは申し分ない。個人的にB級ハードボイルド、安っぽいハードボイルドが好きなので、もろツボである。やや類型的ではあるが、イキイキと動き回る登場人物たちの行動やセリフが何ともいい。慣れていない人には翻訳も古くさく感じられるだろうが、これも逆にいい味を出している。
 そして、もうひとつの魅力が、意外や意外、謎解きのエッセンスだ。古くさいトリックは時代を考えれば仕方ないところだが、いくつもの困難をひとつづつ崩していく過程は悪くなく、プロットがしっかりしているので、最後の大団円までうまく謎解き興味を引っ張っていく。また、犯人は見当がつきやすいが、「意外な共犯者」という仕掛けが巧い。最近のミステリでもこのパターンはあまり記憶にない。
 ミステリマニア以外、一般にはあまり知られていない作家だけに、ぜひ未読の方はだまされたと思って読んでもらいたい。おすすめ。

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