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 笹沢左保が亡くなったらしい。一般的には木枯らし紋次郎で知られた作者だが、推理小説の分野でも残した足跡は小さくない。個人的にはあまりよい読者ではなかったが、先日も鮎川哲也氏が亡くなったばかりだし、なんともミステリ界には暗い一年だった。今年の訃報はこれで打ち止めにしてもらいたいものだ。

 本日の読了本はジョン・コラピントの『著者略歴』。作者はこれが小説としてのデビュー作で(邦訳は一冊だけ『ブレンダと呼ばれた少年』というノンフィクションあり)、題材はなんと小説の盗作である。

 主人公は書店に勤めながら小説家を志している青年キャル。ところが普段の生活は小説を書くどころか、女遊びにあけくれる毎日。
 そんな彼と一緒に暮らすルームメイト、法律家を目指すスチュワートがいた。そのスチュワートがある日、自分の書いた小説を読んでくれとキャルに持ちかけるが、これがなんと大傑作。しかもそれとは別に、すでに長編まで完成していると言うではないか。
 自分では一文字すら書けないでいるキャルは大ショック。こっそりスチュワートの部屋へ忍び込み、長編を盗み読んでしまう。そこにはなんとキャルが今までスチュワートに話した自分の体験談が書き連ねてあった。「これは俺の作品だ」勝手に思いこんだキャルはスチュワートをどうやってとっちめようか思案する。そこへ飛び込んできたのが、スチュワート交通事故死というビッグニュース。キャルは何のためらいもなく、スチュワートの書いた作品を、自分のものとして売り込みをかける。たちまち超有望新人として成功への道を駆け上がるキャルだが、大きな落とし穴も待っていた……。

 実に楽しい作品。口では上手いことを言っている実はダメダメ男の主人公。軽快な訳文とも相まって、彼の適当な生き方や考え方がうまく伝わり、なぜか共感できるから不思議だ。
 ハイスミスの『太陽がいっぱい』と比較している書評、特に人間が類型的すぎるとか、後に残る物がないとかいう書評をいくつか見かけたが、こうして本書を読んでみると、それは基本的に間違いではなかろうかと思う。いや、それは言い過ぎにしても、あまりに小説にすべてを求めすぎた狭い見方だ。
 そもそも根本的なテイストが違う。上辺のストーリーは似ているものの、ハイスミスはやはり犯罪者の移りゆく心理を描くことを目的としている。それに対してコラピントは出版界という情報部分とストーリーとしての面白さに主眼を置いている。どちらが良い悪いではなく、狙うところ目指すところが違うのだから仕方がない。確かに『著者略歴』にはご都合主義的な部分も多々ある。シリアスに持っていくこともできる題材である。ただ、それらをストレートに貫くと、ストーリーの面白さがかなり減少することもまた確かであろう。逆にコラピントにとって、それは許せなかったところなのではないか。
 実際あとがきで、当初コラピントは主人公が●●するという結末を考えていたそうで、そうなるとまた違った後味になるし、全体のバランスも崩れるはずだ。この物語にそれを求めるべきなのか。断じて否。そこで現在の結末に変えたらしいのだが、これは正解だろう。エンターテインメントではあるが、キャルの悩み方や生き方は、実に等身大である。その部分のリアリティだけは譲らず、そしてエンターテインメントに仕上げたところにトラピントの計算があるのだ。
 ちょっと古い作品になるが、『透明人間の告白』が出たときにも同じような批判があったことを思い出す。確かに小説としての重さはないかもしれない。だが作品としての完成度は高く、これも立派な小説の在り方のひとつであると思う。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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