たまには刺激の強いものでも読むべい、と思ってショーン・ハトスンの『スラッグス』に手を出す。今はなきハヤカワ文庫のモダンホラーセレクションというシリーズの一冊で、文字どおりスラッグス(なめくじ)をテーマにした動物パニックもの。
実は動物パニックというのがけっこう好きで、普段は小説より映画で楽しむことが多い。
ただ、残念ながらこの動物パニックものというジャンルには、大きな欠点がある。傑作が少ないのである(笑)。小説で今年読んだのはマーティン・クルーズ・スミスの『ナイトウイング』くらいだが、これはまだましな方だった。だが、いかんせん『ナイトウイング』も相手がコウモリということもあって、いまいち盛り上がりに欠けた。悪役は強くてなんぼ、なのである。
で、今回はなめくじ。確かに生理的に気色悪い生き物ではあるが、それが人間を襲うという状況があまり想像できない。しかも足で踏んだらそれで終わりだろ、てな感じなので、あまり期待せずに読んだのだが……。
地方の小都市に異常発生したなめくじ。しかも突然変異したことによって毒性を持ち、人間を襲うなめくじである。対するは市の衛生検査官。この両者の対決が映画的なカットバックによる手法でテンポ良く描かれ、ストーリーはなかなか読ませる。
しかし、肝心のなめくじ撃退法がもうひとついい加減で、あまり説得力をもたないのが残念。大嘘でかまわないから、もう少し科学的な根拠をそれらしく見せてくれないと、動物パニックとしては弱い。
しかし、この本に関してはそういうことを言うのは野暮なのかもしれない。とにかく描写が気色悪いのである。 正直、最近ここまで不快感をもって読んだ小説も珍しい。想像力の豊かなひとやスプラッターホラー嫌いな人は絶対に読まないほうがよいと断言できるほどだ。食事の前後などもってのほか。よほどの好事家以外、読まない方が賢明であろう。