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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

カレル・チャペック『ひとつのポケットから出た話』(晶文社)

 チャペックといえば、個人的には長い間『山椒魚戦争』や『ロボット』の著者であり戯曲家というイメージしかなかったのだが、数年前に『ダーシェンカ』が話題になったときは、こんな一面もあったのかという意外な驚きがあった。そして、そのチャペックがミステリまで書いていると知ったときにはかなりぶっとんだ記憶がある。

 それがきっかけで少しチャペックのことを調べたのだが、実に多彩な作風をもち、様々なジャンルに手を出していたことがわかる。小説だけでも哲学的なものからSF、ミステリまであるし、エッセイ、童話、伝記などもこなす。また、ジャーナリストとしても記事から紀行文、コラム、批評まで書くという恐るべき多芸な人だったのである。

 本日の読了本はそのチャペックが書いたミステリ系の短編集『ひとつのポケットから出た話』。
もちろんチャペックが書くからには、そう純粋なミステリというわけにはいかない。ミステリの体裁をとりつつも、それは人生や人間の真理を求めるかのような哲学的な小説ばかりである。
といってもそんなに堅苦しい話でもない。全編ほのぼのとした不思議な味わいとユーモアで語られるため、たいへん心和むこと間違いなし。普通のミステリには少し飽きた、という人には箸休めとしておすすめの一冊である。

 実は姉妹作となる『ポケットから出てきたミステリー』を既に読んでいるのだが、こちらもテイストはまったく同じ。しかし『ひとつのポケットから出た話』の方が完成度は高いと思う。どうせ読むなら、まずは『ひとつのポケットから出た話』からの方が良いだろう。


カレル・チャペック『長い長いお医者さんの話』(岩波少年文庫)

 買い物ついでに国分寺の古本屋をのぞくと、桃源社の海野十三『深夜の市長』『 火星兵団』『地球要塞』三冊セットを発見。ちょっと迷ったものの、結局購入。これで少しはストレス発散になりそう。

 帰りはレンタルビデオ屋により、今さらながらの『ハムナプトラ』。公開当時は全然見る気もなかったのに、原題が「ザ・マミー」であることを知ってから、何となく気になっていたのだ。意外と世間の評判も悪くないし。もちろんB級エンターテインメント故に過大な期待はしていなかったので、これぐらいやってくれたら十分満足。

 本日の読了本はカレル・チャペック『長い長いお医者さんの話』。
 あのチャペックが書いた児童書で、いくつかの短編が収録されている。多少の教訓を取り入れつつもお話自体は他愛なく、大人が読んでも楽しいものばかりだが、あえていうならイチオシは表題作だろう。
 梅の実をのどに詰まらせた魔法使いの元にやってきたお医者さん。病状はすぐにわかったのだが、この評判の悪い魔法使いをこらしめるため、わざと治療が難しそうなふりをして、ほかのお医者さんまで集めようとする。そしてそれを待っている間に魔法使いに聞かせてあげる変なお話の数々。そればかりか集まってきた他のお医者さんまでが、自分の持ちネタを披露しまくるという一席。

 いわばアラビアンナイトのような構成だが、こういうところにチャペックの芸達者なところがうかがえる。やはり戯曲を書いているせいなのか、観客(読者)を飽きさせないような工夫をいろいろとやってくれるのが嬉しい。サービス精神が豊富なんだろうが、こういう姿勢を世の作家さんたちは忘れないようにしてもらいたいものです<何を偉そうに。


カレル・チャペック『ロボット』(岩波文庫)

 初詣をすませたあと、『ショコラ』と『猿の惑星』をレンタル。実は映画館で『ハリー・ポッターと賢者の石』を観ようと思ったのだが、すごい行列に早々と脱落。あっさりビデオに切り替えたわけだが、いやあ、『ショコラ』はよかった。
 こういう食べ物で心和ますという手はけっこう好み。『バベットの晩餐会』もそのひとつかと思うのだが、美味しいものや美しいもの、本能に訴えるものを素直に受け止められない人生なんて、個人的には考えられない。禁欲的、求道的な生活もそれはそれで美しいけれど、それだけでは結局は貧しい人生なのではないかなと考えたりした次第。

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 さて、本日の読了本はカレル・チャペック作『ロボット』。
 園芸本やら犬本などで最近は女性に人気のあるチャペックだが、この『ロボット』や『山椒魚戦争』をものにしたSF作家としての側面も忘れてはいけない。
 しかも「ロボット」という言葉は、チャペックが世に送り出しているのだから。一応造語にはなるのだろうが、元になる言葉には「労働」などの意味があるそうで、作品の内容も、労働者としてのロボットが資本家たる人類に反旗を翻す、というものになっている。

 ここまで書くと思い出されるのが、ティム・バートンの『猿の惑星』。何となく似てるのだ、設定が。それなのにこの差は何なんだ?
 ティム・バートン監督はアクションをふんだんに取り入れながら猿と人間の対立、つまり奴隷と支配者の確執を描いていくのに対し、チャペックはほぼ登場人物の会話や議論だけで話を進めていく(ま、戯曲だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど)。で、上っ面だけを見れば『猿の惑星』の方がはるかに面白いはずなのに、実際はまったく逆。チャペックがセリフとユーモアの積み重ねで文明批判や科学主義などを問うていく様は、まさに圧巻の一言。それなのにバートンは最新のSFXとアクションの積み重ねで、あの程度のことしかできない。ハリウッドの娯楽作品といってしまえばそれまでだが、それならオリジナルを越える楽しさだけでも提供してくれよ、と言いたい。

 『猿の惑星』はティム・バートン監督なんで、けっこう期待していたのに、こりゃオリジナルの方が全然いいや。もう、最後のオチなんてまったく意味なし。あれをどんでん返しというのなら、何だってOKになるぞ。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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