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 レオ・ブルースの『ハイキャッスル屋敷の死』を読む。レオ・ブルースの直近の作品というと、同じ扶桑社から『ミンコット荘に死す』が二年ほど前に出ているが、いやあ、なんという歩みの遅々としたことか。論創ミステリのペースで出版してくれとは言わない。二年ぶりに出してくれるだけでも十分にありがたいのだけれど、少しだけ欲を言わせてもらえれば、せめて一年に一作ぐらいのペースにしてくれないものだろうか。
 まあ、セールスありきなので売れないことにはどうしようもないのだが、こんなに面白い作家の小説がなぜいまひとつ人気が出ないのか、そしてプッシュしてくれる版元が現れないのか実に不思議である。
 今はなき社会思想社のミステリボックスというレーベルから『ジャックは絞首台に』が出たのが1992年。そこから通算九作品が出版されたが、たった九冊で版元は社会思想社→国書刊行会→新樹社→原書房→東京創元社→扶桑社というぐあいに移り変わっている。思うにどの版元でも興味を持ってくれる編集者はいたとは考えられるのだが、それが読者への人気や売れ行きに直結しないため単発で終了してしまうということなのだろう。ただ、これはあくまで想像でしかないので、もしかするともっととんでもない理由があるのかもしれないけれど。

 愚痴みたいな前ふりになってしまったが、さて本題の『ハイキャッスル屋敷の死』である。まずはストーリーから。

 歴史教師にして素人探偵のキャロラス・ディ−ンだが、その探偵活動を快く思わないゴリンジャー校長。ところがそのゴリンジャーから貴族の友人ロード・ペンジの苦境を救ってくれと依頼される。ペンジのもとに謎の脅迫状が送られてくるのだという。
 最初は断っていたキャロラスだが、ペンジの秘書が主人のオーヴァーをきて歩いていたところ射殺されるという事件が起こり、しぶしぶ現地に訪れることになる……。

 ハイキャッスル屋敷の死

 ネットの評判がいまいちだったので少し心配していたのだけれど、いや、このレベルなら全然OKではないか。管理人としては十分に楽しめた。
 確かにこれまでの作品に比べると大技がないとか、トリックがしょぼいとか、解説で真田氏が挙げている欠点(特に三つ目)はあるのだけれど、それを補うだけの魅力がある。

 まずはプロットの巧さ。もともと大掛かりなトリックを使わない作家であり、真相をカモフラージュし、最後に事件の様相を反転させる仕組み作りが巧いのである。もちろん、ただビックリさせるのではなく、それらを論理でもって、きちんと本格探偵小説としてまとめあげるテクニックもまた素晴らしい。
 本作には二つの大きな事件が発生するのだが、単独であれば読まれやすい事件なのに、二つの事件を繋ぐことによって真相を見事にカモフラージュしてゆく。豪速球というわけではなく、かなりのクセ球ではあるのだが、思えばこれがレオ・ブルースの常套手段であり、ならではの魅力なのである。

 ストーリーは地味ながら、決して退屈するところがないのも相変わらずでよろしい。本作はいつもよりユーモアが少ないという声も耳にするが、管理人的にはどこが?と聞きたいほどである。
 否定形でしか話さない厩番、しゃべりすぎて自己完結する夫人なども楽しいけれど、やはりゴリンジャー校長の存在感はピカイチ。特に終盤での絡みはさすがに想定外で、いやあ、いろいろやってくれる。

 これまでの作品に比べるといろいろ不満も出てくるのだろうが、個人的には作者の本格に対するセンスやユーモアがとにかく好ましい。読めば読むほど味が出る作家。今後もなんとか翻訳が続くことを望みたい。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 レオ・ブルースの『ミンコット荘に死す』を読む。またまた版元が変わって扶桑社ミステリーとなったわけだが、まあ出してくれるならどこでもOK。
 しかし、なんだな。ヘレン・マクロイとかD・M・ディヴァインとかアントニー・バークリーとか、すれっからしの本格ミステリ好きを唸らせる作家は何だかんだで固定ファンを掴み、比較的順調に紹介が続いているけれども、なぜかレオ・ブルースだけは苦戦しているイメージがある。内容的には上に挙げた作家に優るとも劣らないレベルなのだが、なぜ紹介が途切れるのかまったくもって不思議である。
 まずは今回の扶桑社ミステリーが商業的にそこそこ結果を出し、残る作品も随時出版されることを願うばかりである。

 歴史教師のキャロラス・ディーンのもとへ、ミンコット荘の女主人、マーガレット・ピップフォードから深夜に電話がかかってきた。娘婿のダリルが拳銃で自殺したらしいというのだ。早速かけつけたキャロラスは、ベッドの上に血まみれで横たわるダリルを確認。しかし、自殺と判断するには不可解な点もあることに気づく。やがて第二の事件が起こり……。

 ミンコット荘に死す

 上で書いたとおり本作の売れ行きは非常に気になるところであり、そのためにもまずは中身が重要なのだが、これが期待に違わぬ出来であった。
 いつものレオ・ブルースといえばいつものレオ・ブルースである。謎解きを中心に据えた本格ミステリではあるのだが、大きなトリックには拘らず伏線の妙で見せる。しかも古き良き英国本格ミステリの体をとりながら、実はコードを微妙に外した通好みの落としどころは正に絶品。

 本作もブルースの真価を知らない人が読めば、最初はどうかと思うに違いない。周囲からあまり好ましくないと思われている人物が死んだことで、殺人事件という緊迫感すら乏しく、おまけに主人公の探偵趣味まで揶揄される始末。
 また第二の事件では、ストーリー上の登場人物たちは混迷を極めるものの、読者には意外とわかりやすい手がかりとなる。
 しかし、そういう流れを踏まえたうえで最終的に提示される真相は、正に斜め上を行く。この発想の飛躍に感心できるかどうかが、レオ・ブルースを気に入るかどうかのリトマス試験紙にもなっているのだ。

 唯一の泣きどころは地味なストーリー展開というあたりだが、これにしたって上質なユーモアが退屈さから救ってくれる。シリーズキャラクターのやりとりは一冊だけではピンと来ないかも知れないが、読めば読むほど味が出る類のものだ。

 ま、自分で書いていてもずいぶんな持ち上げようだが、面白いのだからしょうがない。正味な話、『結末のない事件』とか『死の扉』とかの傑作には及ばないけれども(苦笑)、クラシックミステリの醍醐味は十分に満喫できる一冊。


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 長らく創元推理文庫の新刊予定にラインアップされながら一向に出る気配がなかった幻の一冊といえば? そう、言うまでもなくレオ・ブルースの『死の扉』である。昨年の渡辺温と同様、まずは出たことを素直に喜びたい。ある筋から「創元からはもう無理」みたいな話も聞いていたので、いったんは諦めて、とっておきの「現代推理小説全集」版で読もうかと思っていたのだが、いやぁ待ってよかった。そりゃできれば新訳で読みたいものなぁ。
 で、待たされるだけ待たされたこの一冊をさっそく読んでみたのだが、これがまた内容も実に素晴らしい。

 こんな話。英国はニューミンスターにある小間物屋で殺人事件が発生した。被害者は店主の強欲な老婦人エミリーと、地区をパトロールしていた警官ジャック。二人は折り重なるように店内で倒れており、小さな町は騒然となった。
 ここで登場するのが、われらが歴史教師キャロラス・ディーンその人。犯罪研究を趣味とする彼は、教え子に挑発されてまんまと事件の捜査に乗り出すはめになる。さっそく聞き込みを開始したキャロラスは、事件当日、さまざまな人物がエミリーを訪れ、その誰もが動機を持っていたことを突き止める。同時に、その誰もが何かを隠していることにも勘づくのである……。

 死の扉

 本書は歴史教師キャロラス・ディーンを探偵役とするシリーズの第一作。
 レオ・ブルースの魅力といえば、本格ミステリの伝統を踏まえながらも、微妙にそのコードを外してくる巧さ、とでも言おうか。特にもう一人のシリーズ探偵、ウィリアム・ビーフものにはその傾向が顕著。『三人の名探偵のための事件』とした一連の作品も事件自体はかなり平凡というか地味なのだが、真相にはいつも驚かされる。
 本書も事件やストーリーは滅法、地味。もう本当に地味。その辺の本格ミステリを適当に百冊ぐらい集めても、軽くベスト3に入るぐらい地味なのである。導入そのものは警官の殺害シーンから入るため、おおっと思うところもあるのだが、その後はキャロラスが関係者を一人ずつあたっていく場面が延々と続き、レオ・ブルースの本当の面白さを知らない人はここで挫折する可能性も大である。
 ただ、ここをしっかり読み込んで、容疑者や関係者の証言をキャロラスとともに追い求めていけば、ラストで至福のひとときが待っている。犯人の意外性はもちろんだが、何より感心するのはその事件の仕組み、そしてそれをどのように解き明かしていったかだ。
 特に、関係者のさほど重要とは思えない、だけども明快な説明ができないいくつかの証言。これらに対してキャロラスが食い下がり、やがてそれが事件を構成する重要なピースであることが明らかになる。これこそ本格ミステリの醍醐味でありますよ。派手なトリックとかなくてもいい。ブルースの作品にはロジックや伏線の妙にこそ神髄があるのだ。

 ただ、誤解のないように書いておくと、事件やストーリーは地味だと書いたが、決して退屈ではない。
 というのもレオ・ブルースの作品ではユーモアもまた欠かせない要素のひとつであるからだ。世間体ばかり気にするくせに実は興味津々の学校長ゴリンジャー、キャロラスを挑発しては常に事件に引っ張り出そうとする悪ガキのルーパート、ミステリマニアの農場主など、個性溢れるキャラクターたちが登場し、キャロラスと英国漫才を繰り広げる。適度にカリカチュアされた登場人物たちのやりとりは、ちょっぴり毒も含みつつ英国らしい上質なくすぐりに満ちあふれている。
 ウリとまでは思わないが、このユーモア要素がなけれれば、ずいぶん味気ない物語になる可能性はあっただろう。

 ちなみにキャロラス・ディーンのシリーズは全部で二十三作。過去に『ジャックは絞首台に!』『骨と髪』の二冊が出ているから、未訳は二十冊も残っている計算だ。っていうかウィリアム・ビーフものだってまだ四つほど残っているんだよなぁ。
 レオ・ブルースは全作紹介されるだけの価値はあるはずなんで、頼むからどこかの版元が名乗りをあげてくれないか。頼むよ。



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 天気がいいので山中湖へ突然ドライブへ行くことに。中央自動車道が滅多にないくらい空いており、とにかく快適。花の都公園、忍野八海、鳴沢氷穴などを巡る。富士五湖方面はペットOKのレストランも多く、犬連れドライブには大変便利である。

 読了本はレオ・ブルースの『骨と髪』。
 歴史教師にして素人探偵としても知られるキャロラス。彼のもとへ校長の親類だというチョーク夫人が訪ねてきた。従妹アンが行方不明になったが、その犯人は財産を狙った夫の仕業だというのだ。ところが調査を進めるうち、不可解なことが起こる。アンに関する証言がまったくバラバラなのだ。ある者はアンが長身だといい、ある者は小柄でぽっちゃりしているといい、そしてまたある者は……。果たして事件の真相は?。

 ミステリにクラシックブームが起こり、個人的にもっとも認識を新たにできたのがアントニイ・バークリーとこのレオ・ブルースである。とりわけレオ・ブルースは地味な作風ながら、毎回ひねくれた趣向を凝らしてくれ、それがむちゃくちゃツボなのである。意外な犯人とか驚愕のトリックとか、そういう驚きとはひと味違う、まったく予想外のサプライズをもってくるのが、ブルースの最大の魅力ではないだろうか。
 本作もとにかく地味。ストーリーはほとんどキャロラスの聞き込み捜査で、派手な展開とはまったく無縁である。しかも伏線をけっこうガシガシ張ってゆくので、結末もけっこう想像しやすく、今作はだめかなと思っていたのだが……いやいや、実にお見事。読み終えたときに楽しくなる本格、いまどき貴重である。

 残念ながらこの作品を最後にブルースの翻訳が止まっているようだが、どこかで出版予定はあるのだろうか。ここまできたら未訳作品もすべて読みたいのだがなぁ。


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 『三人の名探偵のための事件』『死体のない事件』『結末のない事件』の三作で、日本でもその実力が見直されつつあるレオ・ブルース。本格ミステリ作家としての手腕もさることながら、ここかしこに散りばめられた探偵小説ファンへのアンチテーゼというか風刺というか、それも人気の秘密だろう。本日の読了本、翻訳としてはもっとも新しい『結末のない事件』では、それがひときわ強烈である。

 警察を辞め、私立探偵を開業したビーフのもとに、ピーター・フェラーズと名乗る依頼人がやってきた。兄スチュアートが医師ベンスンを殺害したかどで逮捕されてしまったので、ぜひその罪を晴らしてほしいというものだ。ベンスンが殺害されたのはフェラーズ家の書斎。鋭利な刃物で首を切られているところを発見されたらしい。フェラーズ家の主人スチュアートは前夜ベンスンと口論しており、加えてアリバイや凶器についていた指紋などから、スチュアートの有罪は動かないようにも思える。果たしてビーフは裁判開始までに真相を解き明かすことができるのだろうか?

 結論から言うと、これは会心の作といってもよい出来映えである。
 ただし、ハッキリ言って展開はかなり地見め。ビーフの捜査は海を越えるなど多少の動きはあっても、そのほとんどが聞き込みに終始しており、しかも事件に大きなうねりなどもないので、アッという間に裁判までなだれ込んでしまう。
 それを救っているのが、傲慢なまでのワトソン役ライオネル・タウンゼンドの存在だ。通常のワトソン役といえば、あくまで事件の記述者にして語り部であり、自分の推理など披露することもなく、探偵に振り舞わされるだけの存在である。だがタウンゼンドは違う。彼は自らも推理するし、あまつさえビーフよりも自分の方が頭はいいとさえ考えている。しかもそれでいて気にするのは自分の書くミステリ(つまりビーフの探偵譚)のことばかり。事件の途中でも、いまは中だるみの時期なのだとか、他の探偵の活躍だとかを常に気に病んでいる始末。他のミステリの探偵たちの名前もばんばん出してくる。これがめっぽう面白い。前述のように、それはパターン化された探偵小説の揶揄になっているのだが、作者は逆にそれによってミスデレクションを誘っている気配もあるから油断できない。まあ、そんなことを気にしなくても十分楽しめるのだが。

 だが、本当にこの作品がすばらしいのは、やはりその結末に驚かされるからだろう。やや唐突な感じがしないでもないが、終盤のたたみ掛けは圧巻。すべてのピースがパシッとはまり込み、この一見平凡に見えた事件が、実は大変手の込んだ事件だったことが明かされる。タイトルの意味も一度読んだら納得。
 バークリー同様再評価が進むブルースだが、残念ながらこちらは本書で翻訳がストップしている。まだまだ傑作が残っていそうな作家だけに、ぜひとも残りも翻訳してほしい。


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