もそもそと読み終えたのが『O・ヘンリー・ミステリー傑作選』。
わざわざO・ヘンリーが何者か説明するまでもないだろうが、一応書いておくと、彼は1900年代初頭に活躍したアメリカの流行作家。
義理人情を描きつつ、鮮やかなオチを利かせた短編が得意。服役生活なども経験していることから、文壇の寵児として騒がれたという。映画化もされたり教科書にも載るぐらいだから、メジャーな話は徹底的にメジャー。あまり本を読まない人でも「最後の一葉」ぐらいは読んだり、観たり、聞いたりしたことはあるはずである。
短編集はけっこう各出版社から出ているはずだが、解説で彼の著作が意外と翻訳されていないことを知って驚く。要は重複が多すぎるらしい。この作品集は、評論家であり翻訳者でもある小鷹信光氏が、そんな未訳作品の中からミステリーチックな短編を集めたもので、実は今はなき雑誌『EQ』でいくつか掲載されたものであると記憶している。
収録作は以下のとおり。
The Marionettes「あやつり人形」
Vanity and Some Sables「虚栄と毛皮」
The Confession of ...「X嬢の告白」
The Dissipated Jeweler「不貞の証明」
After Twenty Years「二十年後の再会」
Tommy's Burglar「少年と泥棒」
The Tale of a Tainted Tenner「汚れた十ドル札の物語」
A Little Talk about Mobs「リンチ異聞」
A Retrieved Reformation「とりもどされた改心」
The Clarion Call「天の声」
Cherchez la Femme「女を探せ」
Buried Treasure「隠された宝」
Calloway's Code「キャロウェイの暗号」
The Ransom of Red Chief「赤い酋長の身代金」
Two Thanksgiving Day Gentlemen「感謝祭の二人の紳士」
Squaring the Circle「地獄で敵に」
Holding Up a Train「ある列車強盗の告白」
The Robe of Peace「平和の衣」
Whistling Dick's Christmas Stocking「口笛ディックのクリスマス・プレゼント」
The Dream「死刑囚の夢」
The Adventures of Shamrock Jolnes「シャムロック・ジョーンズの冒険」
The Sleuths「シャムロック・ジョーンズ対名探偵」
The Detective Detector「怪盗、名探偵を捜す」
Conscience Art「詐欺師の良心」
Innocents of Broadway「ブロードウェイのお人好い」
Shearing the Wolf「狼の毛を刈れ」
The Octopus Marooned「孤島の事業主」
The Ethics of Pig「豚の教え」
個人的に気にいったのは「あやつり人形」「虚栄と毛皮」「X嬢の告白」「不貞の証明」「二十年後の再会」「とりもどされた改心」など。
捻ったオチ、コミカルな語り口はもちろん楽しいのだが、しっかりとほろ苦い人間ドラマが加味されているところなどが上手い。この辺が凡百の類似作家とO・ヘンリーの差ということになるのだろう。