いよいよワールドカップも近づいてきたので、サッカーにちなんだミステリーを読んでみる。本日の読了本は、タイトルもそのものずばり『ワールドカップ殺人事件』。しかも著者はあのペレだ。
出版されたのは前々回のワールドカップの頃だったと思うが、いやあ、それにしてもよくこんな契約がとれたものである。版元も契約が成立したときは思わずガッツポーズが出たのではなかろうか。スーパーエクセレントビューティフルゴ〜〜〜ル!!てな感じですか。
ストーリーを一応紹介すると……ついに開幕したアメリカ・ワールドカップ。アメリカが地元の利を活かし、とうとう決勝まで上り詰める。ところがそんなとき、アメリカ代表に有力選手を送っているクラブチームのオーナーが何者かに殺される。被害者の頭にはスパイクシューズの跡が(笑)! 生前の被害者には敵が多く、関係者はいずれも怪しい奴ばかり。さあ、犯人は誰かというフーダニットものだ。
サッカーをネタにしたエンターテインメントとみれば、本書は決して悪くない。残念なのはミステリとしてはまったくの駄作というところであろう。え、そんなもん聞かなくてもわかるって? そりゃそうだ。門外漢の著名人に書かせたミステリが成功した例なんて聞いたことない。
とにかくスポーツ記者の主人公と心理学者のヒロイン、主人公を脅迫して捜査させる刑事、主人公の上司など、どいつもこいつも頭が悪くて嫌な性格の連中ばかり。設定も無理があるし、オチもすぐに予想できるものだ。
まあ、これをペレが自分で書いたというのであれば、けっこうやるねと言うことはできるだろう。ただ、いくらサッカーの神様であろうとそんな簡単にミステリを書けるはずもないので、気になるのは誰がゴーストしたかという点。そしてペレがどこまで執筆にかんでいたかという点だろう。
前者の答えはハッキリしていて、創元から出版されたゴールドシリーズで有名な(?)ハーバート・レズニコウである。実はこの作者の著書は一切未読なのだが、書評やネットの感想を拾ってみると本格の書き手としてはイマイチの評価しかされていない。
で、後者のペレの関与具合についてだが、勝手に想像する限りではサッカーやワールドカップに関する描写の監修といったところではないだろうか。実際、一読してみるとサッカーの技術や戦術についてはそうとう濃い描写がされており、アメリカがワールドカップで快進撃するという理論的裏付けもしっかりしたものになっている。
例えばアメリカの基本戦術をブラジル+オランダ式の融合にするというくだりや、決勝でアメリカと対戦する東ドイツ(ただ米×東独という決勝の組合わせは変えてほしかった)が徹底した組織プレイで全員守備全員攻撃をかけるというくだりなど。また、商業主義に走ろうとするアメリカのサッカー協会の動きも興味深い。
まあ、たまに変な描写もあるが、ゲテモノ好きのミステリファンなら読んでおいてもいいかも、という程度か。ワールドカップの前に気分を盛り上げるために読む、という手もあるが、逆に萎えないようご用心。