土曜をかなりだらだらと過ごしたためけっこう体力も回復。本日は何となく目覚めもよかったので、御岳山まで紅葉見物。見頃にはまだ気持ち早い感じだったが、それなりに命の洗濯を済ませる。ただ、茶屋で食った昼のカツ丼だけは死ぬほど不味かった……。
以前にダニエル・ペナックという作家の『人喰い鬼のお愉しみ』という本を読んだことがある。これがなかなか面白い小説で、一応はユーモア・ミステリという謳い文句で発表された作品なので、まあ面白いのは当たり前なんだけれど、本質がミステリとは別のところにある印象。独特のクロスオーバー感というべきか、あまりジャンルに囚われない作風がなんともいえない味を醸し出す。日本でも白水社という版元から出たのも頷ける話だ。
本日読んだ『片目のオオカミ』は、そんな作者が書いたジュヴナイルで、これがやはり一癖もふた癖もある作品であった。
動物園で出会った片目のオオカミとアフリカと名乗る少年。オオカミは人間に傷つけられた過去を持ち、生きる気力すら失っている。アフリカはそんなオオカミの心を溶かし、やがて一人と一匹はそれぞれの物語を語りあう。そして物語が終わったとき……。
表面的には動物と人間の触れあいを描いている。それはイコール人と自然との共生であり、環境の保護であり、友情と愛などを描いているということであろう。本作が児童文学であることを考慮すると、非常にわかりやすいテーマではある。
だが実際に読んでみると、本作がそんなに単純なものではないことがすぐにわかる。上で書いた主題にしても、無理矢理に紋切り型にはめただけの話で、ストーリー展開はいわゆる動物文学や児童文学とはやや離れたところにある。オオカミの話はそれでもだいぶストレートだが、アフリカの話になるとアイロニーも多く含んでいるし、なかなか刺激的な構成と語り口だ。
正直、ジュヴナイルとはいっても、これはかなり高度な物語である。ペナックという作家、只者ではありません。
前々から気になっていたダニエル・ペナックの『人喰い鬼のお愉しみ』を手に取る。
読んだ人の評判を聞く限りでは、けっこう自分のツボをついていそうだし、なにせフランスでベストセラーになったミステリときけば、とりあえず読んでおくしかあるまい。こうみえてもフランスミステリはけっこう好きなのである……と思っていたのがもう五、六年前か。
しかし前述のごとく一応気にはしていたので、我が家の積読コーナーでは比較的いいポジション、しいていえば日本代表の中田のごとく1.5列目ぐらいに置いていたのだが、しょせん積ん読。気がつけばその後もぼちぼちと翻訳されているようで、アマゾンでのぞいてみたら、もう六冊ぐらい日本でも売られておるではないか。しかも白水社以外にも聞いたことがない出版社まで出している。>すいません藤○書店様
でまあ、心を入れ変えて読み始めた次第。
主人公のマロセーヌはデパートの品質管理係に勤務する青年。といっても実際には苦情処理係だ。しかしただの苦情処理ではない。苦情を訴える客の前で上司に徹底的に罵倒され、客の前で泣いてみせることによって客の毒気を抜き、損害賠償を最小限にとどめるという何ともあざとい業務なのだ。いわば「贖罪の山羊」。
そんな憂鬱な毎日のなか、勤務するデパートで連続爆破事件が勃発、しかもその現場にいつもマロセーヌが居合わせることから、疑いはいつしか彼にかかる。もちろん身に覚えないマロセーヌ。自ら犯人探しに乗り出したのだが……。
おお、やっぱりいいじゃん。なるほど形としては一応ミステリの体裁をとっているが、読後感はやっぱりユーモア小説(内容は全然普通じゃないが)だ。
原文はどうかわからないが、訳文は淡々としながらもとぼけた味わい。これが作品のテイストとうまくマッチしている。小ネタもふんだんに取り入れられ、くすぐりだらけである(個人的にはタンタンのネタ、好きです)。とにかく退屈させないテクニックは大したものだ。
設定も馬鹿馬鹿しくてよい。そもそもマロセーヌがこんな仕事を続ける理由が、放蕩母親があちこちでこしらえてくる弟や妹の世話をするためであり、彼は家庭でも「贖罪の山羊」として暮らさなければならないのだ。で、その兄弟姉妹たちがそれぞれ個性爆発しており、面白い味を出している。しかもそれがただの味つけに終わらず、事件にも絡めているところがうまい。
例えば占星術に凝っている妹の一人が、次の爆破事件の日を占星術によって的中させるところなどは、大変にあほらしく、なおかつお見事。おまけにジュリユスという愛犬までも事件でなかなか重要な役目を果たす。本筋とギャグを巧みにミックスさせる手法はかなり達者だ。
ただ、ミステリとして過剰な期待をかけるとやはりだめでしょう。決してつまんないというわけではない。先述の占星術ネタなど、斬新とまではいかないが(先例がいくつかあるし)、作品のおバカなムードにうまく合ったネタを用意している。あまりミステリということにこだわらず、純粋に小説世界にひたるのがよい。
よし、続編も読むぞ。>いつ?