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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジャック・オコネル『闇に刻まれた言葉』(ヴィレッジブックス)

 仕事で某有名声優さんのインタビューに立ち会う。声は可愛らしいが、インタビュアーの質問によどみなく答える様はさすがプロ。優等生的な答えも多かったが、いろんなしがらみもあるだろうし、それは良しとしましょう。

 本日の読了本はジャック・オコネル『闇に刻まれた言葉』。早川書房から『私書箱9号』『妨害電波』が出てからはや七年。独特の世界観でハードボイルドを表現したオコネルが久々の登場である。

 前作、前々作での濃厚な世界観を堪能させてもらい、密かにお気に入りマークをつけていたが、いや、今回は辛かった。
 闇を生み、悪をはぐくむ街、クインシガモンド。その街の廃墟で川を剥がされ、肉を切り刻まれた惨殺死体が見つかる。被害者を最後に目撃したタクシー運転手にして元刑事のギルレインに、その日から追っ手が迫る。彼らの求めるものは被害者が隠した一冊の稀覯本らしいのだが……。

 カバー表4に書かれた粗筋はこんな具合で、これだけ読むと正当派ハードボイルドorサスペンス調だ。
 しかしひとたびページをめくると、これがそんな生易しいものではないことがわかる。ハードボイルドはもとより哲学や神話といったクロスオーバーな世界が、暗喩や直喩、激しいカットバック、多重進行などの手法でもって繰り広げられる。誰が行動しているのか、誰が考えているのか、そもそもこれは現実か幻か、物語の展開はかなり掴みにくい。読者としてはその狂気暗黒の世界、肉と化した言葉の世界に、身を委ねられるかどうかで、評価が大きく変わるだろう。

 正味な話、これはだめだった。ノワールが好きな管理人でも、これをノワールの佳作といって人に勧めることはできない。作者がどこまで計算しているか気になるところだが、(いろんな意味で)どうにも荒すぎるこの言葉の奔流が、本当に必要なのかどうかは疑問だ。
 翻訳された過去の作品でもその物語は独特のものだったが、ここまでではなかったはず。カバー表4の紹介文では「新世代ノワール」とあるが、これはもうノワールでもないよね。この作品を絶賛したというJ・エルロイの作品はノワールだが、『闇に刻まれた言葉』はあくまでオコネル独自のものだ。それだけは言える。

 実は『妨害電波』と『闇に刻まれた言葉』の間に、一冊未訳のままになっている作品があるらしい。しかも訳者によるとこれが傑作とのこと。こうなったらそれも出版してもらわないと、このままではどうにも消化不良。う〜ん、こちらの頭が悪いのか。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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