fc2ブログ

探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ベン・ベンスン『燃える導火線』(創元推理文庫)

 早いもので一月ももう終わり。とりあえず日記を続けることができて私的には満足。仕事が忙しいわりにはけっこう本も読めたし、まずまずの出だしといってよいかも。

 さて、今月最後の読了本は、ベン・ベンスン『燃える導火線』。いまどき、この人の感想なんて書いてるのは管理人ぐらいだろうな、たぶん。ベンスンは1950年代に活躍した作家で、主に手がけていたのは警察小説。作風はよく言えばけれん味のない、悪く言えば地味なものが多く、警察の地道な捜査を忠実に描いていくものが中心になる。

 この作品もその例にもれず、主人公のパリス警視が同僚の刑事らと共に、爆弾による脅迫事件と女優の別荘で起こった殺人事件を、同時進行で追っていく。まあ、こう紹介すると、なかなか派手な感じは受けるが、それほど激しい動きがあるわけでもなく、謎もすぐ割れるものだ。っていうか爆弾事件の方なんて謎でも何でもないんだけど。

 じゃあつまんないじゃん、って思ってるそこのあなた。それがちょっと違う。ベンスンが語りたいのは、プロットやトリックではない。彼が目を向けるのは警官や犯罪者の心理や心情であり、極論を言えば、正義に対する期待なのだ。
 まあ、かっこよく言うと彼は人間を信じている。警察という組織を信じている。その暖かな視点で殺伐とした物語を紡いだとき、ベンスンの作品は得も言われぬ読後感を与えてくれるのだ。

 最近の作家、例えばジェフリー・ディーヴァーあたりと比べれば、ボリュームはないし衝撃もない。必読かと言われれば、ためらいもする。でも縁があったらぜひ手にとってもらいたい(といっても現役なのは同じく創元の『脱獄九時間目』くらいだと思うけど)。こういうミステリもあるんだよ、と。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー