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 論創ミステリ叢書の『浜尾四郎探偵小説選』を読む。戦前派には珍しく、論理を前面に押し出した本格探偵小説の書き手として知られる浜尾四郎。その短編と評論の選集だ。
 正直、論創ミステリ叢書の恐ろしいまでのラインナップからすると、本書などは比較的地味というか、かなりお買い得度が落ちるところではある。というのも短編の方は「富士妙子の死」以外すべて桃源社の『殺人小説集』にも収録されているからだ。むしろ注目すべきは評論関係が収録されているところなのだろうが、個人的にはどうせなら浜尾四郎の短編全集にしてほしかった。なんか収録作が中途半端な感じなのである。
 それでも現時点で浜尾四郎の短編を読もうとすると、アンソロジー等を探すしかないはずなので、初めて浜尾四郎を読もうという人には便利なのだろう。『殺人小説集』は古本でしか入手できないこともある。ただねえ、少なくとも『浜尾四郎探偵小説選』を買おうとするような人間であれば、大抵は『殺人小説集』を持っているのではないかなぁ。古書価もそれほど高くないし。
 なお、収録作は以下のとおり。感想は『殺人小説集』の方を参考に。

【創作編】
「彼が殺したか」
「黄昏の告白」
「富士妙子の死」
「正義」
「島原絵巻」
「探偵小説作家の死」
「虚実」(「有り得る場合」)
「不幸な人達」
「救助の権利」

【評論・随筆編】
「探偵小説の将来」
「運命的な問題」
「筆の犯罪」
「江戸川乱歩の持ち味」
「探偵小説作家の精力」
「江戸川乱歩氏について」
「探偵小説を中心として」
「犯罪文学と探偵物」
「アンケート」

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 年明けからまずまず調子よく読書は進んでいるが、仕事が楽になったわけでもなく、相変わらず色々な業務が同時進行していく。今週も中途採用のための面接&選考だとか、社内のレイアウト変更のための調整や準備だとか、部下が制作中の書籍・印刷物のチェックだとか、出版されたばかりの本の動向の調査だとか、制作業務のレジュメ草案チェックだとか、研修のための草案チェックだとか。編集が本職なのだが、実際にやっているのは管理職的な仕事ばかりなので(まあ、こっちも本職なんだけど)、自分でもいっぱいいっぱい。根が楽天的だからやっていられるけど、ストレス溜まります。
 そんな中、ストレス解消にもってこいの一冊が、浜尾四郎『博士邸の怪事件、他1編』。解消できませんかそうですか。

 『博士邸の怪事件』は、著者の初の長編、そしてシリーズ探偵藤枝真太郎の初登場作品としても知られている。ヴァン・ダインの作品に出会って本格の道に目覚め、変格ものが多い戦前の探偵小説界にあって、ひとり気を吐いた観のある浜尾四郎。後に『殺人鬼』や『鉄鎖殺人事件』という傑作を生むが、この作品ですでに本格への志向ははっきりと示されている。ストーリー中でそれなりの動きはあるにせよ、筋の大半は警察、検察、そして藤枝の推理合戦的な展開を見せていく。ある程度、容疑者が絞られていることもあって、動機やアリバイ、犯罪の機会、証拠などが繰り返し語られ、その都度、容疑者が二転三転する様は、浜尾のめざすところが如実に顕れていると言えるだろう。
 ただ悲しいかな、『殺人鬼』や『鉄鎖殺人事件』の出来には遠く及ばない。まず、これは『殺人鬼』などにも共通することだが、それほど事件に魅力がないのが辛い。また、怪奇性やペダンティズムなどの味付けもほぼ皆無。
 そしてもっともいただけないのが、事件の中心となる謎&トリックが、インチキ同然のネタであること。海野十三のように初めから科学を越えたところで成り立っているような作品群ならいざ知らず、浜尾四郎のような本格プロパーのする仕事ではない。
 さすがに読後はガックリきたが、こういう作品もあるから昭和初期の探偵小説は止められないのである。うむむ、フォローになってないな。

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 浜尾四郎の唯一の短編集『殺人小説集』(桃源社)読了。浜尾四郎の短編を読もうと思ったら、創元推理文庫版が現役なので一番手っ取り早いが、収録数でいったらやはりこの桃源社版か全集ということになるだろう。ただ、全集は哀しいかな高い。こっちだって安くはないけど、浜尾四郎の作品を気に入ったのなら買っておいて損はない。収録作は以下のとおり。

「彼が殺したか」
「死者の権利」
「悪魔の弟子」
「殺された天一坊」
「島原絵巻」
「正義」
「探偵小説作家の死」
「黄昏の告白」
「夢の殺人」
「彼は誰を殺したか」
「有り得る場合」
「肉親の殺人」
「マダムの殺人」
「不幸な人達」
「救助の権利」

 元検事という経歴が色濃く顕れ、法律や裁判の在り方などを問う、言わば社会派といった作品が多い。まあ、社会派とはいっても松本清張以後のそれとは雰囲気が違う。当時はともかく現在これらの作品を読んで「法律とはいったい何なのだ?」などと考える人もあまりおらんだろう(いたらゴメン)。それよりは数少ない戦前本格作家の妙技を素直に楽しんだ方が良い気がする。「殺された天一坊」などは大岡越前ものというかなりの異色作で、アンソロジーなどにもよく採られており、この作家の意外な面も見ることができる。あ、でも大岡越前だって一種の法律ものかぁ(笑)。

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 先日の『殺人鬼』に続き、『鉄鎖殺人事件』を一気読み。
 こちらは初読だったが『殺人鬼』に勝るとも劣らぬ出来映え。事件そのものが地味ということもあってややインパクトに欠ける面はあるが、とにかく本格探偵小説かくあるべしという著者の意気込みが伝わってくる。それが大変に心地よい。伏線の張り方や登場人物の配置なども細かく計算されており、探偵役の藤枝真太郎の謎解きもお見事。無駄な描写を排除した、徹底的なロジックを求める造りが、実にまっとうである。
 また、『鉄鎖殺人事件』には、『殺人鬼』にはない大きな長所がひとつある。それは良い意味での軽さ。ワトソン役の小川がとにかく事件を引っ掻きまわす楽しさがあり、それが上質なユーモアをキープしている。無理矢理なドタバタではなく、事件にも自然に絡めているので(いや、まあ自然じゃないところもあるんだけどね)、『殺人鬼』に比べるとリーダビリティは高い。インパクトでいくなら『殺人鬼』に軍配が上がるだろうが、個人的には『鉄鎖殺人事件』の方が好みだ。
 もちろん多少の古くささはあるし疵もある。『殺人鬼』と同様、その設定や展開だけで犯人の予想がつきやすいというのも残念だ。だがそれらの欠点すら古典の風格のようなものに感じるから不思議だ。
 先日の繰り返しになるが、こういう本格探偵長編を書ける作家が戦前の日本にいたということに、とにかく驚く。浜尾四郎の感想はそれに尽きる。

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 浜尾四郎『殺人鬼』読了。ややネタバレになるのでそのつもりで。

 先日の日記にも書いたとおり、『殺人鬼』は昭和6年に発表されたとは思えないほどしっかりした本格探偵小説である。ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』に触発され、真っ向から挑んだ作品だが、変なペダンティズムとかは加えていないので、ある意味本家よりも本格らしい。
 ただ、ペダンティズムが不要なのかというと必ずしもそんなことはなく、上手にやればテイストとして十分に効果を発揮するわけで、そういう意味では味つけ(別にペダンティズムというわけではなくプラスαという意味で)にもう少し凝ってもよかったのではないかとも感じた。例えば横溝正史の場合、それがドロドロした田舎の因習や血縁関係などであるわけだが、浜尾四郎の本作の場合、それらの要素が多少なりともないことはないのだが、いたってストレートに事実関係で押してくるだけなので、やや物足りない感もある。まあ、それが浜尾四郎の作風といえば作風なんだろうが。
 しかし本格探偵小説としての仕上がりは見事である。やや構成に粗いところもあるが、質自体はいま出版されても十分OKだろう。特に初出が新聞連載だったことを考えると、この完成度は素直にすごいと思う。
 残念なのは、この人物設定だけで犯人が簡単に想像できてしまうところか。当時は斬新だったろうが、いや、当時でもすでに『黄色い部屋の謎』があったはずなので、そのあたりにもう一捻りあるとよかっただろう。贅沢な希望ではありますが。
 とにかく古典でありながら、ここまで完成された本格探偵小説は、日本では大変希な存在。歴史的にも内容的にも、ミステリマニアは必読の一冊であろう。

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