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 エラリー・クイーンの『ミステリの女王の冒険』を読む。1970年代にアメリカで放映されたテレビドラマ『エラリー・クイーン』のシナリオ傑作選であり、『刑事コロンボ』で知られるリンク&レヴィンソンが制作総指揮を務めている。残念なことに商業的にはコロンボのような成功を収めなかったものの、そのクオリティはファンや専門家の間で高く評価されたという。

 ミステリの女王の冒険

The Adventure of the 12th Floor Express「十二階特急の冒険」
The Adventure of the Chinese Dog「黄金のこま犬の冒険」
The Adventure of the Mad Tea Party「奇妙なお茶会の冒険」
The Adventure of the Wary Witness「慎重な証人の冒険」
The Adventure of the Grand Old Lady「ミステリの女王の冒険」

 収録作は以上。
 最近読んだクイーンのラジオドラマ集『ナポレオンの剃刀の冒険』や『死せる案山子の冒険』に比べると、本書のテレビドラマ集は放送時間が長いこともあってか、かなりしっかりした作りである。ボリュームも中編レベルで、内容も複雑。放映時間は一時間だったらしいが、これでよくその中に収まったものだと思えるほどだ。
 もちろんボリュームがあっても質が低ければ意味はないが、本書はその点でも十分に及第点。ラジオドラマのようなキレには欠けるが、本書ではドラマとしての面白さがある。

 ただ、ラジオドラマ集と違って、こちらはクイーンが直接手掛けたものではなく、あくまで名義貸しや作品提供に近い。それでもこれだけの水準に仕上がったのは、リンク&レヴィンソンがしっかりしたミステリマインドの持ち主だったこと、そしてクイーンの成功したラジオドラマをかなり参考にしたことが大きいだろう。まあ、本書はクイーンとリンク&レヴィンソンの合作みたいなものだから、成功しようがしまいが、ファンならこれは読むしかないんだけどね。
 なお、作品そのものとは関係ないが、本書は解説も恐ろしいほど充実していて、正直、その部分だけでも買いである。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 先日読んだエラリー・クイーンのラジオ・ドラマ集『ナポレオンの剃刀の冒険』に続いて、第2集となる『死せる案山子の冒険』を読む。とりあえず収録作から。

The Adventure of the Last Man Club「〈生き残りクラブ〉の冒険」
The Adventure of the March of Death「死を招くマーチの冒険」
The Adventure of the Man Who Could Double the Size of Diamonds「ダイヤを二倍にする男の冒険」
The Adventure of the Woman in Black「黒衣の女の冒険」
The Adventure of the Forgotten Men「忘れられた男たちの冒険」
The Adventure of the Dying Scarecrow「死せる案山子の冒険」
The Adventure of the Lost Child「姿を消した少女の冒険」

 死せる案山子の冒険

 解説によると『ナポレオンの剃刀の冒険』がパズル色を打ち出した初期の国名シリーズっぽいものを収録したのに対し、本書では後期のライツヴィルもののテイストに近い作品を選んだという。
 実際、読んでみると、人物造型には確かに違いが感じられる。『ナポレオンの剃刀の冒険』での無邪気なエラリーは影を潜め、真相にたどりつくまでにけっこう悩み苦しみ、人間くさいところを見せるなど、後期のエラリーっぽい姿が印象的。ニッキーもイケイケではなく、かなり落ち着きが出ていてひと安心である(笑)
 事件の内容についても比較的シリアスタッチで深刻なものが多く、この点もライツヴィルものを連想するところだろう。なかには少々重すぎるものもあって、クイーンがよくこんなヘビーなネタをラジオの娯楽ドラマで書いたものだと驚かされる。

 肝心の謎解きドラマとしては、前作に引き続き安定したレベル。凝ったものはあまりないが、ネタがストーリーに上手くマッチしており、より効果的に描かれているといったところか。
 特に印象に残ったのは、最後に生き残ったものが金を総取りするサークルの設定と、意外な犯人が印象的な「〈生き残りクラブ〉の冒険」。読者の先入観と特殊な設定の二つを逆手にとった「ダイヤを二倍にする男の冒険」。ライツヴィルものの雰囲気濃厚な、田舎の家屋の悲劇を描く「死せる案山子の冒険」あたり。
 そしてなんといっても誘拐事件を扱ったラストの「姿を消した少女の冒険」を忘れてはならない。純粋な謎解きミステリとしての要素だけでいうなら他にもいいものはあるが、ストーリーやサスペンスも含めればこれがピカイチ。内容もヘビーで、ラストの衝撃もなかなか。これだけでも本書を読む価値はあるだろう。

 ということで本書も十分に満足のいく一冊であった。それにしてもクイーンが自ら手がけたとはいえ、ぶっちゃけシナリオ集ということでそこまで期待していなかったのだが、『ナポレオンの剃刀の冒険』、『死せる案山子の冒険』ともに実に読ませる。
 クイーンのシナリオ集ではまだ『ミステリの女王の冒険』と『犯罪コーポレーションの冒険』が未読なので、ああ、これは楽しみが増えました。


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 基本的に叢書やシリーズ本などはなるべく若い番号順で読むことにしているのだが、買った本をどんどん積んでいると、いつのまにか目当ての本がどこにあるかわからなくなり、いつしか読み忘れのままになってしまうことはよくある話。積ん読の悲劇である。
 本日の読了本、エラリー・クイーンの『ナポレオンの剃刀の冒険』も、やはり長らく埋もらせていた一冊で、先日、ようやく積ん読のなかから発見して読むことができた次第である。
 原書は2005年に刊行された『The Adventure of the Murdered Moths and Other Radio Mysteries』。邦訳版では本書と『死せる案山子の冒険』の二分冊という形で出版されている。

 ナポレオンの剃刀の冒険

 さて『ナポレオンの剃刀の冒険』だが、本書はクイーン父子が活躍するミステリ・ラジオドラマのシナリオ集だ。
 クイーンの聖典以外の作品はラジオやテレビのシナリオ集からノヴェライズ、名義貸しから代作、ダネイやリーの片方だけが参加したものなど、とにかくいろいろなものが存在する。ジャンルも本格にかぎらずスリラーからハードボイルド、ノンフィクションやジュヴナイルまで書かれ、出来もまさに玉石混交。ぶっちゃけクイーンの作品を読んでいるという実感には乏しいものが多かったのだけれど、本書は例外。
 なんせクイーンが直接シナリオを手がけたラジオドラマ「エラリー・クイーンの冒険」から優れたものだけを集めた傑作集である。しかも収録作が書かれた(放送された)のは1939年から1948年。国名シリーズがひと息ついて、ハリウッドものから後期のライツヴィルものへと移行した時期であり、まさにクイーンの成熟期といってもいい頃だ。そのクイーンがラジオドラマのために、あえて国名シリーズのスタイル、つまりパズル重視、ガチガチの本格で書き起こしたシナリオである。また、テイストも国名シリーズからハリウッドものにかけての雰囲気を打ち出し、クイーン警視はもちろん秘書のニッキー、ヴェリー部長刑事などレギュラー陣も総登場し、おまけに“読者への挑戦状”までが用意されている。
 視聴者は普段ミステリを読まない人も想定しているため、聖典ほどの複雑な謎はないけれど、この世界観でクイーンの活躍が新たに読めるだけで十分幸せ。これをつまらないといってはバチが当たるだろう。まあ個人的にはちょっとニッキーがうざいけれど(笑)。

The Adventure of Napoleon's Razor「ナポレオンの剃刀の冒険」
The Adventure of the Dark Cloud「〈暗雲(ダーク・クラウド)〉号の冒険」
The Adventure of the Bad Boy「悪を呼ぶ少年の冒険」
The Adventure of Mr. Short and Mr. Big「ショート氏とロング氏の冒険」
The Adventure of the Haunted Cave「呪われた洞窟の冒険」
The Adventure of Murdered Moths「殺された蛾の冒険」
The Adventure of the Black Secret「ブラック・シークレットの冒険」
The Case of the Three Macklins「三人マクリンの事件」

 収録作は以上。なにせ一時間もしくは三十分という短いドラマなので、先ほど書いたように複雑なものは少ないが、それでも一時間ものはどれも六十ページ余りあって満足度は高い。
 実は冒頭の「ナポレオンの剃刀の冒険」、「〈暗雲(ダーク・クラウド)〉号の冒険」がちょっとネタがわかりやすすぎるという感じだったので心配したのだが、『Yの悲劇』を連想させる「悪を呼ぶ少年の冒険」、ホームズの未解決事件を解き明かす「ショート氏とロング氏の冒険」、何は無くとも不可能犯罪「呪われた洞窟の冒険」で一気に持ち返す。そしておそらく本書中のベスト「ブラック・シークレットの冒険」とくるわけで、いやあ、久々に黄金時代の本格を堪能したという感じである。

 ちなみに本書の翻訳と解説はクイーン研究家として知られる飯城勇三氏が担当。収録作の解説と資料のボリュームが尋常ではなく、こちらもぜひ一緒に楽しんでほしいところである。


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 エラリー・クイーン名義で書かれたパイパーバックから、本格テイストの傑作?を集めた「エラリー・クイーン外典コレクション」の三冊目、『熱く冷たいアリバイ』を読む。
 『チェスプレイヤーの密室』、『摩天楼のクローズドサークル』と読んできて、いずれもまあまあの出来だったが、掉尾を飾る本作の出来は果たしてどうか。

 舞台はアメリカのとある小都市。その一角で暮らす四組の夫婦がいた。高校教師デイヴィッドとナンシーの夫妻、会計士ラリーとライラのコナー夫妻、医師ジャックとヴェラのリッチモンド夫妻、靴屋店主スタンリーとメイのウォルターズ夫妻である。
 互いに思うところもあれど表面的にはなんとかご近所づきあいを保つ四組は、今宵も揃ってホームパーティーを催していたが、コナー夫妻の仲がどうやら危うくなっているらしく、最後は何やら気まずい雰囲気でお開きとなる。
 その翌日。隣家のライラの様子が気になったナンシーがデイヴィッドやジャックを誘って様子を見にいくと、そこには何とライラの死体が。しかも夫のラリーまでもが事務所で死体となって発見される。
 一見、ラリーがライラを殺害し、その後自殺を図ったかに見える事件だったが、捜査を担当したマスターズ警部補には納得できないところがあった……。

 熱く冷たいアリバイ

 本作の代作者はフレッチャー・フローラ。ほとんど知らない作家だったが、〈マン・ハント〉や〈ヒッチコックマガジン〉等で活躍し、クイーンの代作も三冊ほどあるらしい。
 ただ、ミステリ専業というわけではなく、また、ミステリにしても犯罪小説やサスペンス系がメインのようで、その評価も人物描写や文体というところにあったようだ。
 実際、本作でも人物描写はなかなか達者で、ともすれば混乱しがちな四組の夫婦について、しっかり個性を持たせて描き分けている。

 肝心のミステリとしての出来だが、タイトルにもあるとおりアリバイ崩しがメイン。フーダニット要素もちゃんと加えられており、本格プロパーでない割には手堅くまとめている。
 だが、いかんせん中身が淡泊というか小粒というか。ストーリーや事件自体に魅力が乏しく、また、手堅くまとめてはいるものの、先が読みやすいという弱点はあるだろう。

 ただ、実は一番気になったのは、そんな弱点よりも、むしろ四組の夫婦のキャラクターである。いまひとつ感情移入しにくい、どころか理解できない面があって、それはアメリカならではの人間関係のベタベタ感。全組、子供がいない夫婦とはいえ、他所の夫や妻に興味持ちすぎである(苦笑)。
 極めつけはホームパーティーの場面。多少ハメを外すのは理解できるが、四組入り交じってキス合戦になるとか、もう意味がわからん(笑)。
 当時のアメリカ中流家庭においてこれぐらいは普通だったのか、それとも誇張しているのか判断に迷うところだが、他の翻訳小説でもこんな描写はあまりないように思うので、もしかするとペイパーバックゆえのサービス精神の表れだったのかも。

 というわけで、「エラリー・クイーン外典コレクション」のなかでは最も本格成分が高い気もするのだけれど、むしろクイーンらしさは一番感じられなかった作品。


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 原書房からスタートした「エラリー・クイーン外典コレクション」の二冊目『摩天楼のクローズドサークル』を読む。
 ハウスネームとしてのエラリー・クイーン作品から本格テイストの傑作?を紹介するこの叢書。今回の実作者は、パルプ雑誌中心にライトなハードボイルドを量産した作家リチャード・デミングである。わが国ではポケミスの『クランシー・ロス無頼控』が知られているが、まあ、知られているといっても普通のミステリファンレベルでは、あまり読んだ人もいないだろう。むしろチャーリーズ・エンジェルや刑事スタスキー&ハッチのノヴェライゼーションを書くときのマックス・フランクリン名義の方が知られているかもしれない。
 そんなクイーンとはかなり遠いところにいるイメージのデミングがどのような作品を書いたのか。興味はそこに尽きる。

 友人の私立探偵チャック・ベアと仕事後の一杯をやろうとしていた隻眼の警部ティム・コリガン。だがバーについて間もなくニューヨークを未曾有の大停電が襲った。ティムが本部に連絡を入れると街はもちろん大混乱。騒ぎを収める警官も足りず、ティムは急遽、本部から捜査を指示される。
 現場はニューヨークのとある高層ビル、その二十一階に事務所を構えるバーンズ会計士事務所。そこで死人が出たというのだ。苦労して現場にたどり着いたティムとチャックがさっそく現場を確認すると、当初は事故もしくは自殺と考えられていたが、その状況から明らかに殺人であることが判明する。果たして犯人は当時、二十一階にいた人物の中にいるのか……。

 摩天楼のクローズドサークル

 ううむ、シリーズ第一弾の『チェスプレイヤーの密室』がとりあえず本格の体をとっていたのに対し、本作はほぼハードボイルドタッチ。パルプ雑誌を主戦場にしていた代作者デミングが、そのまま自分の持ち味を生かしている印象だ。探偵役やその他のキャラクター、さらには彼らのやりとりもクイーンテイストはほぼナッシング。クイーンの聖典では滅多に見られないお色気描写も出てくるから驚く。

 ただ、それらはあくまで文章のスタイルやキャラクターの話で、設定はなかなか本格テイスト。
 何より邦題の『摩天楼のクローズドサークル』が示すように、舞台は停電のため一時的にほぼクローズドサークルと化した高層ビルの二十一階。限定された状況で物語が進行し、しかも連続殺人が発生するに及び、その場の中の誰かが犯人であることは決定的となるという展開は魅力的。サスペンスを盛り上げる上でも不可能犯罪興味の上でも俄然輝きを増してくる。
 これでメイントリックがそこそこ良いとか、ロジックを押し出したクライマックスがあれば良かったのだが、その点は惜しくも力不足であった。

 まとめ。クイーンを意識した過大な期待は禁物だが、B級スリラーあるいは軽ハードボイルドとしては途中で退屈もせず、うまくまとまった一作。ただ、個人的には『チェスプレイヤーの密室』の方が楽しめた。


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 エラリー・クイーンの『チェスプレイヤーの密室』を読む。原書房からスタートした「エラリー・クイーン外典コレクション」全三巻の一冊目である。

 1960年代に入って作品の発表ペースが落ちてきた頃、クイーンは新しい読者や市場を開拓するためのブランド展開を考えていた(といってももっぱらマンフレッド・B・リーの考えで、フレデリック・ダネイはほぼ関与していなかったらしい)。そこで発案されたのが、複数の作家でひとつのペンネームを共有するハウスネーム方式。早い話が他の作家にクイーン名義で代作させ、ペイパーバックで量産しようというもの。クイーンというビッグネームでそれをやることのリスク(作品の質という意味で)もあったはずで、実際、ダネイはその点で関わりたくなかったのだろうが、リーは徹底的な監修を入れることを約束して、この話を積極的に進めていった。その結果、他の作家によって書かれた、今ではクイーン聖典と見なされないクイーン名義の作品が二十六作生まれたのである。
 こうしたクイーン外典が日本で出版されるのは、これが初めてというわけではなく、これまでにも『二百万ドルの死者』や『青の殺人』などが紹介されている。ただしリーの監修が入ったとはいえ、出来としてはそれほどのものではなく、紹介はあくまで単発で終わってしまっていた。
 今回の「エラリー・クイーン外典コレクション」はそういった知られざる作品群から、比較的クイーンの香りを感じられるもの、出来のいいものをセレクトして紹介しようという企画である。

 さて、そんなわけで『チェスプレイヤーの密室』である。まずはストーリー。
 小学校の教師アン・ネルソンのもとへ久しぶりに母親が訪ねてきた。別れた父親が再婚したのだが、その相手が亡くなり、莫大な遺産を手にしたのだという。それが面白くない母親はアンに意味深な言葉を残しつつ帰っていった。
 ところがそれから二ヶ月後。アンのもとへ今度は父親が銃で死んだという知らせが入る。場所は完全な密室状態だったため警察は自殺と断じるが、アンには父親が自殺するとはとても信じられなかった。
 父親の身辺を整理する中、やがてアンの前に現れる父親の知り合いたち。父親から譲り受けた遺産が目当てなのか、それとも……?

 チェスプレイヤーの密室

 思ったよりは全然楽しめる。確かにクイーンと言われれば「ええ?」となるかもしれないが、その冠を外せば、本格ミステリとしてはなかなか悪くない出来だ。
 タイトルどおり"密室"テーマの作品だが、オリジナリティという点ではやや弱いかもしれないけれど、プロットにきっちり落とし込まれていて、手がかりや伏線も非常にフェアに張られているのがお見事。特に床に残った本棚の跡、死体には銃痕がひとつなのに銃声は三発聞こえた件などは鮮やかである。

 気になる代作者だが、本書ではSF作家のジャック・ヴァンスが担当。ヴァンスはミステリの著作も少なからずある作家なので、あながちミスチョイスというわけではないだろう。実際、本書で本格が書けることを証明しているわけだし。ただ、解説によるとリーの監修が厳しくて相当に苦戦はしたらしい(笑)。

 ちょっといただけなかったのはアンバランスな登場人物たち。
 ヒロインのアンをはじめとして、探偵役の刑事、父親の知り合いなど、どいつもこいつも不愉快な性格の人物ばかりで、いまひとつストーリーに没入しにくい。まあ事件が生んだ人間関係ゆえ致し方ない面もあるにせよ、せめてヒロインぐらいはまっとうな性格にしてほしかったところだ。サスペンスやロマンスの要素もそれなりにあるのだが、肝心のヒロインが感情移入しにくいから、その効果も半減である。
 このあたり、せっかくペイパーバックという形態を選んだのだから、変にこねた性格にせず、素直に感情移入できるキャラクターにすべきではなかったか。

 ということでキャラクターにはやや残念な部分もあるが、本格ミステリとしては十分に及第点。続く二作目、三作目にも期待したい。


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 『エラリー・クイーンの国際事件簿』を読む。
 クイーンファンには常識だろうが、本書は聖典ではなくノンフィクション。しかもマンフレッド・B・リーが単独で書いたという犯罪実話集である。

 エラリー・クイーンの国際事件簿

 そもそもは1940年代に「アメリカン・ウィークリイ」という雑誌で著名ミステリ作家の書いた犯罪実話を連載した企画があって、それにクイーンも二篇ほど寄稿したらしい。その企画が好評だったようで、今度はクイーンのみ、しかもリー単独で連載がスタートし、後に『エラリー・クイーンの国際事件簿』として刊行されたものだ。ちなみにこの連載はよほど好評だったらしく、ガードナーの連載を挟んで再びクイーンにおはちが回り、それも『事件の中の女』として刊行された。
 本書はなんとこの二冊に加え、さらにおまけとして、きっかけとなった二篇も収録した超お買い得版である。

 と煽ってみたものの、しょせんは余技的な犯罪実話集。似たようなヴァン・ダインの『ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿』にもかなりガックリした経験もあるし、しかも、実は今はなき『EQ』に掲載されたものを数編読んだことがあって、そちらでも退屈した記憶しかない。
 ま、こういう先入観があったにもかかわらず、まとめて読むと意外に面白かった、なんて感想を書ければいいのだろうが、残念ながら印象はやはりそれほど変わらなかった(苦笑)。ただ、ヴァン・ダインのそれに比べればはるかに出来はよく、ミステリとしての期待さえ抱かなければ、暇つぶし程度にはなる。

 ただし、おまけ的に収録されている二編のうちの「あるドン・ファンの死」だけは要チェック。
 ここで取り上げられている事件は、ヴァン・ダインがデビュー作の『ベンスン殺人事件』のモチーフにした事件であり、これをクイーンがどう扱っているかという興味で楽しむことができるわけで、個人的にはこれを読めただけでもまあいいか、てなもんである。
 とはいえ、やはり本書をオススメできるのは、クイーンの熱烈なファンぐらいなんだろうなぁ。


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 遅ればせながらクイーン最後の聖典とされている『間違いの悲劇』を読む。それまでの既刊短編集には収められていなかった中短篇七作に、未完の長篇の梗概を加えた構成で、本国での刊行は1999年。邦訳版では「結婚記念日」が追加されているのが嬉しい。以下は収録作。

The Motive「動機」
Wedding Anniversary「結婚記念日」
Uncle from Australia「オーストラリアから来たおじさん」
The Reindeer Clue「トナカイの手がかり」
The Three Students「三人の学生」
The Odd Man「仲間はずれ」
The Honest Swindler「正直な詐欺師」
The Tragedy of Errors「間違いの悲劇」

 間違いの悲劇

 「動機」はタイトルどおり動機のミッシング・リンクをテーマとする中編。連続殺人を連続殺人たらしめているカギはいったい何なのか、ポイントはその一点に絞られる。加えて田舎の小さな町が徐々にパニックに包まれていく様子や恋愛要素の取り込み方も巧く、ドラマとしても十分楽しめる。

 「結婚記念日」から「トナカイの手がかり」は<クイーン検察局>もの。ネタ的にはダイイング・メッセージをはじめとした言葉遊び的な短篇がほとんどで、正直もうひとつ。

 「三人の学生」「仲間はずれ」「正直な詐欺師」は<パズルクラブ>というシリーズで、<黒後家蜘蛛の会>の逆パターン。解答者が一人、出題者がその他全員という設定で、推理クイズに興じるというもの。クイーンといえどもこの時点で個人的にはかなり萎えた(苦笑)。本格ミステリの本質が「謎とその論理的な解決」=「パズルゲーム」であったとしても、その小説という表現形態までも犠牲にすることはない。これをメタと称するのはさすがに贔屓の引き倒しのような気がする。ネタ的には言葉遊び系も含まれているが、もうナゾナゾのような印象で、読み応えはあまりない。

 「間違いの悲劇」は本書の目玉。これはもう予想以上の出来で、梗概とはいえここまで書いてくれたら十分すぎるほどである。とりわけ秀逸なのはプロットで、クイーンの物語においてこのオフビートな展開はそう味わえるものではなく、しかもそれがある登場人物の意図に基づいて行われた結果であるという点が実に素晴らしい。「悩めるクイーン」と犯人の哲学の対比もかなり面白く、これが完成していれば間違いなく後期の代表作になっただろう。
 解説で、有栖川有栖氏がこの作品の小説化を持ちかけられ、結局は立ち消えになった話を書いているが、これは立ち消えになってよかったのではないか。別に有栖川氏が作家としてどうこうとかではない。梗概とはいえ、この作品がオリジナルとして、他人の手を加えられていない状態で読めること。多くのクイーンファンが望んだのはまずその点だろうから。


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 本日の読了本は、ダニエル・ネイサンの『ゴールデン・サマー』。
 ちょっとした海外ミステリのファンなら、このダニエル・ネイサンが、あのエラリー・クイーンの片割れ、フレデリック・ダネイその人であることはご存じだろう。本書はダネイが単独で書いた唯一の長編小説。しかも1915年当時の少年時代を描いた自伝的小説なのである。

 ゴールデン・サマー

 基本はトム・ソーヤー的少年小説だ。ただ、トム・ソーヤーと違って、主人公のダニーは腕っ節はからきしのひ弱な少年だということ。だが頭の回転は滅法鋭く、豊かな空想力や冒険心は人並み以上に持っている。そんなダニー少年と仲間たちのひと夏の冒険の数々が、本書には描かれている。
 さすがにダネイが書いているだけあって、ミステリ・マインドはあちらこちらに見られる。これもまたその他の少年小説とは大きく違うところだ。幽霊を復活させる話、ホームズの新刊を弁償する話、落とした財布の持ち主をめぐる少年たちの疑似裁判など、楽しいエピソードが詰まっている。

 だが、読み進むうち、そんな表面的な面白さは、やがてある事実の前に霞んでゆく。それは守銭奴といってよいほどの、ダニーのお金に対する執着心である。頭を働かせて相手をへこませるのはいいけれど、その動機には常に金銭への果てしない欲が絡む。正直、読んでいて気持ちよいものではない。なんせ外観はあくまで少年小説なのだ。しかも小説とはいえ、ダネイの少年時代が多少なりとも反映されているはず。これをいったいどう理解すべきなのか。
 子供時代、スポーツが苦手な少年にはなかなか栄光のときは巡ってこない。そんな少年にとって頼れるのは頭ひとつ。その勝利の証しが「頭で稼いだ対価=金銭」なのである。あまりに少年らしくない精神構造ではあるが、これは当時のダネイの状況を知ることにより、かなり理解はしやすくなる。
 本書の執筆動機は、相方のマンフレッド・リー抜きで一人で長編を書けるかといった挑戦や、脳障害で長くは生きられない子供をもった悲しみを埋めるところにあったと言われている。どちらの動機にしても、ダネイにとって本書の執筆は、激しい喪失感を埋める作業だったはず。そしてその喪失の対象が、この物語に強く投影されていると考えるのは、それほど難しいことではない。現実世界で埋められないものを、自分が一番信じられる「知恵」で埋めていったのである。ただ、「知恵」で埋めた結果を目に見える形にしようとして、「金銭」を象徴的に扱ったのは、やはりダネイの失敗であろう。

 便宜上、本書を「少年小説」と呼んではいるが、実は本書は厳密には少年小説とはいえない。エピソードの間に挟み込まれた「語り」は、あくまで成長した大人の回想であり、思索である。この部分はノスタルジーに彩られてはいるが、同時にダネイが自分自身の過去をいったん精算しているようにも感じられる。それもまた動機の成せる業なのかもしれない。


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 渡辺啓助氏が亡くなったそうだ。戦前の探偵作家としては最後の一人になるのでしょう。でも百一歳だったそうだから、これは大往生と言ってよいのかな。ご冥福をお祈りいたします。

 さて、本日の読了本は、エラリー・クイーン『青の殺人』。
 知ってる人は知ってるだろうが、念のために書いておくと、これはクイーン本人が書いたものではない。あの短編の名手として知られるエドワード・D・ホックが若い頃、クイーンの監修を受けて代作した作品。ペイパーバックで乱作された、いわゆるハウスネームとしてのクイーン名義。当然今ではクイーンの作品として認められない鬼っ子なのだ(『盤面の敵』以降の作品も実は代作だが、それらは一応聖典扱いでこれとは意味が違う。これも話すと長くなるので、また別の機会に)。

 こんな話。一部のファンの間でカルト的人気を誇るポルノ映画「ワイルド・ニンフ」。その一作きりで姿を消した監督の行方を追う映画プロデューサーが殺害された。捜査官マイカ・マッコールは州知事の特命を受けて現地に赴くが……。

 代作とはいえホックが書いたものだけに、ある程度はクイーンの雰囲気を活かした作品だろうと思った私がバカだった。なるほど、謎解きの要素はいろいろと詰め込んでいるし、一応論理的な結末を用意してはいる。しかし、なぜに安っぽい軽ハードボイルド路線にする必要があるのか。登場人物もとにかくステロタイプ。もともとホックの描くキャラクターは物足りないものが多いので、あまり期待はしていないが、主人公とメインの女性たちの会話は、安っぽすぎて読んでいて辛くなるほどだ。クイーン、ホックという名前さえなければ、こんなものとあきらめもつくのだが……。


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