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 読書はあまり進まないが、なんとかクリストファー・ブッシュの『失われた時間』を読了する。
 クリストファー・ブッシュといえば、一昔前のミステリの入門書などには必ずといっていいほど『完全殺人事件』が紹介されていたものだが、今はどうなんだろう?
 イメージとしては、若い頃に読んでおくべき必読作品である。そのくせアリバイ破りとか地味な作風ばかりが先入観としてあるため、有名だけれど実は誰も読んでいない作品ベスト10とかをやれば、必ず入賞しそうな作品でもある。かくいう管理人も読んだとはいえ、ほとんど内容も忘れているので、偉そうなことは言えないのだが。
 ブッシュ・ネタでもうひとつ思い出されるのが、創元で絶版の『チューダー女王の事件』を忘れてはいけない。ブッシュだけでなく創元推理文庫中でも屈指の入手難度を誇る作品であり、ネットオークションに出れば5桁に届くことも珍しくない。残念ながら未入手のため、個人的にはさっさと復刊してもらいたい一冊である。

 こんなあたりを押さえておけば、ブッシュの前知識としては十分か(笑)。では本題に入ろう。

 私立探偵トラヴァースの元へ、ある屋敷の秘密を探ってくれという相談がもちかけられた。その屋敷に住むのは老人と少女の二人のみ。使用人夫婦は離れに住んでおり、老人から絶対に夜は屋敷に近づかないよう言い渡されていたのだが、屋敷からは毎夜のように恐ろしい悲鳴が聞こえるという。調査を始めたトラヴァースだが、やがて彼の眼前には、老人の死体が転がる。屋敷にはいったいどんな秘密があったのか……。

 実に地味な作品だが、なかなか悪くない。もはや『完全殺人事件』の感想など銀河系の彼方ではあるが、おそらくこっちの方が出来は上である。
 ポイントは三つ。すなわち屋敷に隠されていた謎、十分間のアリバイの謎、真犯人の謎である。正直、ひとつひとつは小粒だし、驚愕するほどのトリックなどはまったくないが、うまく調和させることに成功している。そして何より見事なのは、一番些末かと思えるアリバイの謎を引っ張るだけ引っ張って、最後の最後でそっと差し出す手際。ここがなんとも印象的で、作者は最初からこの場面を書きたかったのだろうなという感慨にとらわれる。少女と周囲の人々との関係ややりとりも、単なる味付けのドラマに終始するのではなく、探偵小説の一部として機能しているのがさすがである。

 ちなみにブッシュの作品は60作以上あるらしい。これが最高傑作(帯より)と言われると、ええっという感じではあるが、この水準をキープしているのなら、もう少し紹介を進めてもいいのではないか。とりあえずは『チューダー女王の事件』あたりで(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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