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 ちょっと古いところでロバート・リチャードソンの『誤植聖書殺人事件』を読む。扶桑社ミステリーの前身であるサンケイ文庫からの一冊。どうでもいい話だが、このサンケイ文庫の黒背って統一感もあってけっこう好きだったんだよなぁ。古本屋でも探しやすいし(笑)。今の扶桑社ミステリーのすっきりした背も悪くはないが、ちょっと面白味に欠ける。

 それはともかく。こんな話。
 舞台はロンドンからほど近いヴァーカスター市。そのシンボルともいえる大聖堂で、歴史的にも貴重な誤植聖書が盗まれるという事件が起こった。折しも市ではアート・フェスティバルの真っ最中。その催しのひとつである舞台公演を手がけた劇作家マルトラヴァースは、義弟が大聖堂の参事だったことから事件に興味を持つ。一方、公演は大成功に終わったが、その主演女優ダイアナが公演後に失踪するという事件も発生する。やがて、彼女のものらしい手首が発見されるに及び、事件は大きなうねりを見せはじめる……。

 今回、ややネタバレにつきご容赦。

 本書は1986年のCWA最優秀新人賞を獲得した作品。キリスト教と演劇で味付けした、いかにも英国的な作風だ。犯罪はやや猟奇性を帯びてはいるものの、それほど重くはなく、全体的には軽めのゆったりしたパズラーである。伏線の張り方なども教科書どおりというか、新人の第一作としては比較的まとまっている。この辺は元記者という経歴の為せる技か。
 キリスト教や演劇といった要素も、その方面の知識がなくても問題ないレベルで、味付けとしてはちょうどよい塩梅だろう。

 ただ、処女作としては、少々こじんまりとまとまりすぎている嫌いはある。とりわけ謎解きやトリックについては驚くべきものがなく、物足りなさは否めない。また、誤植聖書の盗難事件も、タイトルがタイトルなだけにもちろん殺人事件と関係はあるのだけれど、もう少し効果的に使ってもよかったのではないか。
 そして最もまずいのが、物語中でもっとも魅力的なヒロインを被害者にしてしまったこと。そもそも発見された手がダイアナのものかどうかは、途中まではっきりわからない展開なのに、結局殺されていたというのでは、物語も盛り上がらないし、カタルシスにも欠ける。本書のテイストを考え、さらには主人公の見せ場を作る意味も含めて、どんでん返しを工夫すべきではなかっただろうか。
 全体的に悪くはないのだが、これが新人賞受賞作といわれると、うーむ、というしかない。そんな作品である。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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