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 渡辺啓助『クムラン洞窟』を読む。
 幻想的で怪奇趣味に満ちた小説で知られる渡辺啓助は、1960年頃から、いわゆる秘境ものと呼ばれる作品を書き始めるようになる。だが、小説の執筆が減少し、創作活動の柱が詩や絵画にシフトするようになったのも同じくこの頃。結果的にこの時期の作品群すなわち秘境小説が、彼の小説としては最後期にあたることになるらしい。
 本書はそんな後期の短編を集めた秘境小説集である。収録作は以下のとおり。

「クムラン洞窟」
「島」
「嗅ぎ屋」
「追跡」
「悪魔島を見てやろう」
「崖」
「シルクロード裏通り」
「紅海」
「逃亡者の島」

 「探偵小説」という名称がまだ一般的であった頃、秘境小説の書き手といえば、橘外男を筆頭として、香山滋、小栗虫太郎らの名を忘れることはできない。本書を読むにあたって、やはり念頭にあったのは彼らの作品である。
 ところが、本書『クムラン洞窟』を一読して驚いたのは、まずそのスマートな作風だった。書かれた時代が戦後も十年を過ぎ、あまり突飛な設定が受け入れられなくなったせいなのか、あるいは著者のもともと持っているスタイリッシュな文体のせいなのか。渡辺啓助のそれは、確かに秘境を舞台にしてはいるものの、単なるファンタジーではなく、より冒険小説的・犯罪小説的なテイストを取り入れており、なかなか現代的な作風として成立しているように思う。
 秘境小説といえば、やはりその退廃的な世界観、ある種の熱病にうなされているかのような登場人物たちの言動、ねちっこい描写、要はエログロ(笑)……みたいなところを管理人は思い浮かべてしまい当初は若干の物足りなさも覚えたのだが、この怪しげなスパイ物みたいなノリはなかなか悪くない。秘境小説もなかなか奥が深いようだ。

 気に入らない点もある。作風云々とは別の話になるが、各短編とももう少し長くした方がよかったのではないか、ということ。
 というのも物語の背景となる史実、伝説、あるいは風土等の話をみっしり詰め込みすぎ、どうも説明的になることが多いのである。秘境そのものが主人公、というタイプの話であれば、短くとも雰囲気だけで押していくことは可能だが、本書で語られる物語にはしっかりした結構を備えたものが多く、それを物語るには、やや枚数が足りなかったように思える。

 結論としては、以前に読んだ『怪奇探偵小説名作集2渡辺啓助集 地獄横町』に比べると、全体の満足度はやや落ちるが、それでも十分読むに値する作品集である。もしかすると秘境小説というものに興味がある人はまず本書を読み、気に入った人だけ香山や橘に進むとよいもしれない。進んでどうする、という気もするけれど(笑)。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 『怪奇探偵小説名作選2 渡辺啓助集 地獄横町』を読む。
 人の心の闇を描いた作家、渡辺啓助。本書は彼の初期の作品を集めた、怪奇ロマンに満ちあふれた短編集だ。

 そもそも昭和初期という時代の探偵小説は、謎解きよりも怪奇趣味、猟奇趣味が先行しがちで、これを称して変格とも呼ばれたわけだが、渡辺啓助の場合、正にその変格の道を歩み続けた。ときに「悪魔派」などと称されたように、彼の描く登場人物たちの多くは、何らかの特殊な性癖や思想に囚われた者ばかりだ。そんな囚われ人がいつしか限界点を超え、悲劇を招いてしまう瞬間を、渡辺啓助はいくつもの作品をとおして見せてくれるのである。
 特別、美文というわけではないが、首つり死体やミイラ、偽眼の美女など、インパクトのあるモチーフを使って読者に鮮烈なイメージを与え、作品世界に誘導することに成功している。
 また、作品の当たりはずれが大変少なく、高いレベルで粒がそろっているのも素晴らしい。きれいにまとまりすぎて、逆に物足りなく感じることもあるぐらいなのだが、そんななか、「血蝙蝠」の存在は貴重だ。どう考えても構成的に失敗している作品で、おそらく本書のワースト。しかし、こういう作品を読むと、逆に「ああ、読んでよかった」と思えるから不思議だ(笑)。ま、とにかくオススメの一冊ということで。

「偽眼のマドンナ」
「佝僂記」
「復讐芸人」 
「擬似放蕩症」
「血笑婦」 
「写真魔」
「変身術師」 
「愛欲埃及学」
「美しき皮膚病」
「地獄横丁」
「血痕二重奏」
「吸血花」
「塗り込められた洋次郎」
「北海道四谷怪談」
「暗室」
「灰色鸚哥」
「悪魔の指」
「血のロビンソン」
「紅耳」
「聖悪魔」
「血蝙蝠」
「屍くずれ」
「タンタラスの呪い皿」
「決闘記」

 ちなみに創元推理文庫で出る出ると言われ続けている実弟、渡辺温の作品集はどうなったんだ?

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