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 やや仕事が落ち着いた感じ。金曜辺りからようやく一息つくことができた。それにしてもこの二週間というもの、まったく趣味のための本を読んでいないのに自分でもびっくりである。読書時間がないこともなかったのだが、睡眠不足のせいで、本を開いたとたんにいきなり落ちる癖がついてしまったのが我ながら情けない。まあ、ブログの更新も読書ペースもぼちぼち上げていこうと思っているので、今後ともご贔屓に。


 本日は本当に久々に何もしない一日。といっても朝イチで投票には行ったし、帰宅後は汗だくで洗車(夕方からの大雨が恨めしい)。


 久々に読み終えた一冊は、ウィリアム・モールの『ハマースミスのうじ虫』。東京創元社のクライムクラブに収録された中でも、とりわけ復刻が期待された、伝説の書ですな。

 ワイン商にして探偵趣味の持ち主であるキャソン・デューカー。彼は社交クラブで酔いつぶれる銀行の重役ロッキャーから、巧妙な恐喝を受けているという話を聞き出す。キャソンは僅かな手がかりから容疑者を見つけ出し、徐々に追いつめてゆくが……。

 幻の名作というのは得てして腰砕けに終わることもあるのだが、とりあえず本作は期待に違わぬ傑作といってよいだろう。
 ただし、期待には違わないものの、そのイメージはまったく予想していなかったものであり、とにかく、とんでもない話を読んでしまったというのが最初の感想である。

(以下ネタバレあり)

 本書における目玉はふたつ。ひとつは探偵の執拗な推理と捜査。もうひとつは探偵と犯人との緊迫感にあふれる知的対決である。こう書けば普通はサスペンス色の濃い本格だろうと思うところだ。例えばイーデン・フィルポッツの『闇からの声』のような。ところが、通常のミステリとは微妙に構造が違うというか、世界が違うというか。

 そもそも探偵役のキャソンのキャラクターが変だ。素人探偵なのはよいとして、その動機である正義感が歪なのである。被害者に同情しているとか、社会正義のためだとか、作中でも一応は説明が為されているけれども、どこか犯人よりも嫌らしく感じるほどの粘着ぶりが凄い。
 被害者が恥をさらすのは嫌だから証言したくないと言っても、他に被害者を出すわけにはいかないと宣うのだが、これがまったく誠実さをもって響いてこない。「おまえが手柄あげたいだけちゃうんか?」と思わずツッコミ入れたくなるくらいである。いっそのこと「捜査は僕の楽しみなので、被害者のことなんか知りません」といってくれる方がまだ気持ちいい。とはいうものの、このキャラクターの危うさが新鮮でなぜか魅力的なのである。

 一方の犯人の動機も特殊である。いわゆるアッパーミドル志向とでもいうのだろうか。なんとも中途半端な動機ではあるが、当時はかなり斬新であったはずだ。ただ、このような動機は今では掃いて捨てるほどあり、これはもしかすると当時すでに凋落が見られた英国と、今の日本の状況がけっこう重なっているということなのだろうか。まあ、これは本題から外れるのでまた別の機会に。

 とりあえず、本書はそんな二人が対決する話であるのだが、既におわかりのように、キャラクターとしては圧倒的に探偵側の存在感が勝っている。先に「探偵と犯人との緊迫感にあふれる知的対決」などと書いたが、実質的には探偵のストーカー的なまでの捜査により、一方的に犯人が叩きのめされる物語といってもよい。
 そんな物語が本当に傑作なのかという問いは野暮。本書はそれまでのミステリとは別の世界、お約束が微妙に異なる世界で書かれたミステリと考えるべきであり、マニアであれば一度は体験しておくべき物語なのだ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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