ここ数日、なぜか読書が進む進む。けっこう新年会やら接待等が多いのに不思議なものである。
本日の読了本はジョン・D・マクドナルドの『夜の終り』。大御所ジョン・D・マクドナルドが1960年に発表したノンフィクション風の犯罪小説である。
冒頭でまず読者は男三人、女一人の死刑が執行されたことを知らされる。その後は犯人の手記や関係者の手記で、彼らがいかにして死刑を執行されるに至ったか、その心理や動機を掘り下げてゆく。
この手記を用いた構成が巧い。当然ながら手記の書き手によって立場や思うところが異なるわけで、その書き分けも見事だ。ただ、内容は暗く重いので、普通のミステリを楽しむつもりで読むと、かなり辛い思いをするのは必至。とはいえ現代のエルロイやケッチャム等に馴染んでいる人なら、この程度でも弱く感じるだろうし。ちょっと人には勧めにくい作品である。
ただ、何となく思ったのだが、最近のバラバラ事件の報道などをみていると、人間の倫理観というものは本当に危ういところに来ているのかもしれない。こういう本を読んでいる我々は、それこそ報道でよく言われるように、感覚を麻痺させられているのか、それとも精神的なガス抜きを行っているのか。微妙。
ジョン・D・マクドナルド『金時計の秘密』読了。
作者はもちろんクライムノベルやトラヴィス・マッギー・シリーズで有名なもう一人のマクドナルドである。やや硬派なクライムノベル、からっと明るいトラヴィス・マッギー・シリーズという二つの面を持つ作者だが、本書はどちらかといえば後者の部類。しかも青春ファンタジーというのだから驚く。
こんな話。なかなか大人になりきれない奥手の青年カービー。彼は大富豪の叔父の庇護の下で何とか生計を立てていた。ところがその大富豪の叔父が亡くなってしまい、何とカービーは金時計1個と手紙だけを相続する。ガックリしているカービーだが、周囲は彼が隠し財産を持っているのではないかと勘ぐり、挙げ句の果ては叔父の資産の横領容疑でお尋ね者になる始末。しかも彼の前には次々と美女が現れ、翻弄されるがままのカービー。このピンチのなか、叔父の唯一の遺産であった金時計に隠された、驚くべき秘密が判明する……。
実はまぬけなことに、読み始めるまで本書がファンタジーだということにまったく気づいておらず、このとんでもない展開にかなり楽しませてもらった。他愛ない話ではあるが、エンターテインメントに徹した本書はリーダビリティがすこぶる高く、読後感も非常に爽快である。
一応、金時計という秘密のアイテムによって、主人公のカービーは力と自信をつけて成長していくわけだが、それは表面上の話。本当にカービーを成長させてくれるのは、彼の前に現れる個性的な女性たちである。したがって彼女たちとカービーのやりとりこそが読みどころであり、実際、作者はそこに力を入れている。必読ではないにせよ、読んで損はない作品だ。
ちなみに同じような設定の小説に、白水社から出ているニコルソン・ベイカーの『フェルマータ』がある。こちらの主人公は、カービーと同じ能力を身につけながらまったく異なるベクトルを向いており、こちらも大変おすすめ。