『醜聞の館ーゴア大佐第三の事件』を読む。
二年前に出た本なので今更という気もするが、ちょっとこの本の背景を紹介しておこう。作者のリン・ブロックは本書で本邦初紹介となったわけだが、名前だけは戦前から知られていた作家だ。幾度となく全集などの刊行予定にも挙がっていたが、なぜかその度に企画がぽしゃる。で、いつしか幻の作家と呼ばれるようになったわけだが、ようやく論創社から刊行されたという次第である。
原書の刊行年は1925年。まさに探偵小説黄金期であり、その作風は重厚な本格ということなので、それなりに期待して読み始めた。
ゴア大佐の事務所へ立て続けに舞い込んだ失踪人の捜索依頼。だが、1件は本人から頼りが届き、もう1件は何者かが本人の居所を知らせてきたため、失踪事件そのものは一応決着をみた。そんなおり、元首相の屋敷から私信とフィルムが盗み出されるという事件が新たに起こり、ゴア大佐は身分を隠し、元首相の客人として内部から調査を開始するが……。
ううむ、黄金期の有名どころに比べると、さすがに分が悪いか。なるほど確かに悠然とした語り口は古き良き時代の本格という感じはするが、どうも余計な描写が多く、そのくせ地味な展開に退屈することしばし。けっこうなボリュームの作品ではあるが、大きな事件は後半にならなければ起きず、リーダビリティの弱さはかなり辛い。
ただ、事件の真相は悪くない。「醜聞の館」の題名に恥じない(?)、当時としてはなかなか思い切った真相ではある。だが、先ほど書いたようにそこに至るまでの過程がダラダラしすぎであり、もう少し絞って書けば、印象はかなり鮮やかになったと思うのだが。
ゴア大佐のキャラクターはまずまずといったところ。天才型ではないが、着実に推理を積み重ねるところはクロフツのフレンチ警部を彷彿とさせる。ただ、元軍人の割にはけっこうお客(依頼人)におもねる部分もあり、個人的にはその点がかなり引っかかった。
結局のところ、トータルではやや期待はずれ。同じタイプならジョン・ロードなどの方がよほど面白いと思うのだが。