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 このところ湘南探偵倶楽部さんが古い子供向け探偵小説、特に児童書に連載されたものを頻繁に復刻してくれているのだが、本日の読了本もそんな中から楠田匡介のレアなところを一冊。しかもタイトルが『少年少女探偵冒険小説選1』などということになってしまい、いよいよシリーズ化の気配である。
 この「1」という数字が、普通に「少年少女探偵冒険小説選」にかかるのか、それとも楠田匡介も含めてのナンバリングなのか不明だが、どちらにしても楽しみな展開ではある。

 少年少女探偵冒険小説選1

「海底旅行」
「良夫君の事件簿 I」

 その記念すべきシリーズ化一冊目の収録作は以上。「海底旅行」は小学館の『小学四年生』に昭和三十年から三十一年にかけて連載された長篇、「良夫君の事件簿 I」は昭和三十九年に旺文社『高一時代』に連載された連作短編である。
 なんと、どちらの作品にも、『都会の怪獣』、『深夜の鐘』に登場した少年探偵・小松良夫君が登場する。

 まずは長篇の「海底旅行」。これまで読んだ小松良夫少年ものについては基本的に探偵小説だったのだけれど、本作ではとうとうSFになってしまった。同一主人公でここまでやるかという、相当なアバウトな設定だが、内容も『都会の怪獣』『深夜の鐘』をはるかに凌駕するツッコミどころ満載の一作。

 こんな話。何者かの手によって姉の幸子とともに車で誘拐された良雄少年。なぜか白ほうたいで顔を覆った男に助けられ、ひょんなことからその“白ほうたい男”が指揮をとるスーパー潜水艦「ピース号」に匿われる。海底を潜行するピース号だったが、今度はエビの姿をした兵器によって、またも幸子が敵に誘拐されてしまい……という展開。

 基本的には『海底二万マイル』のノリか。謎の敵が二人をつけ狙う動機や“白ほうたい男”の正体などはラストで明かされるが、まったく伏線も何もないところで説明されるので、正直、どうでもいいです(苦笑)。海底での冒険シーンと数多いツッコミどころを楽しむのが吉かと。
 ちなみに一番驚いたのが、スーパー潜水艦だと思っていたら、なんと飛行機能もあったことで、いや、もう何でもありか。

 それに比べると「良夫君の事件簿 I」はいたってまともである。毎回、読み切り形式の探偵小説で、よくある推理クイズみたいなレベルを想像しておけばOK。実際、第一回目だけは本当にクイズ形式になっているのだが、評判がよくなかったか、二回目からは普通の小説形式に落ち着いている。
 こちらで気になったのは本作が『高一時代』連載ということで、媒体の割にはちょっと文章などが低年齢層向けに思える。第一回目のクイズ形式もそうだけれど、編集者とのすり合わせがうまくできていなかったのかもしれない。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 湘南探偵倶楽部さんが復刻した『深夜の鐘』を読む。『都会の怪獣』と同じく楠田匡介の手による子供向け探偵小説。連載された媒体も『都会の怪獣』と同様で、小学館の学習月刊誌『小学六年生』 。昭和二十九年四月号~三十年三月号にかけてなので、ちょうど一年かけて連載されたことになる。

 こんな話。春休みを利用し、友人の林君とともに市川の別荘へ遊びにきていた少年探偵として知られる小松良夫少年。二人はあるとき近所にある名古伝屋敷の不思議な噂を耳にする。
 その家にかつて住んでいた名古屋博士が亡くなったとき、博士は自分の体がミイラになるよう、自分で発見した金属で作った棺に入れられたのだという。そして遺言によって、二十五年後に棺を開け、ミイラになっているかどうか確認してくれと書き残したのだ。その二十五年後がちょうど今年なのである。
 その遺言が現実のものとなったのか、二人の前にはミイラ男が出没し、怪奇な事件が起こってゆく……。

 深夜の鐘

 『都会の怪獣』の二年後に書かれた作品だが、そこまで上手くなったという感じはないかな(苦笑)。
 問題はやはりストーリーの荒さにあって、特に前半は何が起こっているのかさっぱりわからないまま次々と派手な事件が起こるので、余計に混乱しがちである。これも月刊誌連載ということで、興味を持続させるための方策だとは思うのだが、逆に月刊誌連載ゆえこれまでのストーリーをきちんと理解することが必要なわけで、子供たちには少々ハードルが高かったのではないだろうか。いや、それでも娯楽が少ない時代のこと、当時の子供たちは繰り返し前の号も読んでいた可能性もあるけれども。

 ただ、そういう欠点や、その他ツッコミどころも多々あるけれど、熱量は高いし、注目すべき点もある。
 たとえば本作最大のギミック、ミイラ男の存在だが、これが途中から二人になるアイデアは面白い。重要な登場人物の偽物が登場するなんてパターンは割とよくあるけれども、よりによって怪人の本物と偽物が出るというのはもしかすると初めて読んだかも。

 ちなみに本作の主人公・小松良夫少年だが、彼は『都会の怪獣』にも登場しており、いわばシリーズ作品のようだ。ほかにも小松良夫の登場する作品はあるのだろうか。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 湘南探偵倶楽部さんが復刻した楠田匡介の『都会の怪獣』を読む。小学館の学習雑誌『小学六年生』 で昭和二十七年四月号~二十八年三月号にかけて連載された探偵小説である。

 こんな話。ニューヨークへ赴任することになった外交官の石井氏が、家族とともに東京駅を発とうとしていたときのこと。石井氏の娘、由子が発車寸前の列車から消失するという事件が起こる。さっそく田名見警部を筆頭に警察も駆けつけ、由子の捜索が始まったが、あとにはなぜか首吊り死体を模した人形が見つかるだけであった。
 そんななか、由子の捜索に協力した良夫少年は列車内でダイヤらしきものを発見する。しかし、それも帰宅中になぜか消え失せ、しかも家には「石を捨てろ」という脅迫文が届き、さらには「自分は殺される」という助けを求める電話がかかってくる。果たして何が起ころうとしているのか……。

 都会の怪獣

 ううむ、これは何というか、とにかく荒っぽい(笑)。とにかくストーリーが乱雑すぎて、本当に途中まで何が起こっているのかよくわからないのである。
 子供向けの連載という性質上、次号に興味を繋げるよう意識しているのはわかるが、肝心のストーリーが繋がっていない。それでも当時の子供たちはわからないなりに楽しんだとは思うのだが、正直ここまでとっ散らかったストーリーは当時としても珍しいのではないか。そのくせ犯人だけはけっこうわかりやすいという(苦笑)。
 連載とはいえボリューム的には中編レベルなので、プロットをそれほど練らず、けっこうぶっつけで書いた可能性もあるかも。

 ただ、こういうものも含めて読まないと、それこそ当時の子供向け探偵小説の実像はわからないわけで、復刊自体は今後もどんどん続いてくれるとありがたい。
 本作でも見どころというほどではないかもしれないが、登場人物の「田名見警部」が大人向けのシリーズ探偵「田名網警部」と同一人物なのか気になるところだし、序盤の少女消失トリックなどは著者らしいといえば著者らしいネタである。また、「怪獣」の扱いが意外とストレートなのもちょっと驚きであった。

 湘南探偵倶楽部さんの復刻した楠田匡介の子供向け探偵小説はもう一冊、『深夜の鐘』があるが、どうやらこちらも良夫少年のシリーズ作のようだし、今からドキドキであるな(笑)。

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 順調にシリーズ展開が進む〈KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉から、本日は楠田匡介の『いつ殺される』を読む。原本は春陽堂書店の〈長篇探偵小説全集〉として刊行されているため、比較的、楠田作品の中では知られているほうだろう。

 まずはストーリーから。
 糖尿病とそこからきた足の神経痛で入院することになった作家の津野田。だが、その病室は幽霊が出るという曰くつきの部屋で、職員や看護婦がみな詳しいことを話したがらない。ようやく医師たちからの聞き取りで津野田が知ったのは、数ヶ月前に起こったある役人の横領・心中事件であった。
 農林省の若い事務官が八千万円を横領し、発覚を恐れて恋人と心中を図るという事件が起こった。二人はまさに津野田が入っている病室に担ぎ込まれたが、男はまもなく死亡し、女は一命を取り止めたものの病室を抜け出して、近くの川で入水自殺したのである。幽霊は、八千万円に未練を残すその女ではないかという話だった。
 津野田はもちろん幽霊などは信じず、むしろ、その八千万円の手がかりを探そうとしている誰かが幽霊と間違われているのではと考える。妻や友人の石毛警部らと推理をめぐらす津野田だったが、やがて津野田の身にも危険が迫ってくる……。

 いつ殺される

 注目したい点はいくつかあるけれど、まずはストーリー構成が面白い。本作ではシリーズ探偵の田名網警部も登場するものの、主人公格としては作家の津野田とその友人の石毛警部のお二人。で、前半は津野田を中心とした文字どおりのベッド・ディテクティヴ=安楽椅子探偵で進行する。ただし単なるベッド・ディテクティヴではなく、津野田にも危険が迫るにつれ、次第にサスペンス色も濃厚になるのがミソ。ちなみに『いつ殺される』というタイトルは、この津野田の状況を表しており、読んでいただければわかるだろうが、けっこう考えられたタイトルなのである。
 そして後半は一転して、石毛警部による足の捜査が中心。こちらはクロフツを彷彿とさせる展開で、つまり本書は大きく前後半でスタイルを変える二部構成をとっているわけである。この構成が目先を変えるためだけのものではなく、実は別の大きな意味を持っているのだが、それを書くと興醒めなのでここでは伏せておこう。

 もうひとつ注目したいのは、やはりトリックの多さ。トリックマニアの著者らしく、いろいろと詰め込んでおり、正直どれも小粒な感はあるのだけれど、著者の意欲がひしひしと伝わってきてよい。

 そのほかではキャラクターの造形も悪くない。作家の津野田と奥さんのやりとりは微笑ましく、石毛警部との関係性もゆるくていい感じである。後半の石毛パートへの転換、それは同時にシリアスへの転調にもなっているのだが、前半の雰囲気もあってそれがかなり効果的にできている印象だ。

 前半のやや冗長としたところ(これは上に書いたゆるい雰囲気のせいもあるのだが)、後半は逆にごちゃごちゃした展開が気になるところではあるのだが、まずは全体的には楽しめる一冊。
 傑作とまではいかないが、著者の工夫がいろいろと盛り込まれた力作であることは確かだ。

 しかしまあ、河出文庫からこういう本が続々と出る状況はすごいとしか言いようがない。
 創元とか論創みたいにもともとニッチなところで勝負している出版社ならともかく、河出は一応硬軟織り交ぜた総合的な出版社だ。しかも大下宇陀児や甲賀三郎、木々高太郎という戦前の大御所作家あたりなら少しは“売り”を明確にできるけれど、楠田匡介ぐらいだと知名度はさらに落ちる。ビジネスとしてかなり難しいのは想像に難くない。
 まあ、〈KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ〉の場合、論創社とは違ってかなり不規則だし、刊行の間隔も空いているので、比較的続けやすい環境にはあるのだろうが、ぜひ今後も気張らずにゆるゆると続けてもらいたいものである。


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 河出文庫の『楠田匡介名作選 脱獄囚』は実に読み応えのある作品集だった。ただ残念なことに、もっと楠田匡介の本を読みたいと思っても、現役本はこれ一冊。比較的著書は多いのだが、一時期は完全に忘れられた存在となり、ここ数年の復刻ブームで人気が再燃したものの、過去の作品はみな絶版という状態なのである。
 まあ人気が再燃したといってもあくまでミステリマニアの間の話であるから、この現状は仕方あるまい。困るのは古書人気がけっこう高くなってしまい、本を見つけること自体がまず大変だということ。あっても相当なお値段である。どこかから、また傑作集でも出ないものだろうか。

 さて、本日の読了本『犯罪への招待』は、そんな楠田匡介の後期の一冊で、新聞記者の乾信一の活躍をまとめた中短編集。著者の作品のなかでは比較的に入手が容易なものだ。収録作は以下のとおり。

「殺人設計図」
「替えられた顔」
「アリバイを探せ」
「吊された美女」
「殺された男」
 
 「殺人設計図」は本書で唯一の中編。石原慎太郎が作家デビュー時に流行らせた「太陽族」にスポットを当て、享楽に流される七人の若者たちの殺人計画を描く。本作のミソは二つ。ひとつは寸前で頓挫したはずの殺人計画がなぜか完遂されてしまい、そればかりか予想もしない第二の殺人まで起きるという点。互いに犯人ではと疑心暗鬼に陥る若者たちだが、真犯人は果たして……というストーリー展開が巧い。もうひとつは、やはりトリック。とにかく第二の殺人の方がトンデモ系で、まあ良識のある人なら顔をしかめること請け合いである。
 「替えられた顔」は、乾夫妻が新婚旅行中に巻き込まれた事件を描く。しかも探偵役どころか被害者側だ。ネタがアレなので詳しくは書けないが、この手のトリックを本格風ではなくサスペンス風に仕上げるところが、二時間ドラマっぽい。舞台も温泉地だし。ただ、ちょっと展開がだれており、ハラハラ感はいまひとつ。
 「アリバイを探せ」は犯人の証拠を突き止める手段がトンデモ系。しかもかなり強引な証拠であり、これが果たして法廷で通用するかどうかは疑問。ただ、最後の1ページで一気にけりをつける著者のけれん味がナイス(笑)。
 「吊された美女」は、美人代議士が殺害され、国会議事堂の高塔に吊されるという、とてつもなくど派手なストーリー。しかも乾記者も容疑をかけられ、田名網警部も登場するという実に豪華な一編。しかし肝心のネタや設定がもう無理矢理すぎて、探偵小説としての評価は限りなく低い。
 「殺された男」はプロ野球の試合中に審判がナイフで殺されるという凄まじい設定の短編。しかも殺人のトリック以外にもうひとつ大きな謎を仕込んでいるが、このどちらもが腰砕けに終わり、本書中のワースト。

 著者のもうひとつのシリーズ、田名網警部ものに比べてテイストは軽めで、まだ新婚といってよい乾夫妻の掛け合いなどはなかなか楽しい。ただ、一応、本格ミステリの体は為しているけれど、お得意の無理矢理機械的トリックもそれほど冴えは見られず、総じてあまりオススメするほどの作品集ではないので念のため。


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 河出の本格ミステリコレクションから『楠田匡介名作選 脱獄囚』を読む。
 楠田匡介といえば、ネット・オークションなどで常に高値を叩き出す人気作家の一人であり、著書のほとんどが入手困難本。いくつかのアンソロジー収録作を除けば、唯一、手軽に読めるのがこの『楠田匡介名作選 脱獄囚』なのである。なんと全収録作が脱獄をテーマにした短編集である。

「破獄教科書」
「沼の中の家」
「法に勝つ者」
「上げ潮」
「獄衣の抹殺者」
「朱色」
「脱獄を了えて」
「愛と憎しみと」
「熔岩」
「ある脱獄」
「脱走者」
「不良少女」
「不良娘たち」
「完全脱獄」

 戦後間もなくしてミステリに手を染めた楠田匡介は、通俗的ミステリを量産しつつも、同時に物理的トリックにも興味を示し、すぐれた本格短編を残している。そしてその通俗的ミステリを書くことで培われたストーリーテリングと、トリックメーカーとしての才が見事に結実したのが、本書に収められた「脱獄もの」なのだ。勝手な想像ですが(笑)。
 でも実際の話、主人公たちの人物造形、その背後にあるドラマ、加えて脱獄テクニックという要素がここまで高いレベルで融合していることはかなりの驚きであり、しかもそれが短編集を構成できるほど数が揃っていることはもはや奇跡的である。
 どの作品も十分すばらしいが、特に気に入ったのは「破獄教科書」。脱獄の師匠から手口を習いながら脱獄計画を進めるという話で、師匠が良い味を出している。オチも予想はできるがなかなか見事。ちなみにこの師匠の白取というのは、当然実在の脱獄王「白鳥由栄」がモデルなんだろうな。
 他では、トリックの鮮やかさに加え、最後の対決シーンが圧巻の「法に勝つ者」、類を見ないアリバイトリックと、そのアリバイが崩れ去る理由がなんとも皮肉な「完全脱獄」あたりが好み。
 とにかく本書は必読。ぜひ絶版になる前に読んでほしい一冊である。


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