シャーリイ・ジャクスンの短編集『なんでもない一日』を読む。
“奇妙な味”の書き手として知られる作者だが、ストレートな超常現象や恐怖などには頼らず、もっぱら日常の中で垣間見える人間心理の異常さを描くことが多い。意外に心温まる作品も少なくはないのだが、やはり印象に残るのは読後感の悪いものか(苦笑)。
本書はそんなジャクスンの作品から、これまで単行本に未収録だったものに加え、死後に見つかった未発表原稿から精選されて刊行された作品集をベースに、さらに日本向けに厳選した作品をまとめたもの。落穂拾い的なものかと思いきや、十分に読みごたえのある一冊である。
収録作は以下のとおり。
Preface: All I Can Remember「序文 思い出せること」
The Honeymoon of Mrs. Smith(Version I)「スミス夫人の蜜月(バージョン1)」
The Honeymoon of Mrs. Smith(Version II)「スミス夫人の蜜月(バージョン2)」
The Good Wife「よき妻」
The Mouse「ネズミ」
Lovers Meeting「逢瀬」
The Story We Used to Tell「お決まりの話題」
One Ordinary Day, with Peanuts「なんでもない日にピーナツを持って」
The Possibility of Evil「悪の可能性」
The Missing Girl「行方不明の少女」
A Great Voice Stilled「偉大な声も静まりぬ」
Summer Afternoon「夏の日の午後」
When Things Get Dark「おつらいときには」
Mrs. Anderson「アンダースン夫人」
Lord of the Castle「城の主(あるじ)」
On the House「店からのサービス」
Little Old Lady in Great Needs「貧しいおばあさん」
Mrs. Melville Makes a Purchase「メルヴィル夫人の買い物」
Journey with a Lady「レディとの旅」
All She Said was Yes「『はい』と一言」
Home「家」
The Smoking Room「喫煙室」
Indians Live in Tents「インディアンはテントで暮らす」
My Grandmother and the World of Cats「うちのおばあちゃんと猫たち」
Party of Boys「男の子たちのパーティ」
Arch-Criminal「不良少年」
Maybe It was the Car「車のせいかも」
My Recollections of S. B. Fairchild「S・B・フェアチャイルドの思い出」
Alone in a Den of Cubs「カブスカウトのデンで一人きり」
Epilogue: Fame「エピローグ 名声」

前半はシリアス、後半はコミカルというのが大まかな構成で、やはり本領発揮は前者に集中しているようだ。
「スミス夫人の蜜月」バージョン違い二連発をはじめとし、「よき妻」、「ネズミ」、「なんでもない日にピーナツを持って」、「悪の可能性」、「行方不明の少女」と続く作品群は圧巻である。
特に「ネズミ」、「行方不明の少女」の二作は、理解できそうですとんと落ちてこないわかりにくさが魅力。読者が自分なりの解釈に到達することで、より深い読後感を得ることができるといえるのではないか。プロット作りが巧みなジャクスンのこと、このわかりにくさは狙ってやっているはずである。
また、わかりにくくはないけれども、「なんでもない日にピーナツを持って」のラストも実に印象に残る。それほど驚くようなオチではないのだが、「あああ、こう来るのか!?」と思わせるまったく予想外の展開が絶妙。ラストまでのなんでもない展開が活きているんだよなぁ。
対して後半はユーモアが効いた作品で構成されているのだが、実はこちらのタイプも決してつまらないわけではない。作品の狙いからか、どうしてもネタがわかりやすくなってしまうため軽く見られがちだが、読後に残るざらっとした感じはシリアス作品と共通するところである。
とりわけエッセイなのか小説なのか判然としない「男の子たちのパーティ」以降の五作は、斜に構えた子育てエッセイといったふうでちょっと面白い。
ということでさすがジャクスン、割りきれなさが存分に発揮された作品ばかりで、決して読者の期待を裏切ることはない。おすすめ。