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 コニス・リトルの『記憶をなくして汽車の旅』を読む。
 まったく未知の作家だが、解説によるとオーストラリア出身のアメリカ育ち、しかも実は姉妹の合作ペンネームらしい。1938年にデビュー作を書いてからわずか15年ほどで筆を置いているが、21作の長編を残しているので、それなりに人気の高かったことがうかがえる。
 作品の多くは、ヒロインが不可解な設定のもとで事件に巻き込まれる、典型的なサスペンス。これにロマンスが絡んで来ることも多いらしく、なるほど今でいうハーレクイン的な要素が強いようだ。
 ちなみに著作の大半には、ウールリッチばりに、タイトルに<BLACK=黒>という語が使われでいる。本書も原題は『Great Black Kanba』だ。これがどこをどうやったら『記憶をなくして汽車の旅』になるのかは知らんが、正直、この邦題はかなり恥ずかしい。いまどきこのフレーズはないんじゃないか。
 まあ本書を読むと、実は原題もあまりパッとしないことがわかるのだが(苦笑)、どうせパッとしないのなら、原題を活かしてほしかったところだ。

 それはともかく。中身に参りましょう。こんな話。

 ヒロインが目を覚ますと、そこは汽車の中だった。しかし、どこへ行こうとしているのか、なぜ汽車に乗っているのか、おまけに自分が誰かまで、すっかり思い出せなくなっている。周囲の乗客の話では、どうやら彼女には同行する女性がいたらしいが、その女性も怪我をして汽車から降りてしまったらしい。やがてヒロインは所持品の手紙などから、自分を迎えにきている叔父さん一家と逢う予定になっていることを知るが……。

 設定は悪くない。オーストラリア横断列車を舞台にして描かれる事件といえば、当然ながら思い出されるのは『オリエント急行の殺人』や『鉄路のオベリスト』といった本格作品。だが本作はどちらかというとスリラー系であり、味わいも含めて『バルカン超特急 消えた女』に近いだろう。
 記憶喪失の主人公に、周辺の怪しげな連中。サスペンスは高めつつ、だが会話や雰囲気はあくまで重くならず。ありがちではあるが、押さえるべきポイントは押さえているといえるだろう。

 気になったのは登場人物の会話や行動の不自然さ。ここで普通こういう発言をするか? こういうふうに考えるか? そんな態度をとるのか? いちいち気になってしまうぐらい登場人物たちの言動が引っかかる。ぶっちゃけ言うと描写が上手くないのである。別にリアルにしろと言っているのではなく、もう少し理屈にあった流れを見せてほしいということ。
 そもそも物語のキーである記憶喪失についても原因が弱いし、記憶が回復する過程も曖昧すぎる。物語の都合に合わせて、記憶喪失を用いたり、登場人物たちを行動させているのは仕方ないけれども、もう少し上手にやってくれよという感じだ。

 とはいえ珍しい作家であることは間違いないし、この設定は捨てがたいのも確か。もう一つ邦訳が出るようなので、結論はとりあえずそちらも読んでからにしよう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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