ううむ、更新が少し遅れてしまった。今週は仕事や宴会が多く、読書もブログも滞りがち。山を越えたわけではないが、この三連休はちょっと骨休め。積ん読も少しは消化しないと。
iPod touchを早くもゲットして会社に持ってきたやつがいる。さっそくいろいろと遊ばせてもらったが、こりゃ良いわ。iPhoneがいつになるかわからない現状では、これで喉を潤すしかないのだが、いやあ電話がなくても十分楽しいではないか。
難を言えば、やはり容量に対する不満。あとは、ここまでやったのだから、ワンセグはフォローしておいてほしかった。
とはいうものの、デザインはいいし機能性も高い。独特の操作感が賛否両論出るかもしれないが、個人的には買い。
読了本は山沢晴雄の『離れた家 山沢晴雄傑作集』。収録作は以下のとおり。
Part 1 砧順之介の事件簿
「砧最初の事件」
「銀知恵の輪」
「死の黙劇」
「金知恵の輪」
Part 2 扉の向こう側
「扉」
「神技」
「厄日」
「罠」
「宗歩忌」
「時計」
Part 3 離れた家
「離れた家」
まず山沢晴雄という作家の著作が、こうして一冊にまとめられたことだけでも素晴らしいのだが、すでにミステリサイトの多くで採り上げられ、内容の方も非常に評判がよろしいようだ。
どの作品をとっても本格マインドに溢れ、これでもかというほどの技巧で読者を煙に巻いてゆく。その頂点はもちろん「離れた家」という中編にあり、実はこれが二度目の読了になるのだが、以前にも増してその組み立てに感心してしまった(ちなみに一度目は鮎川哲也の編んだアンソロジー
『硝子の家』に収録されたもの)。
ただ、あまり褒めるだけでもアレだし、本書を傑作と認めたうえで、あえて意地悪な意見も書いておこう。
その最大の欠点は、やはり作者が探偵小説を限りなくパズルに近いものとして捉えていることの弊害。どうしても小説としての面白さに欠けてしまうのである。まあパズルオンリーのミステリを全面否定するわけではないのだが、山沢晴雄の場合はやりすぎている感が強く、他の要素が極端に弱くなってしまう。
例えば物語の構成や設定はトリックやテクニックを見せるために存在するので、それほど魅力的な舞台装置には至らない。あくまで技巧を見せるためのパーツだからである。そういう小説だと言ってしまえばそれまでだが、実は人間ドラマ的な要素もけっこう加えたりもするものだから、それがまた浮いてしまう。人間や心理の描写もベタだ。この辺のレベルが一段上で、神懸かり的なテクニックと融合していれば……と思うと残念でならない。アマチュアの道を選んだ作家とはいえ、小説本来の技術ももちろん必要なのだ。
ちょっと横道に逸れてしまうが、同じようにアマチュアとして活動し、本格の最右翼といえる作家に天城一がいる。彼の場合も山沢晴雄と同様の欠点を孕んでいるのだが、極端を通り越して、狂気すら宿っている。その狂気があればこそトリックやロジックだけでなく、文章までもが独特のリズムを生み、天城一ならではの世界を構築している。それに比べると山沢晴雄は、マニアックではあるけれども、やはりある意味、常識人なのであり、それ故に突き抜けるところまではいっていない。
小説としての完成度を高めるのか、あるいは天城一のように極限まで行き着くのか。「離れた家」は別格としても、その他の作品にはもうひとつ何かが必要であると思う。