久々に芝居見物。串田和美演出による『ティンゲル・グリム』。公演場所が西巣鴨にある廃校だったり、開演前にロビーで紙芝居をやったり、なかなか趣向は面白い。テーマはタイトルどおりグリム童話で、森に暮らす家族がさまざまな昔話を紡いでいく、という物語。素材もテーマも好きだが、プレイヤーがお歳を召しているせいか、もうひとつ動きやパワーに欠けたのが残念。
論創海外ミステリから、S・S・ヴァン・ダインの『ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿』を読む。今までかなり凄まじいラインナップを残してきたこの叢書の中でもとりわけの注目作。なんせあのヴァン・ダインである。ネームのビッグさではトップクラス。
しかしヴァン・ダインの世界初にして唯一の短編集というふれこみの本書ではあるが、実は純粋な創作ではなく、タイトルどおりの犯罪実話集なのである。
なるほど一応はファイロ・ヴァンスの語り、という体裁をとってはいるものの(なかにはファイロ・ヴァンスの影も形もない作品まであるが)ミステリとは呼べない内容ばかり。ファイロ・ヴァンスの蘊蓄や華麗な推理を期待してはいけないのはもちろん、時代が古いこともあって事件そのものの刺激も薄い。おまけに特別プロットや文章にも凝るところがなく、ただ判明している事実をだらだら流すだけなので、とにかく退屈してしまう。
論創海外ミステリーを全作集めたい人か、ヴァン・ダインの著作をすべて読みたい人であれば、といったところか。