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 ううむ、ものすごく忙しいわけでもないのだが、いまひとつ読書ペースが悪い。ページを開いても、なんか仕事やら別のことを考えてしまって集中できないのである。多少は思い切った息抜きでもして、頭の中のリセット&交通整理をしないとだめだな。

 しかし、勤め人の身ではそうそう思い切ったリセットなどできるはずもなく、週末は奥多摩へ出かけて、今年最後の桜を眺めたり、自宅でひたすら餃子を作っていたり(笑)。とにかく頭と体がそういうことを欲しているのかと。だから何なんだと言われればそれまでだが。


 とりあえず何とか読み終えたのはジョゼフ・ウォンボーの『ハリウッド警察25時』。警察小説を書かせたら天下一品の著者が送る最新刊(本国では2年前、訳書は昨年刊行)である。

 ハリウッド警察25時

 主人公はハリウッドを管轄下に置く警察署の面々。勤続五十年のベテラン警官をはじめ、サーファー警官やママさん警官、映画マニア警官、署内一小さな日系女性警官、金持ちのボンボン警官などなど多士済々なパトロール警官たちが、享楽満つるハリウッドの街を駆け巡る。ストーリーらしいストーリーはなく、個性あふれる警察官たちの日常業務をカットバック的手法で描く、著者お得意のノンフィクション風警察小説。
 思えばデビュー作『センチュリオン』からして、ほとんど本書と同じようなスタイルだったわけで、もちろん一人の主人公で固めた普通のスタイルもあるのだが、個人的に忘れがたい『クワイヤボーイズ』や本作を読むと、やはりこのスタイルが、ジョゼフ・ウォンボーの良さを一番引き出す形なのかもしれない。なにしろ『ハリウッド警察25時』で昔のスタイルに戻したのは、あのジェイムズ・エルロイの勧めがあったとかなかったとか。いや思うところは皆同じなのだろう。

 このスタイルに共通しているのは、とにかく主役の警察官たちのリアルな描写。ひとつひとつを見るともちろん小説としての演出や誇張はあるのだが、それを意識させないリアルさがいい。警察官だからといって、完璧な正義の人というわけではなく(もちろん悪人でもないが)、彼らはやや特殊な職業についた普通の男女だ。だから仕事のグチもこぼすし、たまには手も抜くし、失敗もある。出世に汲々とする者がいれば、転職を夢見る者もいる。そしてときには誇りをかけてぶつかることもある。そのひとつひとつをクドクドと描写するのではなく、軽いエピソードとして積み重ねてゆく。この加減が巧い。
 で、そのエピソードの数々を通して、課題山積のハリウッドの姿がおぼろげに浮かび上がってくるという仕組み。切なさ&希望の灯を感じさせるラストもいつもどおりで、この手の演出が非常に心憎いというか、いやまあ実に見事なのだ。
 今やこういうタイプの小説の名人がなかなかいないだけに、ウォンボーにはぜひこのまま警察小説を書き続けていってほしいものである。

 なお、あまり時代性を感じさせないウォンボーの作品ではあるのだが、警官たちの会話に「ヴォルデモート卿」という単語が出たりするのは笑った。これは確信犯だよなぁ。「ヴォルデモート卿」を知らない人は、ぜひご自分で調べてみることをオススメします。


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 ジョゼフ・ウォンボーの『ハリウッドの殺人』を読む。つい先頃ポケミスで似たようなタイトルの『ハリウッド警察25時』が出たばっかりだが、あちらは2006年に刊行された最近の作品。本書はなんと1981年の刊行であり、比較的初期の作品である。
 両者はタイトルだけでなく、内容もまた似ている。どちらもハリウッドで働く警察官たちのドラマであり、新刊の『ハリウッド警察25時』を読む前に、こちらで少し予習してみた次第。

 ハリウッドにある大企業の映画部門の社長ナイジェル・セント・クレアが、ボウリング場の駐車場で何物かに殺されるという事件が起こった。捜査にあたるのは、一応上司から腕利きと思われているマッキーとウェルボーンのコンビ。しかし、不幸なことに二人の私生活は充実しておらず、なかなか捜査にも身が入らない。そんななか、所轄内のあちらこちらで起こる他の事件に、セント・クレア殺人事件との共通点らしきものが見え始める……。

 一応ストーリーは紹介したがそれほど凝ったものではない。それもそのはず。著者のジョゼフ・ウォンボーの目は、物語や事件の謎もさることながら、腐敗したハリウッドの映画産業や警察機構の在り方、そして何より警察官たちの生き様により向けられているのだ。これはもちろんウォンボーが元警察官であり、しかも警察引退後は作家として映画業界にも関わってきたからに他ならない。
 物語の前半は特に鮮やかだ。主人公のコンビ以外にも、筋肉自慢の野獣刑事コンビや犯罪者のような風体の麻薬捜査官コンビ、主人公コンビに捜査を取りあげられて腐っているコンビなど、個性的な警察官たちが次々と登場する。ウォンボーは彼らの捜査の様子、過去に体験した事件、そして私生活をごた混ぜにして紹介していくわけだが、それらのエピソード一つ一つが見事に短編小説の趣を醸し出している。しかも面白い。決してテクニックのある作家ではないと思うのだが、描写が実に丹念で、キャラクターがまさしく生きているのである。

 彼らはどこにでもいる警察官で、決して特別優秀なわけではない。私生活もどちらかというと荒んでいる。しかし警官としての誇りは忘れてはいない。著者は警官の生々しい現実を読者の前にさらけ出すと同時に、愛情もまた十分に注いでいる。だからこそストレートに伝わる力をもった、素晴らしい物語が書けるのだ。
 正直、本書のラストはかなり切ないが、読後にはしっかり、明日があるさという気分になってくる。これこそがウォンボーの真骨頂ではないだろうか。

 悲しいかな、ジョゼフ・ウォンボーの著作は『ハリウッド警察25時』以外はすべて絶版のはず。古本屋で見かけたら買っておいて損はない。


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