ううむ、仕事のおかげで、すっかり読書もブログの更新も滞ってしまった。とりあえず先週末にようやくひと山越えたので、またぼちぼち感想をアップしていきます。でも月末にはまた修羅場を迎える予感。
久々の読了本は、パトリシア・ウェントワースの『プレイディング・コレクション』。なんとなくタイトルが謀略小説っぽくてかっこいいけれど、実は単に「ブレイディングさんの収集品」なんだよな(笑)。
それはともかく、こんな話。
歳の頃は五十半ば、中背で痩せ形、常に編み物をしているその女性を見て、誰が私立探偵などと思うだろうか。しかしながらミス・シルヴァーは、知る人ぞ知る名探偵として、警察にも一目置かれる存在である。
そんな彼女の前へ現れたのが、有数の宝石コレクションを持つルイス・ブレイディング。彼は自分のコレクションを保管する屋敷に、何か不吉なことが起こるのではという不安を胸に、ミス・シルヴァーのもとへ相談に訪れたのだ。だが話を聞いたミス・シルヴァーは、まるで災難を招くかのようなブレイディングの行動を諫め、依頼を拒否する。
それから二週間後、ミス・シルヴァーの言葉どおり、ブレイディングに災難が降りかかった。銃によって何者かに殺害されてしまったのである……。
ミス・シルヴァーの設定や風貌から当然思い起こされるのがミス・マープル。ところが世に出たのはミス・シルヴァーの方が二年ほど先輩らしく、日本ではほとんど無名ながら、海外では大変に人気のあるシリーズとのこと。近年では再評価の機運も高まっているらしい。
なるほど、確かにミス・シルヴァーという異色の探偵像は面白い。犯行現場の設定や怪しい登場人物がうようよしているところも定石通り。物語全体も大変読みやすいうえに適度なロマンスも加えつつ、非常に安心して楽しめる物語という印象である。コージーとして人気があったのも頷けない話ではない。
だが不満もけっこうある。
まずは話が長すぎること。長くてもそれなりの興味で引っ張るとかストーリー上の必要性を備えていればいいのだが、緊張感やサスペンスに乏しいこともあって、いまひとつ乗れない。とりわけ殺人が起きるまでの前半にはかなり退屈してしまった。ただ、個人的にコージー独特のまったり感が好きじゃないこともあるので、余計にそう感じたのかもしれない。ここは人によって意見が分かれるところであろう。
もうひとつ気になったのは、視点のぶれ。当初、ヒロインと思われた女性が、物語が進むにつれだんだん影が薄くなってしまい、途中からどうでもいい立場に追いやられるのはいかがなものか(まあ最後にはまた盛り返しはしますが)。
かといって後半は探偵役のミス・シルヴァーの捜査が中心なのかというとそれほどのこともなく、なんとなく焦点が定まらないまま場面が流れてゆく。上で前半が退屈と書いたが、後半は後半で登場人物の扱いに一貫性が無く、非常にちぐはぐな印象を受けてしまった。そのせいで同じ人物でも初めと終わりでずいぶん印象が異なってしまうのは明らかにマイナス点だろう。
著者の実力を本書だけで語るのは少々乱暴だが、これが代表作というのであれば、ううむ個人的には次はないかも。