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 いやー、これは堪らん。
 何が堪らんって『山本周五郎探偵小説全集3怪奇探偵小説』の話なんだけれど、これまで『~1少年探偵・春田龍介』、『~2シャーロック・ホームズ異聞』と読んできて、もう期待をまったく裏切らないこのテンションの高さ。そりゃ現代のミステリに比べればいろいろ問題もあるのだが、戦前にこの圧倒的エネルギーで書かれたジュヴナイル・ミステリに対し、何の文句のつけようがあるというのか。

 山本周五郎探偵小説全集3怪奇探偵小説

「南方十字星」
「甦える死骸」
「化け広告人形」
「美人像真ッ二つ」
「骨牌会の惨劇」
「殺人仮装行列」
「謎の紅独楽」
「荒野の怪獣」
「新戦場の怪」
「恐怖のQ」

 第3巻『~怪奇探偵小説』の収録作は以上。
 基本的には「怪奇探偵小説」という題名そのままの内容と思ってもらっていいのだが、冒頭一発目の中編「南方十字星」だけは戦意高揚冒険活劇といった趣で、怪奇というよりは、むしろ第1巻『~少年探偵・春田龍介』のテイストに近い、っていうか、ほとんどそのまんまだ。
 主人公の大河内士郎は春田君に比べて少し年齢高めの十六歳の少年。その分、春田君よりは若干落ち着きのある印象だけれど、それ以外の要素は正に春田シリーズテイスト。波瀾万丈のストーリーに激しいアクション、怪物や謎の兵器といった数々の魅力的ギミックもてんこ盛りで、読む者をまったく飽きさせない。まあ呆れさせることはあるが(笑)。

 読みどころ(ツッコミどころともいう)は多々あるけれど、個人的に注目したいのは、電波を送るがごとく電気を放つという、いわば放送電力機という秘密兵器。コレは凄いです。高圧電力を無線で送るから、相手は守る術なく一撃で破壊される。
 ただし、送る先には専用のアンテナを設置しなければならないというのがミソ。この受信装置が必要というだけで、荒唐無稽としか思えない秘密兵器がそれなりに科学的説得力を帯びてくる。帯びてきませんかそうですか。

 中盤から登場する怪物もいい。海の向こうのスーパーモンスターを臆面もなくキャスティングするという暴挙。しかし、その効果は抜群で、敵味方が大金鉱をめぐって争う冒険活劇ものが、怪物の出現で一気に秘境ものに様変わり。モンスターは単なる味つけというだけでなく、ストーリー上でも重要な役目を担い、ただのパクリでは終わらせないところもさすがである。

 ともすると、これだけのギミックをぶちこめば、その他の要素が疎かになりがちなところだが、そこは山本周五郎。少年向けゆえ誇張の度合いも強いし、やや紋切り型ではあるけれど、十分に魅力的な登場人物たちを配し、まったくそつがない。
 筆頭はやはり主人公の士郎君。春田君ほどではないが、こちらも文武両道で知恵も勇気も併せ持つ。ただし、頭が切れすぎるのも考えもので、姉が悪漢にさらわれても、まず敵を退治する方が先と断言するところなど、やや冷酷な感がなきにしもあらず。作中の人物ばかりか、読んでるこちらまで思わず「それはさすがに……」となだめたくなるほどである。

 その他の短編は、一転してムード重視の怪奇探偵小説。フランケンシュタインや蛇人間、霊魂などをモチーフをとした異常な怪奇事件が巻き起こる、だが実は……といったタイプが中心。ガチガチの本格ではないのだけれど、ミステリの要件は意外にしっかり押さえているので、満足感もそれなりに高い。「南方十字星」のあとだけに気持ち地味な感じは受けるけれど、ミステリの醍醐味とすればこちらの短篇群の方が上だろう。
 
 さすがに戦前の探偵小説が好きなら、という条件はつけざるを得ないけれど、このレベルであれば個人的には十分OK。「南方十字星」の弾けっぷり、怪奇探偵小説のホラームード、異なるタイプがまとめて読めるのも嬉しい一冊である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 『山本周五郎探偵小説全集2シャーロック・ホームズ異聞』を読む。
 第一巻は少年探偵・春田龍介の活躍を描いたジュヴナイル集だったが、第二巻ではホームズやルパンなど海外ミステリの影響を受けたと思われる作品を集めたものが中心。ただ、こちらも実は半数がジュヴナイルであり、第一巻と同様かなり破天荒な物語が揃っていそうで、これは期待するしかあるまい(笑)。まずは収録作。

「シャーロック・ホームズ」
「猫眼石殺人事件」
「怪人呉博士」
「出来ていた青」
「失恋第五番」
「失恋第六番」

 山本周五郎探偵小説全集2シャーロック・ホームズ異聞

 「シャーロック・ホームズ」は収録作中唯一の長編で、表題どおりホームズもの。この全集の刊行当初は、そもそも山本周五郎が探偵小説を数多く書いていたという事実にまず驚いたものだが、それどころかホームズ譚まで残していたとはいやはや何とも。ただし、昨今のパロディとかパスティーシュというような凝ったものではない。ましてや名推理等々の本格テイストを期待するなどもってのほか。
 本作はあくまでキャラクターを借りた周五郎独自のホームズものといった趣。基本は「モンゴール王の宝玉」を巡ってホームズと悪漢がしのぎを削る冒険活劇仕立てなのである。
 ただ、これがまたむやみやたらに面白い。
 街の不良少年をベイカー・ストリート・イレギュラーズよろしく使ったり、滝から落ちて死んだことになったり、「まだらの紐」をまんま拝借したりと、正統派シャーロキアンでも喜びそうなネタがあるかと思えば、ホームズとは思えない言動の数々を楽しむといったシャーロキアン激怒必至の趣向まで盛り沢山。そしてそれらを活写する山本周五郎の筆のなんと奔放なことよ。
 ラストの衝撃(笑)も含めて、もちろん本書の一押しである。

 ホームズに比べると分は悪いが「猫眼石殺人事件」の和製ルパンも悪くない。敏腕記者、春田三吉(龍介君との関係は?)対和製ルパンの対決が見もので、これもジュヴナイルのせいか動きが多く楽しい作品である。「シャーロック・ホームズ」と同様、ラストがちょっと面白く、こういう手際を見せられると、ただ笑ってばかりもいられないなぁと感心してしまう。
 「怪人呉博士」は、ソーンダイク博士を翻案した三津木春影の呉田博士ものをさらにパクッたような設定の呉博士もの。そのくせ探偵役が呉博士でないところが、まあ大らかというか何というか(苦笑)。ちなみにこれもジュヴナイル。
 「出来ていた青」は珍しく大人向け。ジュヴナイルとは打ってかわって一気に下ネタが入ってくることに注目したい。皮肉でも何でもなく、山本周五郎が大衆小説に対して、見事なまでの嗅覚を備えていた証しともいえる。ただし、いたずらに扇情的なだけではなく、ミステリとしても比較的しっかりした出来であるのはさすが。
 「失恋第五番」と「失恋第六番」は一応シリーズもので、大会社のグータラ御曹司、千田二郎を主人公とする作品。好きになった女性との恋愛を成就しようとしながらも、いつの間にか事件に巻き込まれ、手柄は立てるがあわれ恋愛は……、というのがパターンのようだ。純粋な探偵小説とはいいがたく、ミステリ風味のある大衆小説といったところ。基本路線は明朗ながら、敗戦の傷跡が作中に色濃く滲み出ているのがせつない。

 全体的な評価としては、あえてオススメとしておきたい。
 ミステリ的な質だけを問えばさほどプッシュする必要もないし、好き嫌いもかなり出よう。だが、ミステリマニア相手ではない、一般読者へのサービスに徹した物語は、猥雑ながら非常にエネルギーに満ちた作品ばかりである。当時の面白い少年小説の水準を知る意味でも価値はあるし、そもそも少年探偵団が現在もなお読まれるなら、周五郎のジュヴナイルも読まれて然るべきではないだろうか。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 昨年秋頃から作品社の「山本周五郎探偵小説全集」が刊行され始めたことはご存じの方も多いだろう。だが山本周五郎の書いた探偵小説といえば、せいぜい『寝ぼけ署長』が知られている程度で、逆に言うとそれぐらいしか作品がないと思っていた人もまた多いのではないか。
 かくいう管理人も今はなき探偵小説誌『幻影城』で特集を読んだことがあるので、多少は他の探偵小説の存在を知ってはいたものの、全集の全貌が明らかになるにつれ、こりゃとんでもない勘違いだったことを痛感している次第である。

 本日の読了本はその「山本周五郎探偵小説全集」の第一巻『少年探偵・春田龍介』。あの文豪がこれだけのジュヴナイルを書いていたことにも驚くが、問題はその量より質である。
 そもそも戦前に書かれた少年向け探偵小説といえば、基本的には正義感溢れる少年が、知恵と勇気と腕力にものをいわせ、数々の事件を解決してゆくというパターンである。ただし当時の世相を反映して、様々な条件を満たすことを要求された。例えばその国威高揚愛国精神爆発的な思想の上に成り立っていることは必要不可欠。そのため事件も単なる犯罪よりは防諜ものスパイものが多くなり、加えてそれらの物語を彩る様々なギミックも必要となる。テンションもあくまで高くなければならない。それらが当時の少年たちの心を掴むために欠かせなかったのだ。
 考えてみれば、これは生半可なテクニックだけで書けるものではない。少年向けだからこそある意味大人向けの普通小説よりも過大な努力と技量が試されるのである。そして驚くべきことに、山本周五郎はこのハードルを若い時代に、易々とクリアしていたのだ。

 山本周五郎探偵小説全集1少年探偵・春田龍介

「危し!! 潜水艦の秘密」
「黒襟飾(ネクタイ)組の魔手」
「幽霊屋敷の殺人」
「骸骨島の大冒険」
「謎の顎飾り事件」
「ウラルの東」
「殺生谷の鬼火」
「亡霊ホテル」
「天狗岩の殺人魔」
「劇団「笑う妖魔」」

 収録作は以上十作。上から六作は春田龍介を主人公とするシリーズで、下の四作はノン・シリーズ、「ウラルの東」のみ長篇という構成である。
 ノン・シリーズ作品はオカルトチックな謎を科学的に解いてゆくという意外にまっとうな作りであり、カーばりの展開にちょっと嬉しくなったりもするのだが、本書の魅力はやはり春田少年のシリーズであろう。
 もちろん魅力といっても、今の水準で考えるととんでもない要素ばかりである(笑)。春田少年は中学生ながら、車は運転する、ピストルは撃つ、あげくに大砲まで扱い、大の大人にも当然ため口。自信も相当なもので、単身満州に乗り込んで、アジアを震撼させているギャング団を一人でたたきつぶそうというのだから、嫌なガキである(笑)。御都合主義も凄まじく、悪者の落とした暗号がたまたま春田少年の学校で見つかったり、まったく痕跡が残らないという未知の毒薬が登場したり。
 また、物語とは直接関係ないところでもけっこう無茶がある。例えば短編のいくつかはストーリーに関連があったりするのだが、登場人物の名前がころころ変わっていたりするのが困る。春田少年の伯父さんなどは登場する度に「若林」>「林田」>「牧野」と変化していき、もしかするとこれは別人なのだろうか、自分が読み間違っているのだろうかと思ったりもするのだが、でもたぶん周五郎の間違いである。そういう点には大らかな時代だったのであろう。
 さらに、力が入りすぎの章タイトルも読みどころであろう。まあ、作品のタイトルですら「危し!! 潜水艦の秘密」とかなり危し感は出ているのだが、章のタイトルともなると「危機! 危機!!」とか「殴れ!! 壮太!!」とか「こん畜生、毛唐め!!」とか「アレアレ墜落する天狗岩」とか。なんなんだ「アレアレ」って。ただ、これらの章タイトルは笑ってみていればよいが、中にはネタバレしている章タイトルまであって、それにはマジに閉口した。見出しでオチを書いてどうする?(笑)

 まあ、いろいろと笑いどころを並べてみたものの、本書の胆はそんなところにあるのではないーーいや、確かに相当に楽しいんだけれどねーーそうではなく、むしろ少年小説とはかくあるべし、みたいな熱がヒシヒシと感じられるところにあるのだ。
 文豪の作品とはいえ名声を得るのはまだまだ後の話、習作時代といってもよい頃の作品で、しかも生活費稼ぎのために書いたとされている子供向けの作品群ということだが、そんなことは微塵も感じさせない。当時の少年小説で必要とされたエッセンスをとことんまで煮込み、濃縮に濃縮を重ねたかのような味わいである。この手の作品に免疫のない人はともかく、少年探偵団が死ぬほど好きだった人にはぜひともお勧めしたい。中毒性、高し。


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 山本周五郎という作家がいる。言うまでもなく『赤ひげ診療譚』や『青べか物語』をはじめとする膨大な傑作の数々を著した大衆作家である。
 だが、そんな山本周五郎が探偵小説をいくつか残していたことは、知識としては持っていたものの、これまでその作品を読もうと思ったことはなかった。浅はかにも、山本周五郎にとっては探偵小説など余技に等しく、それほどの作品ではないのだろうとの、こちらの実に勝手なる思いこみからである。
 ところが数ヶ月前、作品社から『山本周五郎探偵小説全集』が刊行されるというニュースを知って驚いたのなんの。あらためて調べてみたところ、少年小説などを中心に、けっこうな量の作品群を残していたのである。厚顔無知とは正にこのこと。心の中で山本周五郎にすまんすまんと謝りつつ、とりあえずは探偵小説全集を買うことでお詫びに代え、そして山本周五郎の探偵小説の中ではおそらく最も有名で、しかも手軽に入手できるものとして、『寝ぼけ署長』を読んでみることにしたわけである。
 とまあ、一冊、本を読むのにここまでの言い訳は不要だとは思うが、ただ、「山本周五郎探偵小説全集」を買い続ける言い訳は絶対に必要なのだ(笑)。
 ということで、本日の読了本は山本周五郎の『寝ぼけ署長』。

 寝ぼけ署長

 「寝ぼけ署長」という綽名を持つ某市の警察署長。綽名のごとくいつもウツラウツラしている非常にぼんやりした署長だが、実は凄腕の警官でもある。だが決してそれを表立って見せることはなく、庶民の味方として人情味溢れる解決を示し、市民の人気を博してゆく。これ、大岡政談のごとし。

 『寝ぼけ署長』の初出はなんとあの『新青年』。しかも探偵小説色が薄くなった戦後の『新青年』に突如掲載され、絶大なる人気を誇ったらしい。確かに雰囲気としては、まんま大岡裁きで、非常に読んでいて心和むというか気持ちいい。また、小気味好くオチをつけているところなども、決して見様見真似で探偵小説を書いているわけではないことがわかる。
 ただ、それでもこれが探偵小説かといわれると、ううむと首を捻らざるを得ない。いや、もっとミステリ色が薄いものでも、探偵小説といえる作品はあるのだ。例えば海野十三の書く『深夜の市長』とか『蠅男』などもミステリの基準ということであれば、かなりの疑問符がつくところだが、それでもその作品ははるかに探偵小説的である。
 思うにこれは、山本周五郎が、その主題を探偵小説に依っていないところに原因があるのだろう。寝ぼけ署長の数々の名セリフに、その神髄はいくつも見ることができる。

「このなかに、ひょいと、躓いた人がいる。躓いただけで済んだ、怪我はしなかった、これに懲りて欲しい、これ以上は、云わなくとも、わかる筈だ、その人は、九日間、ずいぶん苦しんだ筈だから(中略)人生は苦しいものだ、お互いの友情と、授け合う愛だけが、生きてゆく者のちからです」

「不正を犯しながら法の裁きをまぬかれ、富み栄えているかに見える者も、必ずどこかで罰を受けるものだ。不正や悪は、それを為すことがすでにその人間にとって劫罰だ」

「法律の最も大きい欠点の一つは悪用を拒否する原則のないことだ、法律の知識の有る者は、知識の無い者を好むままに操縦する、法治国だからどうのということをよく聞くが、人間がこういう言を口にするのは人情をふみにじる時にきまっている、悪用だ、然も法律は彼に味方せざるを得ない」


 要はそういうことだ。これらのセリフは探偵小説の演出として語られているのではなく、山本周五郎の目はしっかりとそういう点に据えられているのである。今であればこういう社会正義を訴えたり、人情ものを描いた警察ドラマは珍しくない。だが、戦後間もない頃にほぼ完璧なスタイルでこれを書いてのけたという点は、やはりさすがの一言。
 繰り返すが、本作は決して探偵小説ではない。
 しかしながら、大衆小説の何たるかを知っている著者が、あえて探偵小説の衣を借りて書いた物語でもある。ガチガチの謎解きやトリックなどはないけれど、探偵小説ファンなら、一度は読んでおいて損はない作品といえるだろう。


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