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 御当地テーマで編まれた河出文庫のアンソロジー『名古屋ミステリー傑作選』を読む。まずは収録作。

戸板康二「明治村の時計」
辻真先「名古屋城が燃えた日」
中薗英助「ウラン鉱の魔女」
山村正夫「オフェリアは誰も殺さない」
赤瀬川隼「明治村幻影」
藤原審爾「地平線はぎらぎらっ」
夏樹静子「閨閥」

 名古屋ミステリー傑作選

 こういう旅情をウリにしたミステリーも嫌いじゃないのだが、さすがに名古屋ぐらい都会だとあまり地方色も出ないわけで、実際、本書に収録されている作品もそれほど名古屋名古屋している感じはなかった。
 ただ、とぼけた味というか、意外に変化球的な話が多くて、思った以上に楽しめるアンソロジーである。

 戸板康二「明治村の時計」は、味わいだけでいうと歴史ミステリに近い。事件らしい事件などまったく起こさずとも、本格の香りを漂わせることができるのだということを証明する一品。

 辻真先「名古屋城が燃えた日」は奇妙な味。家族が聞き飽きているいつものお婆さんの戦争体験。だが今日にかぎって話は妙な具合に転がって……というもの。直接は関係ないが、乱歩の「防空壕」を少し連想した。

「ウラン鉱の魔女」は中薗英助お得意のスパイもの。前半のミステリアスなムードから、後半は一転して激しすぎる展開。楽しめることは楽しめるが、真相はちょっと無茶な感じ。

 短いながらもきっちりまとめた感のある「オフェリアは誰も殺さない」。「ハムレット」をモチーフにサスペンスも活かし、どんでん返しも決めているのはさすが山村正夫。これでもう少しパンチがあれば。

 フランク・ロイド=ライトが設計した帝国ホテルをネタにした「明治村幻影」。残念ながら特筆すべきほどの作品ではないが、作中で紹介されるフランク・ロイド=ライトの蘊蓄が面白い。

 刑務所から脱獄した五人の男たちの、悲しくも可笑しい末路を描いたのが藤原審爾「地平線はぎらぎらっ」。キャラクターの造型が絶妙で、オフビートな展開もよし。本書のイチ押し。

 夏樹静子の「閨閥」もいい。一見すると教科書どおりの地味な社会派ミステリなのだが、ラストが効いている。


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 河出文庫のミステリー紀行シリーズから『神戸ミステリー傑作選』を読む。文字どおり神戸を舞台にしたミステリーのアンソロジー。まずは収録作から。

高木彬光「黒い波紋」
千代有三「痴人の宴」
森詠「真夜中の東側」
三枝和子「街に消えた顔」
      梅雨のトア・ロード
      秋風メリケン波止場
島尾敏雄「石像歩き出す」
眉村卓「須磨の女」
陳舜臣「幻の不動明王」

 神戸ミステリー傑作選

 このシリーズは割と短めの作品が収録されているイメージがあったが、本書はけっこうボリュームのある短篇が多い。ただ、残念ながらボリュームに反比例して、出来は全体的に低調である。

 注目作品としては、まず千代有三「痴人の宴」。神津恭介をチラッとかませてみるなど遊び心はあるけれど、トリックのインパクトがそれを上回らない。
 森詠「真夜中の東側」は雰囲気のあるハードボイルドだが、ラストの御都合主義が強くて残念。きれいにまとめすぎたか。
 文学畑からは三枝和子、島尾敏雄というところが要注目。どちらも日常からちょっと踏み外したような感のある不思議な味わいをもつ幻想譚。だが悲しいかな小粒だよなぁ。とはいえ、まさかこのシリーズで島尾敏雄が読めるとは思っていなかったので、個人的にはお得感あり。
 ちなみに島尾敏雄『死の棘』を未読の方は、騙されたと思って読んでいただきたい。下手なサイコサスペンスが裸足で逃げ出す怖さである。

 最後に重箱の隅だけど、童謡『赤い靴』を作中であげている作品が二つほどあったのが気になった。これ、由来については諸説あるようだけど、神戸にはまったく関係ないよね? 横浜と混同したかな?


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 河出文庫の『津軽ミステリー傑作選』を読む。このミステリー紀行シリーズも刊行から二十年以上経っているはずだが、相変わらず古書店でよく見かけるのが不思議。そんなに部数が多かったのか? まあ、当時流行のトラベルミステリーだし、確かに人気はあったのだろうけれど。

 津軽ミステリー傑作選

海渡英祐「夏の断点」
草野唯雄「目に見えぬ糸」
夏堀正元「漂着」
斎藤栄 「鬼神の駒」
楠田匡介「湯紋」
赤石宏 「送り絵美人」
高木彬光「白雪姫」

 収録作は以上。
 津軽を舞台にしたトラベルミステリのアンソロジーだから、売りは当然旅情ムード。ただし、それは世間の目をごまかすための仮の姿にすぎない。個人的にはこの微妙なラインナップこそが要注目で、斎藤栄や高木彬光といった売れっ子やビッグネームに混じって、凄まじくマニアックな作家たちが入っているのが楽しい。楠田匡介などはその最たるところだが、赤石宏あたりも初めて読むどころか初めて知った作家である。

 ちなみにこの赤石宏、生まれも育ちも弘前市である。本業は教師だが、その傍ら執筆に励み、地元の新聞連載をはじめ著作も多い。純文学から推理小説、捕物帖、エッセイと守備範囲も広く、余技を超えたレベルのようだ。本書に収録された「送り絵美人」は、ねぷたの絵師を扱うなど地元作家の強みが出た作品で、叙情性も豊かで印象深い。ただ真相の明かし方が説明的になりすぎるというか、とってつけたような感じでもったいない。
 順番が前後するが、海渡英祐「夏の断点」は、テレビのご対面番組用に人探しを行う、通称「探し屋」を主人公にした物語。ハードボイルドタッチながら、本格としても予想以上にしっかりした佳品。
 草野唯雄「目に見えぬ糸」は、必要以上の濡れ場がいかにもこの作家ならではのサービスだが、ミステリとしては貧弱。
 夏堀正元の「漂着」は本書中、唯一のホラー。津軽海峡で釣り船が転覆し、ある村へ漂着した釣り客の体験談である。展開は何となく予想できるが、語りが巧いので十分楽しめる。
 斎藤栄「鬼神の駒」は、賭将棋指しを主人公にした連作の最終話。シリーズ読者ならではの読みどころが多いうえに本格味も薄く、いまひとつ。
 楠田匡介の「湯紋」は大きなトリックをふたつ盛り込んだ作品で、なかなか贅沢。今でこそ光文社文庫の『甦る推理雑誌8「エロティック・ミステリー」傑作選』で読める作品だが、それまでは本書でしか読めなかったわけで、この一作のためだけに本書を買った人も多かったのではないだろうか。
 高木彬光「白雪姫」はけっこう有名だが、トリックはううん(苦笑)。でもトータルでは好きな作品である。

 とうわけで意外に力作も多く、ミステリー紀行シリーズの中でもなかなか悪くない水準ではなかろうか。「夏の断点」「漂着」「湯紋」「白雪姫」あたりは十分な出来で、決して期待を裏切らないはずだ。


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 河出文庫のミステリー紀行シリーズから『瀬戸内ミステリー傑作選』を読む。収録作は以下のとおり。

赤江瀑「劇的な百面相の海」(序文)
連城三紀彦「藤の香」
寺内大吉「追憶が暴走する」
小松左京「小夜時雨(たぬき)」
横溝正史「泣虫小僧」
西村望「山の証言」
佃実夫「毛唐の死」
赤江瀑「サーカス花鎮」

 瀬戸内ミステリー傑作選

 ミステリプロパーでない方々の作品もけっこう多く収録されており、狭義のミステリとしての興味という点で言うと、ちょっと弱めの感は否めない。紀行ミステリの売りともいえる御当地の活かし方も、瀬戸内というかなり広い範囲に材をとっている割には物足りない。
 ではつまらないアンソロジーなのかというと、決してそんなことはない。ひとつひとつの作品はなかなか個性的なものが多く、全体的にも十分楽しめるレベルである。

 特に面白かったのは、スポーツ小説を多く残している寺内大吉の「追憶が暴走する」。これもマラソンをネタにした話で、主人公はかつて別府マラソンで一度だけ五位に入った記録を持つ男。それ以来、結婚にも仕事にも執着せず、ただひたすらマラソンを続けている。ところがその五位に入った大会で、実は彼は人に言えない秘密を二つも抱えていたのだ。その呪縛が男を悲劇に導いてゆく過程が犯罪小説的というか幻想小説的というか。結末は予想しやすいものの、マラソンでこういう話が書けるのか、というちょっとした驚きに満ちた作品。

 もうひとつ、西村望の「山の証言」も悪くない。瀬戸内のある島で、語り手はたまたまトビの雛を見つける。ところが見つけた場所は、牛の放牧を行う原っぱというありえないロケーション。飛ぶことも出来ない雛がなぜそんなところに? だがその雛がちょっと目を離した隙に消え失せ、語り手はさらに驚くことになる。島の関係者らの証言を元にこの謎を探る過程はまさにミステリだが、実はこれはノンフィクション。結局はっきりした答えは出ないものの、いや、いろいろな手があるものだ。

 というわけで、「ミステリー紀行シリーズ」というアンソロジーの趣旨からはやや遠いものの、意外な拾いもの的一冊。絶版ながら古書店では割と見かけるし、(お値段次第ではあるが)読んで損はない。


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 『横浜ミステリー傑作選』を読む。河出文庫のミステリー紀行シリーズからの一冊。

三好徹「天使の葬列」
長部日出雄「蓬莱山に消えた…」
阿刀田高「心の旅路」
生島治郎「死はひそやかに歩く」
大沢在昌「感傷の街角」
日影丈吉「赤い輪」
津村秀介「混血孤児」
斎藤栄「三人のミス・ミナト」

 横浜ミステリー傑作選

 収録作としては本格系が少なめで、ハードボイルドや犯罪小説の類が大半を占める。そういう意味ではバランスの悪さがちと気になるアンソロジーなのだが、華やかな港町の裏の顔を扱いたくなる作家の気持ち(本書の場合は編者か)はわかるし、結果、叙情やムードで押す作品が多く採られたのは致し方ないのかもしれない。
 個人的には、ポーの「盗まれた手紙」パターンと思わせておいて意外な展開にもっていく斎藤栄の「三人のミス・ミナト」が楽しめたほか、初めて読んだ長部日出雄の「蓬莱山に消えた…」の馬鹿馬鹿しさが印象に残る。また、若き日の大沢在昌が書いた「感傷の街角」はまだ無理してる感が強くて、ある意味微笑ましく読めた(笑)。

 ちなみにこのシリーズを読むときにいつも気になるのが、テーマとなる御当地の活かし方。できれば、その地でなければならない必然性がほしいのだが、残念ながら本書での作品はどれもそこまでの要求には応えてくれていないようだ。ただし、物語の雰囲気作りという点では達者な作品が多く、ミステリとしては物足りないけれど、全体的にはけっこう楽しく読めた短編集だった。


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 河出文庫の紀行ミステリーから『仙台ミステリー傑作選』を読む。まずは収録作。

小林久三「わが青春の仙台」(序文)
小林久三「東北新幹線殺人事件」
高城高「X橋付近」
都筑道夫「七月・星の女」
高橋克彦「妻を愛す」
阿刀田高「瑠璃色の底」
藤雪夫「遠い春」
中井英夫「人形たちの夜・秋」

 仙台ミステリー傑作選

 本書の刊行は1987年。当時であれば、目玉は何といっても高城高であろう。序文や解説でも、高城高の消息について言及されているぐらいであり、当時であればその名前を知っているミステリファンも少なかったはず。ところが今では文庫全集化もスタートし、その作品にずいぶん手軽に接することができるようになったため、ありがたみはやや減ってしまった感じである(苦笑)。

 まあ、それはともかく。
 中身の話に移ろう。仙台といえば歴史や観光等で非常に特徴的な地であるから、そういった要素の活かし方はどの作品も比較的しっかりしているようだ。ただ、一部の作品をのぞくと、やや全般的に低調な感じは否めない。謎解き系のミステリがずいぶん少ないのも気になる。
 そういう意味で「東北新幹線殺人事件」のようにオーソドックスなサスペンスは好印象。やや詰め込みすぎのせいかバタバタしている嫌いはあるが、ラストシーンはどんでん返しも含めてきれいに決めている。
 また、今さら言うまでもないのだが、「X橋付近」は日本流のハードボイルドがどのように進化していったのか、その道標たる意味合いで必読。
 中井英夫の「人形たちの夜・秋」は連作短篇のひとつでこれだけでも読めるが、やはりまとめて読む方が吉かと。
 正直、それら以外はいまひとつで、なんとも物足りなさの残る一冊であった。


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 河出文庫の『長崎ミステリー傑作選』を読む。1985年頃から狂ったように刊行された、河出文庫のミステリー・アンソロジーの一冊である。

 いきなり話はそれてしまうが、このアンソロジー・シリーズの中心となったのが、当時すでに人気を博していたトラベル・ミステリーだ。北は北海道から南は九州沖縄まで、ありとあらゆる土地がミステリの舞台となり、まあ言ってみれば全国のあらゆる観光地で殺人事件が起こっていたわけである。鎌倉、京都といったメジャーどころから始まり、ひととおり主要な地域をクリアしたあとは紀州や瀬戸内という具合にややエリアを広めつつ、おそらく最終的には20冊ほどが刊行されたはず。
 その後はトラベル・ミステリーから離れ、古代史や占い等のテーマ別アンソロジーに移行していくことになったが、特にシリーズ名などないこのアンソロジーがここまで続いたのだから、やはり売れ行きはそれなりに立っていたと考えるのが自然だろう。
 もちろん流行りのトラベル・ミステリーということもあろう。また、収録された作品の質が比較的高いレベルだったことで、それなりにリピーターも獲得していたはずだ。しかも現代の作家だけでなく、昭和初期に発表された古い探偵小説を秘かに収録していたのもなかなか心憎い。当時、トラベル・ミステリーに興味を持っていた人が、木々高太郎あたりを好むともあまり思えないので、これは編者の自己満足、あるいは一般のファンだけでなくマニアも押さえておこうという計算高さ、このいずれかであろう(笑)。
 ちなみにこの河出文庫のアンソロジーの流れは1990頃にいったん途絶えるのだが、それから十数年たった現在、「奇想コレクション」という叢書が河出書房新社でスタートして好評を博していることはご存じのとおり。ミステリーとはやや縁遠いイメージの河出書房新社だが、意外に貢献度は高いのだなとも思ったりした次第。
 あ、そういや本格ミステリコレクションという神のようなシリーズもあったが、さすがにこれはもう打ち止めなんだろうな。

 で、本書の話。収録作は以下のとおり。

笹沢左保「鬼の眼」
久生十蘭「長崎ものがたり」
伴野朗「凧の写真」
草野唯雄「すすき河原に血がしぶく」
木々高太郎「大浦天主堂」
石沢英太郎「虹」
高木彬光「渡海志願」

 長崎ミステリー傑作選

 結論から言うと、いわゆる謎解き的な楽しみという点では、やや薄めであった。例えば「鬼の眼」は人情もの、「すすき河原に血がしぶく」はハードボイルド、「長崎ものがたり」や「凧の写真」「渡海志願」は歴史もの、といった具合。謎解き要素がないことはないものの、その興味の中心は主人公の生き様であったり、長崎という風土であったり、歴史の一コマであったり。
 ただ、本格味は薄いものの、けっこう読みごたえのある作品は多い。とりわけ「すすき河原に血がしぶく」は、草野唯雄という作家はこういうものも書くのだという新鮮な驚きがあり、個人的には一番の収穫であった。でも実はこの作品、最大の反則ワザを犯していて、全然、長崎が舞台じゃないんだよなぁ(苦笑)。筑豊は確かに近いけど、どう考えても長崎には入らんぞ。
 「長崎ものがたり」や「凧の写真」「大浦天主堂」といったあたりは、蘊蓄の絡め方が巧いというか、むしろそちらが勝ちすぎている感もあるのがマイナス点。ただ「渡海志願」の奇想にはさすがに脱帽(ミステリとは思えないが)である。
 唯一、実にまっとうな推理小説に仕上がっているのが「虹」。冒頭の意外な展開で一気に引っ張り込み、途中ではトラベル系蘊蓄も盛り込み、最後は意外な真相とほろ苦い結末、そして新たな希望の光で締める。まさにトラベル・ミステリーの教科書のような作品。


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 河出文庫のミステリー紀行から『金沢ミステリー傑作選』を読む。今では絶版の、このミステリー紀行シリーズだが、意外な作品が入っていたり、普段は絶対に手に取らないような作家のものが読めたりと、けっこう楽しめる。知らない人は「トラベルミステリー」とひと括りにして敬遠するかもしれないが、この水準は侮れない。お試しあれ。

 能書きはこのくらいにして『金沢ミステリー傑作選』である。まずは収録作から。

杉森久英「芋掘り藤五郎の町」(序文)
五木寛之「聖者が街へやってきた」
半村良「箪笥」
連城三紀彦「紙の鳥は青ざめて」
杉森久英「豪雪と一癖斎」
南条範夫「消えたり百万石」
江戸川乱歩「押絵と旅する男」
水上勉「うつぼの筐舟」

 実は管理人sugataが金沢を県庁所在地に置く石川県の出身であり、そういった意味で今回はいつも以上に楽しむことができたのは言うまでもない。作品の舞台の多くは実際に目にしたことのある土地だけに、雰囲気もわかるし、理解も早い。ましてやこれがなかなかの傑作揃いなのである。
 嬉しかったのは、意外なくらい金沢(そして北陸)という土地をしっかり活かした作品がそろっていたこと。というのも、このシリーズは往々にして、その地方ならではの必然性に乏しい作品が多かったりするからである。地名を置き換えても通用するような作品は本来このシリーズの趣旨に合わないとは思うが、作品の頭数と質を揃えようとするとやむを得ない場合もあったのだろう。その点、本書は北陸という風土が芯に据えられており、十分合格点を与えられる。
 反対に残念だったのは、広義のミステリが多かったこと。例えば「聖者が街へやってきた」「箪笥」「豪雪と一癖斎」あたりはどう考えてもミステリには入らん。あと、ついでに書いておくと、「押絵と旅する男」は確かに大傑作ではあるが、これを御当地ミステリとして扱ってよいのか本当に(笑)。

 最後にお気に入りの感想など。
 「聖者が街へやってきた」は、金沢に突如現れた不思議なヒッピーの集団による騒動を描いたもの。しかし、ヒッピーは表面的な題材に過ぎず、根底には地方でくすぶる野心家たちの心情を描くというテーマがある。金沢特有の気質が、主人公たちの暴走をより加速する。
 「箪笥」は何度目かの再読だが、何度読んでも怖い。全編、能登弁での語りであり、石川県人にはとりわけ恐怖感倍増である。ばっちりのイントネーションでこれを読めるのは、ちょっと自慢(笑)。本書のベストといっていい(「押絵と旅する男」はさすがに別格だが)。
 「紙の鳥は青ざめて」は連城三紀彦ならではの叙情溢れる一編。なんとなくトマス・H・クックを連想してしまった。そのうち連城三紀彦も集中的に試したい作家である。


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 仕事で幕張メッセへ。距離があるのでいつもは爆睡するところを、なぜか車中でサクッと一冊読み切ってしまう。河出文庫のアンソロジー『札幌ミステリー傑作選』。収録作は以下のとおり。

渡辺淳一「北海道とミステリーの風土」(前書き)
渡辺淳一「葡萄」
五谷翔「白い神々」
船山馨「破獄者」
西木正明「オホーツク特急」
片岡義男「朝になったら、タッチミー」
石川喬司「カマルグの白い馬」
夏堀正元「帽子」
森村誠一「溯死水系」

 読みやすい作品は多かったけれど、それがそのまま作品の評価にはつながらない。そもそも本書にはミステリーといえる作品が少ないのが問題である。解説などから察するに、本書の編者は関口苑生。この人はミステリーの評論家ではあるが、好みは謎解きより冒険小説やハードボイルド系であり、その好みがそのまま収録作のセレクトに反映されてしまった。
 この河出の御当地シリーズというべきアンソロジーがもともと冒険小説系なら問題ないのだが、他の本を読む限りでは明らかに一般人向けのミステリだ。旅情緒も満喫しつつミステリにも親しんでもらおうという趣旨であることは、誰でも納得できるはず。それが本書では謎解きという一番わかりやすいキーワードをほぼ捨て去り、どちらかというと純文学的なアプローチの多い作品が並ぶ。これが冒険小説的だったり、ハードボイルド的だったり、奇妙な味だったりするならまだよかったのだが、それすら引っかからない作品が多い。
 個々の作品がつまらないという気はない。船山馨「破獄者」や西木正明「オホーツク特急」、片岡義男「朝になったら、タッチミー」などは好きな作品だが、それらをまとめて『札幌ミステリー傑作選』と唱うところが腑に落ちない。マニア相手ならともかく、ミステリの底辺を広げようとするアンソロジーにそういう騙し討ちはいかん。いったいどういう考えがあったのか、ほんとに疑問である。


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 前日の無理が祟ったか、風邪が悪化してなんと声が出なくなってしまった。せっかくの代休だというのに、薬を飲んで一日中横になっている。

 読書もかなり軽め。伊豆を舞台にしたミステリーを集めた『伊豆ミステリー傑作選』。

川辺豊三「公開捜査林道」
坂口安吾「能面の秘密」
島田一男「国道駐在所」
山村直樹、中町信「旅行けばーー」
仁木悦子「青い風景画」
加田伶太郎「めぐりあい」
結城昌治「失踪事件」

 河出文庫の御当地シリーズ(本当はミステリー紀行シリーズというらしい)からの一冊だが、ミステリとしての水準は悪くなく、おまけに珍しいところを拾っている。坂口安吾の「能面の秘密」はメジャー級としても、山村直樹や川辺豊三は最近じゃなかなか読めないのではないだろうか。ただ、特に伊豆を重視した感じは少なく、たまたま舞台が伊豆だった、というレベルの作品が多いのが残念。

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