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 ここ数年で翻訳されているイネスの作品はほとんど初期のものが中心だが、本日の読了本『アリントン邸の怪事件』は珍しく後期の作品。
 文学趣味や学術的な蘊蓄に彩られた高尚な探偵小説を書きたかったのか、それとも一定のルールにのっとった様式的バカ話が書きたかったのか、実はいまでも確信を持てないままイネスの作品を読みすすめているのだけれど、いつもちぐはぐな読後感ばかりが残る始末。個人的には『証拠は語る』がもっともバランスも良く、しっくりきたのだが、さて『アリントン邸の怪事件』はどうか。

 アリントン邸の怪事件

 今では警視総監の座も退き、悠々自適の生活を楽しむアプルビイ。その日はアリントン・パークと呼ばれる広大な屋敷の夕食会に招かれていた。食後、主人のオーウェン・アリントンに誘われ、余興のイルミネーションを見せてもらったアプルビイだが、なんとそこで感電死したと思われる死体を発見する。さらには翌日の慈善イベントでオーウェンの跡取りと目されていた甥のマーティンがパーク内の池から死体となって見つかり、アプルビイは否応なく事件に巻き込まれていく。

 ううむ。成り上がり一家のどんちゃん騒ぎや死体の妙な発見状況など、独特のユーモアセンスは健在なものの、全体的にはややおとなしい印象である。
 伏線などは巧く張ってあるのだが、物語の中盤に入っても事件の核となる部分が見えにくいこともあって、結果的には緊張感を欠いたまま物語がだらだらと流れる印象が強い。そのくせ謎解きは性急。蘊蓄も少ないし、イネス作品のなかでは読みやすいものの、物語を引っ張る力が弱い。個人的にはあまりドタバタは好きでないのだが、これなら宝探しネタでもう少しかき回してもよかったのでは。

 上でも書いたとおり本作は後期の作品なのだが、テイスト自体は『証拠は語る』に似ており、とっつきは悪くない。とはいえ、後期からセレクトすることによって、読者はいきなり警視総監を引退したアプルビイと対面することになり、少々戸惑うのも事実。願わくば全翻訳が行われ、そのなかで各作品の位置づけなどを見たいなぁと思う次第。各出版社さん、ぜひともよろしくです。

 なお、内容とは関係ないのだが、巻頭に掲載されている「読者へのささやかな道案内」はいったい何なのだ(苦笑)。
 ジュヴナイルとかならともかく、イネスを読もうかという人にああいう解説は不要。しかも「ささやかな」と書いてある割にはけっこう詳しく内容に触れていたりして、意外に危険度も高い。”ですます調”もなんだか小馬鹿にされているような気がするし、あれは止めた方がいいんじゃないだろうか。


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 マイクル・イネスの『証拠は語る』を読む。
 ネスフィールド大学の構内で、ブラックローズ教授が落下した隕石によって死亡するという事件が起こる。状況からブラックローズは殺害されたらしいとわかり、捜査を開始するアプルビイ。だが、なんとも掴みどころのない大学関係者らの証言に、捜査は遅々として進まなかった。やがて第二の事件が発生し……。

 実は『ストップ・プレス』『アプルビイズ・エンド』といったスラップスティック調ともいえる作品を読んできて、何となく違和感を感じていた。イネスの作風が本来こういうコミカルなものだという情報も仕入れてはいたが何かが違う。それはやはり、昔から言われていたイネスの「文学的高尚さ」というイメージとのギャップによるものである。確かにユーモアはイネスを語るときに外せない要素なのだろうが、『ハムレット復讐せよ』『ある詩人への挽歌』ではそれほど感じなかった部分だ。先に挙げた『ストップ・プレス』等はあくまで極端な例であり、イネスの基本ラインとはとても思えなかったのである。

 で、『証拠は語る』を読んで、ようやく胸のつかえが下りた。
 本作のような作品こそイネス本来の持ち味が十二分に発揮された作品ではないだろうか。
 イネスの文学的素養をはじめとする幅広い教養の部分、ほどよく毒を含み、皮肉を効かせたユーモアの部分、ロジックをこねくり回す探偵小説の部分。これらのバランスが崩れると、ペダンティックなところばかりが目立って従来のように難解な文章という誤解を受けたり、あるいは日本人には馴染みにくいファースを読まされたり、といった羽目に陥る。
 しかし本作では、イネスの作品を構成する大きな要素が非常にほどよくブレンドされている。当時のインテリが楽しみながら書いた知的娯楽作品という印象。重からず軽からず、ミステリそのものを茶化す部分も含め、良い意味での遊び心に満ちた作品である。個人的にはこの作品における匙加減こそが、イネスの狙っていたスタイルであると信ずる。まあ、本当のところは、残りの作品もすべて読まないとわからないんだろうけれど。

 とまあ、基本的にはここまで書いたようになかなかの作品なのだが、本作にも弱点はあるわけで、肝心のストーリーを引っ張る力が弱い。特に前半。
 なんせけっこう長い作品なのに、本書の前半部は、ほとんどがアプルビイの大学関係者への聞き込み捜査にあてられているのだ。隕石を使っての殺人という、とてつもなく魅力的な設定をもってきているにもかかわらず、現場検証や死体の検証などすべて伝聞&後回し、アプルビイはひたすら人間関係のみを追う。リアルタイムで死体の発見やその死因が明らかになるシーンを描けば、相当面白く劇的になりそうだが、なぜかイネスはそれをやらないのである。
 後半に入るとそれなりに動きも出てくるし、謎解きシーンでは様々な解釈を提示してみせるなど、かなり凝った演出があるだけに、よけい前半の起伏の無さが不思議だ。
 とはいえ聞き込み捜査のシーンも別につまらないわけではなく、むしろそちらに焦点を絞っているという見方もできるし、終盤の盛り上がりのため、前半の動きをあえて抑えたという見方もできなくはないのだが……。
 構成に少し変化を持たせれば、より魅力的な作品になったと思えるだけに、実に惜しい一冊といえるだろう。


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 マイケル・イネスの『アプルビイズ・エンド』を読む。

 ある事件の調査で列車に揺られていたアプルビイ警部。しかしいい加減な時刻表と大雪のせいで乗り継ぎには間に合いそうもなく、車内で知り合ったレイヴンという一家の館に泊めてもらうことになる。ところが館へ向かう途中で迎えの馬車が川で立ち往生、アプルビイはジュディスというレイヴン家の娘と館をめざすが、途中で馬車の御者が死体となって、雪に首まで浸かっているところを発見する……。

 粗筋を少し説明したぐらいでは、この小説の雰囲気を伝えることは難しい。『ストップ・プレス』でも目立ったコメディ要素だが、本作はカーもかくやというスラップスティックなのだ。
 いや、噂には聞いていたが、これが本来のイネスの作風なのだろうか。衒学趣味はもちろん全開なのだが、それを上回るコメディ・センス。正しくイネスの作風を掴んでおかないと、翻訳の段階でその雰囲気を誤ってしまうことは十分考えられるわけで、特にこういうユーモアの要素は難しいはず。作者がこれを笑ってもらおうと書いているのか、それともいたって真面目に書いているのか、訳者も相当気を遣ったに違いない。ましてやこれまで文学的とまで言われてきたイネスの作品とあっては。
 ただ、この作品におけるユーモアというかドタバタ要素は、味つけだけでなく、ある程度ネタにも直結している。おそらくくそ真面目にこのストーリーを展開しては、ミステリとしての価値も半減するだろう。このドタバタ要素はある意味必然であり、本作の魅力もそこにある。とはいうものの、このドタバタが生理的に受けつけない人は、ミステリの価値などくそくらえであろう(笑)。個人的にはメインのネタ、ユーモアセンスともに嫌いではなく、これはこれでありでしょう。
 アプルビイと後に結婚するジュディスとのなれそめも本作で紹介されるので、少なくともイネス・ファンは読んでおくべき作品である。


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 『インサイドマン』を観る。デンゼル・ワシントン、クライヴ・オーウェン、ジョディ・フォスター、ウィレム・デフォーといった巧い役者をそろえ、知的ゲームとしての銀行強盗事件を楽しませてくれる、といった内容。スパイク・リー監督には珍しく完全な娯楽作品だが、細かい伏線や終盤のどんでん返しにも気を配っているのがよくわかり、なかなか頑張っている。十分に楽しめる力作。
 ただ、ミステリを普段から読み慣れている私のような人間にはともかく、アマゾンなどのレビューを見ていると、意外にストーリーを追えていない人が多くて驚いてしまった。まあ、娯楽映画とはいえ、適当に流してわかる内容ではないので、初見の人は油断しないで見るように。

 読了本はようやくのマイクル・イネス『ストップ・プレス』。夜、寝る前にちびちびと読んでいたのだが、結局十日ほどかかってしまった。ま、それはともかく。
 作家リチャード・エリオットによって誕生したミステリの主人公<スパイダー>。犯罪者から探偵へと華麗なる転身を遂げるという流れが功を奏してか、いつしかシリーズは37作もにも及ぶ大人気シリーズとなった。その<スパイダー>生誕20周年を記念してエリオットの屋敷で開かれるパーティ。だがそこへ、まるで<スパイダー>が小説から飛び出したかのような奇妙な事件が相次いで巻き起こる。不安におののく関係者は、学者や医者、そしてアプルビイ首席警部らを屋敷に招き、事件の解明を依頼するが……。

 世間で賛否両論あるのも頷ける問題作。ミステリを茶化すかのような奇抜な設定、構成、そして真相。ひとつひとつの要素をすくい出して語る分には悪くない。それらの要素をコメディタッチで語るのも全然問題なし(笑えるかどうかは抜きにして)。
 ただやはり冗長な印象は拭えない。退屈とは思わないが、ここまで手間暇かけて語るほどのストーリーでもあるまいし、著者の目指したところは何なのだろう? もしそれが純粋な娯楽であるとしたら、とても消化されているとは思えないし、ミステリのパロディとも考えにくい。もちろん純粋な本格でもない。
 ただ、もし本書が徹底的に刈り込まれて200ページぐらいの作品であったとしたら、またずいぶん印象は変わっていたようにも思う。余計な飾りを排した方が、本作の本来持っている軽みが生きたのではないだろうか。


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