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 エドワード・D・ホックの『コンピューター404の殺人』を読む。著者の数少ない長編のひとつで、SFミステリ「コンピューター検察局」シリーズの第二作目。主人公はシリーズ一作目『コンピューター検察局』と同様、局長カール・クレイダーと副局長アール・ジャジーンのコンビが務め、また、前作で活躍した過激派グループ〈HAND〉のユーラーが、本作でも再び主役級の活躍を見せる。

 まずはストーリー。アメリカ・カナダ合衆国の大統領選挙を間近に控え、選挙用コンピューター404を点検していた技師ロジャーズは異常を発見し、コンピューター検察局に連絡した。さっそく確認に向かった副局長のジャジャーンは、インプットしたはずのない選挙結果をデータから発見する。
 誰が何の目的で行ったのか。また、そこに記された二人の立候補者、ブラントとアンブローズとは何物なのか。またもや過激派グループ〈HAND〉が関わっているのか。疑問は尽きず、さっそく捜査を開始するコンピューター検察局。
 二人の立候補者のうち、ブラントの線をクレイダーが追い、一方のジャジャーンはアンブローズが追うが、ほどなくして技師が殺害され、ジャジャーンもまた何物かの罠に落ちる……。

 コンピュータ404の殺人

 最初に書いておくと、邦題の『コンピューター404の殺人』は誤解を招いてよろしくない。これだとコンピューターが自らの意志で殺人を犯すような内容に思えてしまうが、まったくそんなネタではないので念のため。

 さて、肝心の出来栄えだが、これはシリーズ一作目『コンピューター検察局』よりもだいぶ落ちるといわざるを得ない。
 SFとしてはお粗末だが、ミステリとしてはそれほど捨てたものではないというのがシリーズ第一作の印象だった。それはSFというジャンルへの先入観をうまく利用したところがミソだった。言わば「メタSFミステリ」的趣向だったのである(ちょっと大げさ)。
 しかしながら本作は、ミステリとしても特筆すべきところはなく、単に活劇メインのB級SFに留まっている。

 詳しくは書かないけれど、まず冒頭のコンピューター404に絡む謎に説得力がない。というかSFとしてどうなんだろうというレベルである。政府の投票用コンピューターを何物かがハッキングするのはいいとしても、終盤で明かされる理由が貧乏くさいというか。政府のセキュリティ万全のはずのコンピューターをハッキングする技術があるなら、こういう目的で使うのはいまひとつ納得がいかない。
 おまけにメイントリックも今さら感が強い。検察局の捜査員たちも緊張感が薄く、毎回ほぼ自分のミスでピンチに陥っている。
 何というか、やっていることが全般的に古くさいのである。さまざまな物事が科学化、合理化されている未来世界にあって、人間の言動だけはまったく本作が書かれた当時のままという印象。そこが本作の大きな欠点だ。前作にも同様の欠点はあったが、メインのネタが面白かったので許せたのだが。

 なお、「コンピューター検察局」シリーズは三作出ているが、ラストの『The Frankenstein Factory』のみ未訳である。けっこう辛めに感想を書いておきながらも、どうせなら全部読みたいということもあるし、以前にある方から、本作がSF版『そして誰もいなくなった』的な話らしいということも教えていただいていたので、出来はともかくちょっと気になる本ではあるのだ。
 本来なら同じ版元のハヤカワ文庫にお願いしたいところではあるが、やはりこれは論創社さん案件なのだろうか(苦笑)。


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 エドワード・D・ホックといえば短編ミステリの名手として知られているけれど、シリーズ探偵が多いことでも有名だ。本日の読了本『コンピューター検察局』もコンピューター検察局のカール・クレイダーとアール・ジャジーンが活躍するシリーズの一作で、珍しいことにこれが長編、しかもSFミステリである。

 こんな話。物体を高速で移送させる夢の装置〈トランスベクション・マシン〉の発明者デフォーが腹痛を訴え、診察を受ける。診断結果は虫垂炎であり、名医の執刀手術をプログラムしたマシンで、手術は簡単に終わるはずだった。ところが安全なははずの手術マシンが暴走し、デフォーは死亡してしまう。
 事故、それとも故意によるものなのか。重要人物の不審な死に、合衆国政府はコンピューター犯罪を取り締まるコンピューター検察局に調査を命じるが、浮気を繰り返すデフォーの妻、その不倫相手にして〈トランスベクション・マシン〉の共同開発者、機械による支配に反対する過激派組織など、容疑者には事欠かない始末。局長のクレイダーと副局長ジャジーンはそれぞれ別ルートで捜査を進めるが……。

 コンピューター検察局

 ホック作品の特徴は、短編やシリーズキャラクターが多いことはもちろんなのだが、何より忘れてならないのは不可能犯罪ものを中心とした本格ミステリの追求だろう。シリーズによって味付けやアプローチは異なるが、基本的にはパズラー愛に溢れた作品ばかりである。

 本作もSFの設定を借りることで、新たな不可能犯罪ものに挑戦した一作といえるだろうが、いかんせん1971年の作品ということを割り引いてもSFとしての魅力には乏しい。
 電気自動車だったり手術マシンだったり、ロケットコプター、衝撃銃などなどSF的なガジェットはいろいろと出てくるものの、どれも古臭いイメージ。とにかくSF的に置き換えただけという印象。金星への移民や機械文明に反発する過激派というのもありきたりすぎて、そこにSFマインドといったものはあまり感じられない。まあ、リアルタイムで読んでいたらもう少し印象が変わったかもしれないけれど、それにしてもこれは厳しい。

 ただし、本格ミステリとしてはそれほど悪くないのはさすがホックである。メインとなる謎は手術マシンの暴走による死だが、これはある意味、密室殺人的であり、ホックらしいものといえる。
 ただ、それとは別に事件全体に関わる大きな仕掛けがあって、実はこれが楽しい。トリック自体は他愛ないのだが、物語の設定を最大限に活かしたところがいいのだ。
 プロットもしっかりしており、キャラクターもやや作りすぎではあるが面白いし、SFとしての不満はあるもののミステリとしては十分及第点だろう。このシリーズはもう一作長編の邦訳があるので、そちらもそのうちに読んでみたい。


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 エドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿V』を読む。オカルト探偵サイモン・アークを主人公にした日本オリジナルの短編集、その第五巻である。
 1950年代から2000年代に書かれたものから八篇をセレクトしているが、これで一応、サイモン・アーク短編集は打ち止めとなるようだ。全作紹介といかなかったのは残念だが、もともと傑作選の意味合いで始まったものだけに、これは仕方あるまい。
 収録作は以下のとおり。

Street of Screams「闇の塔からの叫び」
The Case of the Naked Niece「呪われた裸女」
Flame at Twilight「炙り殺された男の復讐」
The Lost Pilgrim「シェイクスピアの直筆原稿」
The Mummy from the Sea「海から戻ってきたミイラ」
The Witch of Park Avenue「パーク・アヴェニューに住む魔女」
Ark in the Desert「砂漠で洪水を待つ箱船」
The Scaring Bell「怖がらせの鈴」

 サイモン・アークの事件簿V

 さまざまな探偵を創りだしたホックだが、サイモン・アークの大きな特徴は、主人公が悪魔を探し求めて旅を続けている悪魔ハンターであるということ。当然ながら事件には怪奇趣味があふれるのだが、その謎をオカルト的にではなく、あくまで本格ミステリとして論理的に解決するのがミソ(ときにはホラーテイストのまま終わる物語もないではないが)。
 他のシリーズと差別化するという点においては、本格としての要素より、怪奇趣味が強い方が主旨に合うだろうけれども、両立できればなおよし、である。実際、シリーズの魅力は、この怪奇趣味と本格ミステリのほどよいバランスにあると思う。

 そういう意味では、海岸に流れ着いたミイラの謎という魅力的な冒頭の「海から戻ってきたミイラ」がまずおすすめ。読者に先を読ませにくく、ミイラの意味も納得の一篇。自称魔女との対決を描く「パーク・アヴェニューに住む魔女」もオカルト趣味と論理のバランスが悪くない。こちらもおすすめ。
 個人的ベストはまったく先を読ませないストーリーの妙で読ませる「砂漠で洪水を待つ箱船」。ただ、これについてはオカルト的な味つけがほとんどないのが惜しい(笑)。

 まあ、さすがに五巻ともなると突出した作品はないけれど、トータルでは良質の短編集である。次はそろそろレオポルド警部を進めてもらいたいところだが、さてどうなるか。


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 エドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿IV』を読む。
 早いものでオカルト探偵サイモン・アークの日本版短編集もこれで四巻目となる。以前の三冊は著者ホックが自らセレクトした短編集だったが、ホック亡き後の四巻目は、訳者の木村二郎氏が編んだものだ。収録作は以下のとおり。

The Hoofs of Satan「悪魔の蹄跡」
The Judges of Hades「黄泉の国の判事たち」
The Hour of None「悪魔がやって来る時間」
The Dragon Murders「ドラゴンに殺された女」
The Treasure of Jack the Ripper「切り裂きジャックの秘宝」
The Unicorn's Daughter「一角獣の娘」
Robin Hood's Race「ロビン・フッドの幽霊」
The Man Who Boxed Forever「死なないボクサー」

 サイモン・アークの事件簿IV

 フランスのミステリ作家ナルスジャックの言葉に、「推理小説とは、恐怖を推理が静める物語」みたいな言い方がある。さしずめサイモン・アークの事件簿などは、この言葉を見事に実践した物語だといえるだろう。なんせ探偵役は御年二千才を数えようかという正体不明の悪魔ハンター。その彼が怪奇色に彩られた事件の謎を論理的に解き明かしていく様は、まさに推理小説の醍醐味である。ただ、ホック作品の場合、静めるほどの恐怖成分がやや不足気味なのが残念なところだ。

 とはいえ木村氏のセレクトは、事件の発端や設定に魅力的なものが多く、雰囲気はすこぶるよい。
 ホック自身のセレクトも悪くないのだが、どうしても著者ゆえの思い入れがあるせいか客観的な評価とずれてしまいがちである。そういう意味では四巻目といっても内容的にはしっかりしたもので、まだまだ楽しめる作品が残っていることを感じた次第。もちろんホックのアベレージの高さあってのことだけれど。

 マイ・フェイバリットは、まず「黄泉の国の判事たち」。”わたし”の父と妹の自動車事故を扱った作品だが、非常にシンプルながらアイディアが秀逸。
 修道院での殺人事件を捜査する「悪魔がやって来る時間」は腰砕け気味のトリックながら、修道院に潜む”悪魔”の存在がドラマチック。個人的にはこれがベスト。
 「ドラゴンに殺された女」は湖でドラゴンに襲われるという突拍子もない事件の謎を解く。この設定だけでも引き込まれるがオチも上手い。
 興味はそれぞれ異なるが、どれもホックの欠点ともいえる淡白さが最小限に抑えられた佳作である。


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 二〇〇八年に亡くなったエドワード・D・ホックの最後の作品集となったのが、本日の読了本『エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ』。言うまでもなくホームズ譚のパスティーシュをまとめた短編集である。まずは収録作。

The Most Dangerous Man「いちばん危険な人物」
The Return of the Speckled Band「まだらの紐の復活」
The Adventure of Vittoria, the Circus Belle「サーカス美女ヴィットーリアの事件」
The Manor House Case「マナー・ハウス事件」
The Christmas Client「クリスマスの依頼人」
The Addleton Tragedy「アドルトンの悲劇」
The Adventure of the Domino Club「ドミノ・クラブ殺人事件」
The Adventure of the Cipher in the Sand「砂の上の暗号事件」
The Christmas Conspiracy「クリスマスの陰謀」
The Adventure of the Anomymous Author「匿名作家の事件」
A Scandal in Montreal「モントリオールの醜聞」
The Adventure of the Dying Ship「瀕死の客船」

 エドワード・D・ホックのシャーロック・ホームズ・ストーリーズ

 ううむ、期待していたほどではなかったか。ホックはもともと多作な人だっただけに、ある程度のアベレージは残せているものの、ガツンとした手応えを感じることはそう多くはない。それでも本作はホームズのパスティーシュでもあり、かなり力は入っているはずと踏んだのだが、ミステリとしてもパスティーシュとしてもまあまあといったレベルである。

 ただ、それなりの趣向は凝らしており、読者に対するサービス精神は感じられる。
 例えば、某犯罪者の側からホームズを語った「いちばん危険な人物」。ホームズ譚をエラリー・クイーン風に仕立てた「マナー・ハウス事件」。実在の某有名作家を依頼人に設定した「クリスマスの依頼人」。アイリーン・アドラーとの再会を盛り込んだ「モントリオールの醜聞」。ホームズのライバルの一人”思考機械”の作者、ジャック・フットレルとホームズが、タイタニック号で競演する「瀕死の客船」。
 目のつけどころはよく、楽しいことは楽しい。ただのパスティーシュでは終わらせるわけにはいかないという意地みたいなものは感じるのだが、それだけにミステリとしてのこだわりが逆に薄味なのが惜しまれる。

 最後に、これは個人的好みではあるが、この表紙はちょっとアレ。西山クニ子氏はホックのサム・ホーソーンものなどミステリの装画も多く手掛けているが、ホームズのもつ雰囲気には全然合わないんではないかなぁ。


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 エドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿III』を読む。オカルト探偵サイモン・アークものの短編集第三弾。まずは収録作から。

The Witch Is Dead「焼け死んだ魔女」
Sword for a Sinner「罪人に突き刺さった剣」
The Weapon Out of the Past「過去から飛んできたナイフ」
The Sorceress of the Sea「海の美人妖術師」
Prisoner of Zerfall「ツェルファル城から消えた囚人」
The Way Up to Hades「黄泉の国への早道」
The Virgins of Valentine「ヴァレンタインの娘たち」
The Stalker of Souls「魂の取り立て人」

 サイモン・アークの事件簿III

 サイモン・アークはサタンを求めて世界中を旅するオカルト探偵。自称なんと二千歳というわけで、その設定自体はファンタジーや幻想小説のそれである。事件もまた怪奇性を帯びたものが多いが、本当に超常的な事件はほぼ皆無であり、アークがその真相を論理的に解決するという、実はまっとうな本格ミステリなのである。
 当初は著者も、怪奇な謎が論理によって解決されるというスタイルをかなり意識していたと思うのだが、シリーズが長くなるとあまりその意味も薄れてきたせいか、後期の作品ほどわりと普通の謎解きミステリになってきたようだ。それが物足りないといえば物足りない。出来のいい作品は、やはり怪奇性と真相のギャップが見事だ。

 ところでこのシリーズも三冊目、しかも著者の自選短編集なのでだんだん出来が落ちてくるのかと思いきや、初めから三冊予定だったらしく、質的には他の二冊とそれほど大きな差はない。残念ながらオオッと仰け反るほどのものはないけれど、安定したレベルではある。
 印象に残ったのは、まず「焼け死んだ魔女」。それこそ上で書いたように、魔女の呪いという怪奇性と真相の対比が鮮やかである。雰囲気だけだったら「罪人に突き刺さった剣」も悪くないが真相が弱いのが残念。
 『海の美人妖術師』は海底から現れる人魚の種明かしが好み。もうトリックとか錯誤とかではなく、ほとんどそのまんまである(笑)。
 「黄泉の国への早道」は純粋に上手い作品。本書中ではこれがベストか。

 なお、訳者の木村氏によると、ホックのサイモン・アーク自選短編集はこの三巻目で打ち止めだったらしいが、いいものがまだ残っているということで、木村氏チョイスで第四巻が出るらしい。
 まあ、そんなことを言わずにどうせなら残りも全部出してほしいところだが(まだ2/3ほどが未訳のようだ)、もし質や売上げ云々で厳しいのであれば、ここはぜひ他のシリーズで目先を変えてもらっても大いにけっこうである(笑)。とりあえずレオポルド警視やジェフリー・ランドものはサクッと短編集が編めるだろうし、ギデオン・パロとかマイナー系もぜひ。
 期待しております。


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 エドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿II』を読む。
 ホックの生んだ探偵は数多いが、アークはオカルト探偵としてひときわ異彩を放つ存在だ。本書はそのアークの活躍譚の中から著者自身がセレクトした、いわば自選作品集の第二弾である。

 サイモン・アークの事件簿II

 二千年の長きにわたり、悪魔を探し求める謎の男サイモン・アーク。彼の行くところ、常に超自然現象が発生し、怪奇な事件が巻き起こる。だが、その裏に隠された真実は……。

 本シリーズ最大の特徴は、主人公自身が超自然的存在であるということ。にもかかわらず、事件そのものはいたって真っ当な本格ミステリとして解決される。この相反する二つの要素がいろんな意味でポイント。
 まあ、ホックの書くミステリは常に謎解きがテーマなわけだから、仰々しくオカルト探偵と謳っていても、あくまで味つけレベルであるのは致し方ないところ。その分読者は構えることなく、安心していつものホックの世界に浸れるわけだ。
 ただ、個人的にはそういうところが物足りなく感じることもあるわけで、これがやはりオカルト探偵として知られるホジスンの『幽霊狩人カーナッキ』あたりだと、バランスは悪いけれども超自然現象と本格のどちらで着地するか最後までわからないという変な魅力がある。ホックの作品はいい意味でも悪い意味でも「軽み」がキーだから、こういうダークなムードには元々似合わないのかもしれない。実際、アーク・シリーズもスタート当初はオカルト趣味全開だが、後期の作品ほどオカルト趣味は薄れているようだ。

The Man from Nowhere「過去のない男」
City Of Brass「真鍮の街」
The Avenger from Outer Space「宇宙からの復讐者」
The Vultures of Malabar「マラバールの禿鷲」
The House of a Hundred Birds「百羽の鳥を飼う家」
No Blood for a Vampire「吸血鬼に向かない血」
The Graveyard Ghoul「墓場荒らしの悪鬼」
The Gravesend Trumpet「死を招く喇叭」

 収録作は以上。全体的に安心して読めるレベルではあるが、上で書いたように「軽み」が先に立つためあまり怪奇な方面を期待すると肩すかしを食らうので念のため。二つ目の「真鍮の街」は中編で、ネタとしても味わい的にも本書中のベストであろう。


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 ちょくちょくおじゃましている空犬さんのブログで知ったのだが、本日から池袋の東武百貨店で「甦る江戸川乱歩の世界展」というものが始まったらしい。ついこの前に横浜で「大乱歩展」があったばかりだし、同じ池袋の東武百貨店でも「江戸川乱歩と大衆の20世紀展」というのが何年か前にあったよなと思ったが、どうやら乱歩の資料や蔵書も公開されるけれど、同時に乱歩作品にインスパイアされた現代のアーティストの作品展示が中心のようである。ううむ、これはやっぱり見ておくしかあるまい。
 期間は8月4日までということなので、御用とお急ぎでないかたはぜひどうぞ。

 しかし、乱歩のネームバリューや存在感はやはり別格だ。ミステリ作家、いや小説家全般をとっても、ここまで頻繁に展示会やイベントが行われる作家はそうそういない。松本清張や横溝正史クラスでも、この手の催し物の回数では、乱歩の足下にも及ばないものなぁ。


 さて、本日の読了本はエドワード・D・ホックの短編集『夜の冒険』。ハヤカワ文庫の<現代短篇の名手たち>の一冊である。
 ホックは短編専門作家というだけでなく、怪盗ニックやサム・ホーソーン、レオポルド警部、サイモン・アークなど数々のシリーズキャラクターを創りあげたことでも有名だが、本書はその有名キャラクターが一切登場しないノンシリーズ短編の傑作集。1955~1979年に書かれたものの中からホック自身が選んだベスト集成となる。
 それだけに収録作は粒揃いで、満足度も高い。シリーズ物もキャラクターの魅力とかはあるけれど、作品の質やレベルということであれば、ノンシリーズの方がアベレージでは上だろう。ホック流の“奇妙な味”やダークサイドを味わえる作品も多く、シリーズものでの束縛から放たれ、想像力の翼を自由に羽ばたかせる短篇職人の姿がそこにある。おすすめ。

 夜の冒険

Inspector Fleming's Last Case「フレミング警部最後の事件」
The Man Who Was Everywhere「どこでも見かける男」
The Passionate Phantom「私が知らない女」
The Night People「夜の冒険」
Festival in Black(The Saint「影の映画祭」
I'd Know You Anywhere「くされ縁」
The Way of Justice「正義の裁き」
The Empty Zoo「空っぽの動物園」
Ring the Bell Slowly「静かに鐘の鳴る谷」
Stop at Nothing「やめられないこと」
Another War「もうひとつの戦争」
The Impossible "Impossible Crime" 「不可能な“不可能犯罪”」
The Way Out「出口」
The Man at the Top「大物中の大物」
Burial Monuments Three「家族の墓」
The Scorpion Girl「サソリ使いの娘」
The Price of Wisdom「知恵の値」
Second Chance「二度目のチャンス」
Three Weeks in a Spanish Town「スペインの町で三週間」
The Rattlesnake Man「ガラガラヘビの男」


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 エドワード・D・ホックの『サム・ホーソーンの事件簿VI』を読む。
 シリーズ作品を発表順にすべて収めてきたこの日本版サム・ホーソーン全集も、この巻をもって終了。理由はミステリファンの皆様ならご存じのとおり、作者の逝去(そういえばこの17日で丸二年になる)。亡くなったことは残念だが、人気もあるうえにMWA巨匠賞まで受賞し、最後まで作家として執筆活動を続けられたわけだから、作家としてはずいぶん幸せな方であろう。しかも本国だけでなく遠く離れたこの小さな島国でも、今もこうして次々と短編集が上梓されているのだ。
 もちろん、そんな恵まれた作家生活を全うできたのも本人の実力あればこそ。とりわけサム・ホーソーンもののように、不可能犯罪にこれだけ挑戦し続けたシリーズは類を見ないし、ミステリにおける貢献は計り知れないものがあるだろう。あらためてホックの偉大さを感じる次第である。

 サム・ホーソーンの事件簿VI

 さて、このシリーズの見どころは言うまでもなく不可能犯罪にあるわけだが、「時の流れ」が物語のアクセントになっている。これだけ長いシリーズ、しかも一話完結のシリーズになると、だいたい作中の時間経過などあってないようなものが多いが、ホックは意外にこれを重視していた節がある。
 もともとサムはしっかり作中で年輪を重ねていたし、町の発展や住人の去就などの描写も少なくはなかった。でもそこまでは普通のシリーズものでもよくある話。本シリーズでは、戦争の影が落ちてくる『V』あたりで、それらがいっそう顕著になってきた感がある。世界のあちらこちらで戦争が始まり、ついにはアメリカも参戦、そして町の若者も徴兵されるに至り、読者は時代の変化をいやがうえにも意識せざるを得ない。
 既に老人となったサムが昔語りをするという恒例のスタイルもポイントである。初めは正直あまり意味のないスタイルだと思ったのだが(笑)、こうして六巻までくると、これが意外な効果を上げていることに気づかされた。
 おそらくホックはこのシリーズの語り手のサムが、リアルに事件を解決するところまで書きたかったのではなかろうか。いや、そこまではいかないにしても、せめてこの昔語りと作中でのリアルな時間が一致するところまで。
 本書の「自殺者が好む別荘の謎」などを読むと、その感をいっそう強くするのだがどうか。

 あえて田舎町で繰り返し不可能犯罪が起こる不思議。それはあくまで事件を寓話的に語りたいからだろうと以前は考えていた。だが、むしろクロニクルとして見せることで、実はアメリカそのものの縮図として描きたかったのかなぁなんてことも思った次第である。

 なんだか変な方向に感想が転んでいったが、もちろん本格ミステリとしても楽しめるのはいつもどおり。これだけ続くとさすがにどれも傑作というわけにはいかないが、「羊飼いの指輪の謎」はまず十分な出来。本書中の一押しである。
 サムの活躍、そして家族との行く末も含め、これはファンなら読むしかないでしょ。


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 更新がまたもや滞ってしまった。決してたっぷりお盆休みをとっていたのでなく、むしろ仕事三昧。先週末も仕事をテイクアウトし、自宅で黙々とこなす。その間に世間では、押尾学や酒井法子が事件を起こしたり、大原麗子や山城新伍が亡くなったり、地震や台風が猛威を振るったりと、まあ何という世の中であることよ。


 読書にもあまり集中できないから軽いものを、ということで、この一週間はエドワード・D・ホックの『サイモン・アークの事件簿』をぼちぼち読み進めていた。
 ホックが生んだ数多い探偵役のなかでも、最初に誕生したのが、このオカルト探偵サイモン・アーク。50年の長きに渡って書き続けられたこのシリーズの全貌を紹介するという意味もあり、本書ではシリーズ第一作にしてホックのデビュー短編でもある「死者の村」をはじめとして、各年代から代表作をセレクトするという構成をとっている。
 収録作は以下のとおり。他のアンソロジーやら雑誌やらからの転載も多く、意外に既読が多かったのがやや残念だったが、こうして一冊にまとめる意義は十分にあるだろう。

The Village of the Dead「死者の村」
The Vicar of Hell「地獄の代理人」
Day of the Wizard「魔術師の日」
Funeral in the Fog「霧の中の埋葬」
The Man Who Shot the Werewolf「狼男を撃った男」
The S.S.S.「悪魔撲滅教団」
The Touch of Kolyada「妖精コリヤダ」
The Society of the Scar「傷痕同盟」
Master of Miracles「奇蹟の教祖」
The Faraway Quilters「キルトを縫わないキルター」

 サイモン・アークの事件簿

 サイモン・アークは、悪魔や超常現象の専門家である。数々の怪奇な事件に出馬を要請されるアークだが、その尋常ではない知識、さらには二千歳とも噂される年齢など、事件以上に彼自身がミステリアスな存在でもある。
 とはいえ、ベースになるのはあくまで本格もの。初期の作品こそオリジナリティを出すために雰囲気や設定に注力したという印象はあるのだが、後期の作品ほどオカルト色は薄まり、アークもずいぶん普通になってしまうのが何ともはや。逆にいえば思ったほどのクセはないので、ホックの短編が好きな方なら、誰でも普通に楽しめるだろう。
 ただ、本格ものとしても若干パンチ不足の感はある。個人的にはむしろもっとオカルト色を強め、そのルールの中で成立する本格に仕立ててもらった方が、よりシリーズの独自性が強まって良かったような気はする。まあ、それが大変なんだろうけど(笑)。
 お気に入りは「死者の村」「妖精コリヤダ」「キルトを縫わないキルター」あたり。なかでもロシア版サンタクロースの謎を追う「妖精コリヤダ」は奇妙な味の系統で悪くない。II巻も企画されているそうだが、どうせならこの路線のものを多く採ってもらえると嬉しいなぁ。


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