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 S・H・コーティアの『ドリームタイム・ランド』を読了。以前に読んだ『謀殺の火』は設定の妙と奇抜な構成で読ませる佳作だったが、やはり異色作の部類であろう。その点、本作『ドリームタイム・ランド』は、シリーズ探偵のヘイグ警部が登場することもあって、著者にとってもメインストリームのはず。したがって、こちらの方がより著者の力量がハッキリ出るのでは、などという興味のもとに読んでみた次第。

 商店を経営するジョックのもとへ、不仲の従兄弟ローリーから至急会いたいという手紙が届いた。ローリーは現在、オーストラリアの先住民アボリジニの神話を再現したテーマパーク『ドリームタイム・ランド』で働いている。そこで何やら窮地に陥っているらしく、手紙には彼が借金をしているという人のリストと金額が同封されていた。
 ただならぬ雰囲気を感じたジョックは急いでローリーの元へ向かうが、その途上で車にはねられて死んだローリーを目撃する。だが警察の調べにより、ローリーの死は殺人だったことが判明する……。

 ドリームタイム・ランド

 『謀殺の火』同様、やはり一筋縄ではいかない世界観。良くも悪くもこの強烈なオリジナリティで読者を引き込んでゆく。そのあまりに特殊な世界観ゆえ、ちょっとディキンスンの作風を連想させるが、コーティアのそれはミステリとして成立させる意識が明白であり、あくまで論理で恐怖を鎮めようとする。クセのないディキンスン、といったら作者に失礼か。
 とはいえアボリジニの神話世界をミステリに溶け込ませる手際は不自然ではなく、必然性すら備えているところは評価できるだろう。
 登場人物の書き分けも悪くないし、ヘイグ警部のキャラクターは世界観に負けないほどの印象を残す。こちらは喩えればH・M卿とかの路線っぽい。

 ただし、瑕もまた多い。気になるところが随所にあって、その筆頭はやはり暗号。暗号自体を用いる理由はわかるけれども、この暗号では受け手が暗号と気づくかどうかも疑問であり、解読されたとしてもその意味がおそらく通じないという、どうしようもない代物である。殺人が発生した状況でテーマパークが客を入れて営業し続けるのもどうかと思うし、ううむ。
 あと、願わくばテーマパークの見取り図というか、地図がほしかったところだ。ひとつひとつの場面は頭に浮かんでも、そのつながりや全体像がまったくイメージできないのは辛い。これは原書になかったとしても、新たに起こしてほしかった。

 で、最初の興味、著者の実力は果たしてどの程度なのかという問題だが、もしかするとコーティアにはあまり緻密なものを望まないほうがいいのかもしれない。謎解きが疎かになっているとまでは言わないが、どうしても特殊な設定や舞台により心を砕いている印象が強い。もちろんそれが他の作家では味わえない魅力となっているのも事実なので、できればもう少し紹介を続けてもらいたいものだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 本日の読了本はS・H・コーティアの『謀殺の火』。
 タイトルとカバーデザインはけっこう内容を素直に表しているのだが、これがもうひとつインパクトに欠け、設定の面白さや奇抜さが全然伝わってこない。そのためなかなか読む気になれなかった一冊だったのだが、いやいや、これはいいじゃないですか。

 謀殺の火

 渓谷に小さな集落を構え、酪農を中心にして暮らす人々がいた。だが、あるとき渓谷を大火災が襲い、36人の住民のうち9人が死亡するという悲劇が起こる。六年後、一人の男がその原因を究明しようと渓谷にやってきた。手がかりは渓谷で死んだ友人から送られてきた数々の手紙。果たして渓谷で彼がたどりつく真相とは……?

 本作で注目すべきは、何といってもその結構にある。登場人物はほぼ主人公一人といってよい。彼が火災のあった渓谷を訪れ、親友の手紙をもとに焼け跡を巡り、事件の核心に着実に迫っていく構成は、実にスリリングだ。オーストラリアの過酷な大自然を背景にしていることも、独特の雰囲気を醸し出すことに成功しており、登場人物が一人とは思えないほどの不思議な迫力に満ちている。もちろん本格マインドも十分。
 終盤、ある人物が登場することによって、逆に緊張感やサスペンスが失速気味になるのはやや残念だが、ラストではしっかりもう一撃食らわせてくれることもあるので良しとしよう。何より著者のチャレンジ精神、オリジナリティを高く評価したい。

 なお、著者のS・H・コーティアはオーストラリアのミステリ作家。オーストラリア出身の作家といえば、最近ではパトリシア・カーロン、古いところではアーサー・アップフィールドなんてところが有名だが、先輩たちに続いて、コーティアもこの一作で日本に名を残すはずだ。

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