飯城勇三の『エラリー・クイーン完全ガイド』を読む。著者の飯城勇三はエラリー・クイーン・ファンなら誰でも知っている研究者で、これまでも何冊かガイドブックや評論を書いている方。特にぶんか社から出た『エラリー・クイーンPerfect Guide』は初心者のみならず中級者、いや、それまでクイーンに関する手頃なガイドがほぼなかったので、マニアでもかなり役に立つ一冊だったのではないだろうか。

本書は新書版で、『エラリー・クイーンPerfect Guide』よりさらに手軽であり、簡潔にクイーンの世界を俯瞰できる一冊。
基本的には名探偵エラリー・クイーンともう一人の名探偵ドルリー・レーンの登場作品をすべてあらすじから読みどころに至るまで解説し、さらにコラムでクイーン・シリーズに関するトピックを押さえている。加えてクイーンが日本に与えた影響を知る意味で、日本のミステリ作品も多く言及しており、反対にクイーンの編集者やアンソロジスととしての業績はほぼカットしているのが特徴だ。
あくまで入門ガイドとしての作りなので、全方位的にせず、作品に絞った点はすっきりしてよい。むしろ内容は濃いのに作りがチープだった印象の『エラリー・クイーンPerfect Guide』より、好感がもてる作りである。
入門者向けとはいえ、けっこう深いところまで解説している部分も多く、クイーンはすべて読んだという人にも楽しめる内容である。
ただ、深いところもある一方で、本当の初心者向けの企画はそれほどない。入門書であれば、必読書や読む順番のオススメなどはコラムでもいいので、入れてもよかったのではないか。
ドルリー・レーンなどもできれば早いうちに読んだ方がいいし、発表順に『ローマ帽子〜』からいくと途中で挫折する人も出そうだ。クイーンの魅力を堪能するなら、ライツヴィルものはぜひ読んでほしいところだし、読者の裁量に任せるにしても、作風などを一望できる表があってもよかったかもしれない。
もうひとつ編集的なところに注文をつけさせてもらうと、こちらは入門書の意識が強すぎたか、フォントの種類やサイズ、飾り罫などを多用しているのが気になった。モノクロの新書なので、かえってゴチャゴチャした印象になり、やや読みにくさを感じた。
編集者の考えや好みもあろうが、カジュアルな本ではあるが決して子供向けではないので、もし同様の企画があるなら再考してもらえると嬉しい。
ということで不満もないではないが、トータルでは十分に満足できる一冊。
こういう企画ができる海外のミステリ作家は多くはないだろうけれど(クイーンですら限界という気もする)、ディクスン・カーなどはマニアも多いし、それこそ同人でやっている方々に協力してもらってなんとか実現すればいいのにと思う次第。まあ、ビジネスになるかどうかは知らんけど。