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 昭和61年に角川選書として刊行された『少年小説の世界』という評論集を読む。
 ここで語られる少年小説は、いわゆる大人が勧める立派な児童文学ではない。あくまで血湧き肉躍る大衆少年小説である。
 子供向けホームズ談でミステリに目覚めた管理人としては、もちろん少年探偵団などメジャーどころは読んできたし、この歳になっても気になったものは読んだりすることもある。しかし、所詮はつまみ食い程度。興味があるものはほとんどがミステリ絡みだし、大衆少年小説というジャンルを言葉では知っていても、その全貌など知るよしもない。そういう人間が手っ取り早くその周辺知識を仕入れるにはもってこいの本である。
 いや、そういう説明は適切ではないな。気軽な気持ちで読み出すと、これはもう胃にもたれること間違いなし。それほどの労作。それほどの質とボリュームを備えた一冊である。こういうご時世なので研究対象とならないジャンルなどない。それを頭ではわかっていても、こうして目の前に出されると圧巻である。

 とにかく資料としては一級品。単に知識を得るために読むのもいいが、それだけではやはりもったいない気がする。読みどころはいろいろあるが、まずは戦争が与えた影響を見逃すわけにはいかない。それは作家の生き方に影響を与え、作品の質に影響を与え、果てはその存在価値をすら問うてくる。
 例えば国威高揚のための作品を多く書いたがために戦犯に問われた海野十三の話は有名である。作品の背景にあるものがどうであろうと、著者の思想がどうであろうと、出来上がった作品の価値に変わりはないはず。しかし、そう単純に言い切れないところに、書くことの難しさや意味がある。海野自身は愛国心の強い人間だったらしいが、敗戦がその後の創作活動に影響を与えたことは想像に難くない。戦犯として問われることは、文学を為す自身の存在意義をも問われることだったのではないか? そういうふうにも捉えることができる。

 現在の少年小説シーンは、完全に昔の熱気を失っている。というかそういうジャンルが現在存在するのかどうかもわからない。それは子供の活字離れなどとも関係があるだろうが、その一方でライトノベルという隠れたベストセラー群があるのも事実(ま、ごく一部ですが)。あるいはハリポタなどのファンタジーの流行もある(ま、これもごく一部ですが)。それらが形を変えた少年小説とまで言い切るつもりはないが、少年小説の復活という芽は含んでいる、本好きの一人としてそう信じたい。


テーマ:ブックレビュー - ジャンル:本・雑誌



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