仕事が一区切りついたこともあって本日は渋谷へ。お目当は東急東横店で開催されている渋谷大古本市だが、東急東横店が来月閉店ということもあって、これが最後の渋谷大古本市。今後、場所や形を変えて開催されるかどうかは知らないのだが、とりあえずはお別れも兼ねて古本漁りである。
買ったものはF・デーヴィス『世界推理小説全集67 閉ざされぬ墓場』、デイヴィッド・ドッジ『世界推理小説全集47 黒い羊の毛をきれ』、結城昌治『風変わりな夜』、『殺意の軌跡』、『遠い旋律』、『新本格推理小説全集6 公園には誰もいない』、陳舜臣『新本格推理小説全集2 影は崩れた』、多岐川恭『新本格推理小説全集7 宿命と雷雨』。どれも300〜500円というところで(多岐川恭だけ少し高かったが)、ネットをみるともう少し安く買えるものもあるんだけれど、まあ餞別がわりで。こういう場で買うのが楽しいというのもあるしね。
読了本は湘南探偵倶楽部さんが発行する復刻版からの一冊。大下宇陀児の短編『盲地獄』。

伊戸林太郎は薬局を営み、“おきち”という恋女房ともいっしょになり、特に不満のない生活を送る若者だった。ところが二十五歳のとき、病によって全盲になってしまう。当然、薬局は続けられず、代わりに“おきち”が仕出し料理の店を出すことになり、当初はそれなりにうまくいっていた。
だが、いつしか“おきち”の気持ちは板前の芳三に傾き、それに気づいた林太郎は二人を憎み、殺害を計画する。それは何年もの準備を費やした完全犯罪のはずだった……。
いわゆる倒叙もの。盲目の主人公が自らの障害を逆手にとり、完全犯罪を狙うというストーリーで、最後は主人公が予想だにしなかった落とし穴が待っている。
まあ、王道といえば王道の展開だし、アリバイトリックもまあまあというところなのだが、コロンボの例を出すまでもなく、倒叙といえばラストのどんでん返しがキモ。本作はそこを比較的上手く落としていて悪くない。また、主人公のネチネチとした語りもストーリーにマッチして雰囲気もよし。
無理があるとすれば、アリバイトリックの前提として、主人公が常人以上の感覚を身につけなければならない点だが、ま、野暮はいいますまい(苦笑)。
なお、本作はタイトルはもちろん内容も相当アレなので、おそらく通常の商業出版物として復刻されることは今後ないかもしれない。まあ、古本で入手できないことはないけれど、そんな作品がこうして同人として復刻されるのは毎度のことながらありがたいかぎりである。