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 昨日に引き続き、湘南探偵倶楽部さんが復刻した「知られざる短篇」シリーズから一冊。著者も昨日と同じ大下宇陀児で、短篇『R岬の悲劇』である。

 R岬の悲劇

 こんな話。理学教授の織部博士は女学校を出たばかりの妻を娶ったが、彼女は親のいいつけに従っただけで、織部博士を愛していたわけではなかった。だが、そんな彼女を支配するようにして、織部博士は結婚生活をスタートさせる。
 あるとき織部博士は論文執筆のため、後輩の秋元理学士の案内で、妻と運転手も同行させてR岬のある温泉宿へ出かけることにした。旅先では灯台で看守の手伝いをする竜吉という学生とも知り合うが、それが織部夫妻と秋元、竜吉の四人に微妙な緊張関係を生む……。

 ちょっと変わった事件というか、趣向が面白い。語り手は織部博士の運転手だが、彼はいわば狂言回し。物語を引っ張るのは、四角関係を構成する織部夫妻と秋元、竜吉の四人である。しかもこの四人だけで●つの事件が起こり、●人が死亡する。
 といっても『そして誰もいなくなった』的なものではないので念のため(笑)。しいていえば二番目に起こる事件がサプライズを伴うものだが、素人には推理が難しいところだ。
 結局、本作の根っこはあくまで犯罪小説だろう。その意味において、ストーリーやプロットは工夫されており、宇陀児のファンなら、といったところか。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ちょっと遠出していたせいでこの二、三日は読書時間もほぼ取れず、本日は軽いものでお茶を濁す。湘南探偵倶楽部さんが復刻した大下宇陀児の『情婦マリ』で、短編を小冊子にしたものだ。

 こんな話。使い込みで薬局をクビになったチンピラの玉野圭三郎は、主人への逆恨みと自宅に溜め込んでいるという現金を目当てに、薬局へ強盗に入ろうと計画する。その話を愛人のマリにしたところ、彼女はそれなら自分が薬局の使用人として潜入し、現金の在処を探ろうと提案する。マリはさっそく色気を武器に、薬局へ勤めることに成功するが……。

 情婦マリ

 薬局への強盗を、犯罪者の側から描いたクライムノベル。強盗の方法や犯行が失敗する過程などには特別な趣向はなく、決して倒叙というようなものではない。読みどころはチンピラカップルの圭三郎とマリに代表される、この時代の若者の無軌道な行動や生き方であり、後年、大下宇陀児が意欲的に書いていた社会派としての部分にあるだろう。
 特にタイトルにもなっているマリのキャラクターが秀逸。本人も自分が何の教養もない人間であることを自覚しつつも、その根底にあるのは自分自身の絶対的な倫理感覚である。一般的な倫理感とのズレは当然あるわけで、その差が怖さを感じさせる。
 昨今、ニュースでも若い両親の子供への虐待事件がよく取り上げられているが、それに通じるところも大きく、今だからこそよりリアルに感じる一作といえるだろう。

 なお、本書は「知られざる短篇 其の一」という副題が示すとおりシリーズになっているようで、今後の展開にも期待したい(すでに「知られざる短篇 其の二 R岬の悲劇」も刊行されている)。
 ただ、一つ注文をつけさせてもらうと、本文の組み方が当時の雑誌に掲載されたものをそのままコピーしており、それは別にかまわないのだけれど、ページ数を減らすための調整だろうか、本文に長体をかけており、これが非常に読みにくい。幸い先に挙げた「其の二 Rの悲劇」で修正されているので一安心だが、このあたりは今後も気をつけていただきたいところではある。

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 大下宇陀児のジュヴナイル長短編を集めた作品集『空魔鉄塔』を読む。発行所は「Noir Punk Press」、レーベル名は「暗黒黄表紙文庫」ということで、やや痛い感じを受けるのが玉に瑕だが、同人版ゆえ温かい目で見てあげるのが吉だろう。
 ちなみに副題には「少年少女探偵小説撰集 戦前編」とあり、ここは今後の展開を非常に期待させるとことろである(今月発売予定の『少女探偵小説 仮面城』がもしかすると続刊なのかな?)。

 空魔鉄塔

「空魔鉄塔」
「金色のレッテル」
「黒星館の怪老人」
「消える少女」
「奇怪な土産」
「六人の眠人形」
「怪盗乱舞」

 収録作は以上。「空魔鉄塔」は昭和十二年に「東日小学生新聞」連載されていたもので、本書中、唯一の長編。日本の秘密兵器を狙う敵国の空魔団、それを防ぐ少年少女たち、という展開は当時にはありがちなストーリーなのだが、思った以上にそつなくまとめているのはさすが大下宇陀児。
 最近読んでいた楠田匡介、西條八十あたりの破天荒さに慣れてしまうと、少々物足りなさもないではないが、スケールは大きく、ツボも押さえていて安心して楽しめる一作。その他の短編もまずまずといったところ。

 ちなみに最近の同人系のなかでは造本がしっかりしているのは好印象。ただ、活字をここまで大きくする必要があったのかは疑問である。そのせいでページ数も嵩張ってしまったのが惜しまれる。

 しかし従来は一部の好事家しか興味を示さなかった戦前戦後の子供向け探偵小説だが、最近は商業出版、同人にかぎらず、ずいぶん復刊される機会が増えてきているようだ。ただ、読めば読むほど、いつも乱歩の偉大さを痛感する羽目になるんだけれどね(苦笑)。

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 だいぶ回復したがまだ体調万全とはいかず。とはいえ、けっこう休みや早退で仕事も遅れがちなので、今週は騙しだまし業務に復帰。まだ筋肉や関節のあちらこちらに痛みがあって、電車がけっこう辛い。


 大下宇陀児の少年探偵小説『黒星團の秘密』を読む。元は青柿社から昭和二十三年に発行されたもので、それを湘南探偵倶楽部さんが復刊した同人版である。

 こんな話。かつて東京を騒がせた犯罪組織“黒星團”。企業や大金持ちから金銀財宝を略奪するが、被害者はみな悪人ばかりであり、決して殺人などの暴力犯罪は犯さない、いわば義賊の集団であった。しかし、あるとき急に“黒星團”は活動を停止し、人々もその存在を忘れていった。
 それから十五年。突如、“黒星團”は夕刊に広告を掲載し、その犯罪活動を再開すると宣言した。人々は驚きながらも、ひどい目にあうのはどうせ悪人だけだという安心感もどこかにあったのだが……。
 そんなある日の夜、一人の少年が住宅地を歩いていると強盗事件を目撃する。口封じのため犯人に捕らえられた少年は、彼らこそ世間を騒がす“黒星團”だと知らされるのだが……。

 黒星團の秘密

 大下宇陀児のジュヴナイルはあまり読んだ記憶がないが、これはけっこう面白く読めた。
 ストーリーがとにかくよい。もとは少年向け雑誌『日本少年』に連載していただけあって、章ごとに見せ場があり、テンポよく物語が進んでいく。かといって当時の少年ものにありがちな、度を越した設定やアクションは少なく、バランスが思った以上にいいのである。
 プロットもかなり工夫されているし、もちろんメインの仕掛けなどは今読めば見え見えなのだけれど、こういうネタは当時は新鮮だったろうし、いやあ、これは悪くない。
 設定から想像するに、おそらく元ネタはルパン・シリーズかマッカレーのブラック・スター・シリーズあたりだと思うが、ブラック・スターってそのまま黒星なわけだから、まあ、後者なのだろう。

 ちなみに本書とほぼ同時期に、東都我刊我書房さんから『黒星章 -黒星団の秘密-』というのが復刊されている。こちらはなんと本書の戦前版ということで、内容的にかなりの違いがあるらしい。本書の記憶が薄れないうちに、そちらも読んでおかないとだな。

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 大下宇陀児の『自殺を売った男』を読む。1958年に『週刊大衆』に連載され、同年に光文社から刊行されたものである。

 まずはストーリー。
 学生時代の万引きで身を持ち崩した四宮四郎。その原因となった麻薬から抜け出すこともできず、日々を無気力に生きるチンピラだった。そんな自分に愛想を尽かし、美容師の彼女とも別れて自殺するため伊豆へ向かった四宮。ところが自殺の直前、カップルに発見された四宮は一命を取りとめ、就職まで世話をされてしまう。
 なりゆきに任せて気楽な生活に浸ってゆく四宮だったが、そこへ四宮を殺すように依頼されたという男が現れ、雲行きが怪しくなってくる。なんと男は、四宮を殺しはしないから自殺したことにしてほしいというではないか。しかも謝礼まで払うという。謝礼に目がくらんだ四宮はその話に乗るのだが……。

 自殺を売った男

 雑誌掲載時に著者自身が「名探偵が出てくるような本格探偵小説を書くつもりはなく、しいていえば倒叙探偵小説に近いがそれとも違う」というようなことを書いているのだが、別にミステリとしてそんなに凝った作品ではなく、要するに普通にサスペンスとして読めばよい。
 もともと大下宇陀児は本格専門の書き手というわけではなく、サスペンスやスリラーなどが多かったわけだが、戦後は単なる娯楽作品から社会派・リアリティ重視へと移ってゆく。本作も基本的にはその流れを組む作品であり、戦後に流行ったアプレと呼ばれる無軌道な若者たちの生態に焦点をあて、その生き方や考え方、そして立ち直る姿を描いている。

 ただ、思ったほどストーリーが弾けず、主人公が自殺を持ちかけられるあたりでようやく盛り上がってきたかと思うのだが、その後もいまひとつ盛り上がらないまま終わってしまうのは、単純にミステリとして物足りないところだ。
 特に終盤の展開は、主人公が他の人間の報告を聞くような形でストーリーの重要な部分が進んでしまい、粗方の謎も解けてしまう始末。なんだか連載を早く終わらせなければならない事情でもあったのかと、思わず勘ぐってしまうレベルである。

 そんななかで興味を惹かれたのは登場人物の造形。特に主人公とその恋人の描き方はまずまず面白い。
 主人公は何をするにも中途半端で、そのときどきの感情で流されることがほとんど。更生もそれほど真面目には考えられないが、かといって徹底的な悪党にもなれないというキャラクター。その一方で主人公の彼女が教養はないのだけれど実行力がり、何より生きる力に溢れている。そのくせ駄目男の彼氏にはとことん尽くすという側面もあり、ああ、こういうダメンズ好きのしっかり女はこんな時代からいたのだなと思わず膝を打つリアリティである(笑)。
 ミステリとしては弱いけれども、そういった当時の世相や若者像を垣間見る一冊としては悪くない読み物であった。

 なお、本書は当然ながら絶版だが、昨年に光文社文庫から出た『大下宇陀児 楠田匡介 ミステリー・レガシー』に収録されているので、興味ある方はそちらでどうぞ。


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 実は先週、会社が移転。それほど大きく離れたわけではないが、これまでの充実したランチと書店、古書店に恵まれていた神保町からは少々遠くなり、昼飯ついでに古書展をひやかすといったことはできなくなってしまった。まあ、無駄遣いしないからいいのか(苦笑)。


 論創ミステリ叢書から『大下宇陀児探偵小説選 II 』を読む。主に初期の通俗スリラーをまとめていた『〜 I 』に対し、こちらは後期の社会派と呼ばれるリアル志向の作品を中心に編まれている。

 大下宇陀児探偵小説選II

「金口の巻煙草」
「三時間の悪魔」
「嘘つきアパート」
「鉄の舌」
「悪女」
「親友」
「欠伸する悪魔」
「祖母」
「宇宙線の情熱」

 とりあえず小説のみ記載。本書にはこの他、多数のエッセイの類も収録されており、大下宇陀児の探偵小説観がうかがわれて実に興味深い。
 上でも書いたように、大下宇陀児の興味はトリックや名探偵などといった本格探偵小説特有のガジェットから、リアルに人間心理や動機、社会問題を描くといった路線に移行していく。その真意や理由を示した文章がこうしてまとめられただけでも本書の価値がある。ひとつひとつの文章は短いものが多いけれど、物言いは力強く、非常に真面目に探偵小説に向かい合っていることがわかる。ともすると忘れられた作家扱いもされてしまうが、この時代ではやはり頭ひとつ抜けた存在であることを再認識できるだろう。

 最初の三篇「金口の巻煙草」「三時間の悪魔」「嘘つきアパート」は、リアル路線への移行的作品といったところ。皮肉なオチを効かせてそこそこ楽しませるが、そこで読者に何らかのものを残せるほどの力はない。

 目玉はやはり長篇『鉄の舌』か。なるほど宇陀児の目指すリアル志向とはこういうものかというイメージは理解できる。しかし、ただただ理不尽なだけの主人公の転落、しかも主人公自らも火に油を注ぐような行動をとるにいたっては正直、読むのが辛いだけである。意外な探偵役の登場、犯人確定の決め手などに多少の見どころはあるのだけれど。
 ラストは一応ハッピーエンドではあるが、あれぐらいでは救われんよなぁ。

 それに比べると「悪女」以降の短編は悪くない。特に「悪女」に登場する女中の伊勢、「欠伸する悪魔」に登場する容疑者の比留根市助、この二人の人物像がかなり面白くて、事件に与える影響が読ませどころである(それぞれ方向性は違うけれど)。
 こういうスタイルで昇華できるのであれば、いわゆる社会派がまた違った形で成長していったのかもしれないと思ったりもするのだけれど、ただ、これはどちらかというと大下宇陀児の味であって他の作家が真似できる部分ではない気もするな。


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 論創ミステリ叢書から『大下宇陀児探偵小説選 I 』を読む。戦前探偵作家としては乱歩、甲賀三郎と並ぶビッグ3の一人、しかも今では読めない作品がごろごろしているというのに、論創ミステリにはなかなか収録されなかったので、今回の刊行は実に嬉しいかぎりである。
 収録作は以下のとおり。「蛭川博士」が長篇で、犯人当て懸賞小説として発表された短編が三作、さらには随筆が二本という構成でなかなかの豪華版。いつもながら論創ミステリ叢書の本作りはナイスである。

■創作篇
「蛭川博士」
「風船殺人」
「蛇寺殺人」
「昆虫男爵」
■随筆篇
「「蛭川博士」について」
「商売打明け話」

 大下宇陀児探偵小説選I

 ところで大下宇陀児の作風だが、ロジックやトリックを中心とした本格謎解き物はほとんど書かれていない。興味はあくまで犯罪者の心理や動機といったところにあったのだが、ただ、その表現の仕方については割と大きく変化している。
 具体的には、初期、つまり戦前に書かれたものは主にエンタメ路線であり、通俗的なスリラータイプ。それが戦後には社会問題を絡めたリアル路線へと移行していると。まあ、必ずしもそれがすべてに当てはまるわけではないが、ざくっとした認識としては、こんな感じでOKだろう。

 で、本書に採られているものは、その初期の通俗スリラータイプの作品である。特に「蛭川博士」は正にこの時代を代表する一作。
 ともすると評価されがちなのは後期の作品が多い大下宇陀児だが、実は探偵小説の香りが色濃く感じられるのはこの初期タイプ。おそらくはトンデモ系の確率も高く、それなりにリスクも伴うけれど(いや、実はこれが楽しいのだが)、個人的にはこちらのタイプをこそオススメしたい。

 我ながら前置きが長すぎる。以下、収録作の感想。
 『蛭川博士』は不良グループの青年を主人公にしたサスペンスもの。海水浴場での女性殺害事件に端を発し、捜査線上に浮かんだ「蛭川博士」という謎の人物にスポットをあてつつ、平行して主人公とヒロインの恋愛模様もつづるという盛り沢山の内容。
 メイントリックは今となっては予想されやすいものではあるが、当時としてはまずまず斬新(ただし乱歩に先例があったはず)、展開もスピーディーで悪くない。
 ただ、前半においては視点がかなり変わることもあって、とっかかりが掴めないまま読み進めるような不安定さが気になった。なんせ途中までは誰が主人公なのかも判断できないのである。
 とはいえ思った以上に破綻もないし、犯人の心理や動機に関してもなかなか興味深いものなので、まずまず読める作品にはなっている。実はもっとはっちゃけたものを期待していただけに、その点では少し物足りなさは残るけれど(苦笑)。

 そういった物足りなさを吹き飛ばすのが短編「風船殺人」。風船マニアの有閑未亡人が風船だらけの部屋で半裸の状態で殺害されるという一席。もうこの設定だけでお腹いっぱいである。
 しかしながら犯人当て懸賞小説として発表されたわりには、全然フェアでないのがご愛敬。殺害方法もひどいし、「読者への挑戦」が全体の半分あたりで挿入されるため(雑誌連載時に前後半で分載されたためだと思われる)、そもそも読者への情報が不足しすぎである。まあ、それほど真剣な犯人当てではなく、あくまで話題作りなのであろう。
 とりあえず「風船マニアの有閑未亡人が風船だらけの部屋で半裸の状態で殺害される」という、このイメージだけで引っ張るような話である。いや、嫌いじゃないんですが(笑)。

 「蛇寺殺人」と「昆虫男爵」は、大下宇陀児には珍しいシリーズ探偵、杉浦良平が活躍する。その人物描写を読むかぎりでは、あまり魅力的な探偵とはいえないが、話の種としてその存在は知っておいて損はない。まあ得もないけれど。
 中身の方だが、こちらも犯人当てという点では突っ込む方が野暮というレベル。ただし、味付けにおいては、「風船殺人」に勝るとも劣らない。
 特に「昆虫男爵」はストーリーがすごい。胎生昆虫という人間そっくりの姿をした昆虫を探す昆虫男爵が登場し、その男爵の妄想を治療すべく、蝉の鳴き声が上手い女芸人を呼び寄せたところ、その女芸人が殺害され……というお話し。呆れてはいけない。これが宇陀児クオリティ(笑)。

 興味はあくまで人間にあり、トリック等ではないというようなことを表明していた大下宇陀児。だがこれら初期の作品には、大下ならではの本格へのアプローチを感じることができる。それがときとして類い希な発想を生むこともあるから面白い。
 万人にオススメすることは難しいが、これも立派なミステリの楽しみの一つではあるだろう。


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 まったく個人的なことだが、本日、ようやく、ようやくにして、あの探偵小説誌『幻影城』をコンプリートすることができた。やっほーい。
 リーチがかかっていたのはNo.18、すなわち増刊号の『横溝正史の世界』。これがまたエッセイや評論、作品事典など、内容盛り沢山のいい本であり、古書店やネットでも比較的見かける本だから〆の一冊としては最適、と思ったのがもう二年ほど前のこと。そこからが実に長かった……。まあ、あまり高く買うのも嫌だったのでずっと我慢はしてきたのだが、今日たまたま入った古書店で、ラーメン+ギョウザ3人前ぐらいの値段で見つけ、思わず購入。ああ、今日は酒がうまいぜい。

子供は悪魔だ

 本日の読了本は大下宇陀児の『子供は悪魔だ』。題名に「子供」とついてはいるが、さすがにこれはジュヴナイルに非ず。少々長めの短編、「子供は悪魔だ」「売春巷談」「山は殺さず」「百舌鳥」、以上の四作を収めた短編集である。
 政治家の汚職から若者の乱れた風潮まで、当時の社会問題などを取り上げつつもその筆はかなり通俗的で、読み物としてはなかなか面白い。ただし探偵小説としての結構は備えているけれども、トリック等は例によって腰くだけなので、あくまで当時の風俗や人物描写などを中心に古い探偵小説の雰囲気を楽しむのが吉であろう。出来そのものは先日読んだ『おれは不服だ』よりは上。

 「子供は悪魔だ」は、莫大な財産を手にしたがため、ろくでもない子供たちばかりを抱えることになった男の悲運を描く。五人兄妹それぞれのごくつぶし振りが多様で、時代は変われどありそうな話ではある。結末は肩すかしといえば肩すかし、皮肉といえば皮肉。
 「売春巷談」は売春婦が主人公の物語。前半は彼女たちのエピソードばかりがつづられ、そんな話なのかと思ったら、後半はちゃんとした本格探偵小説的に展開し、このギャップがまず面白い。一応密室的トリックを用いているところもオオッと思わせるが、残念ながらこちらはいまひとつ……というか作中の説明はまったく説明になっていない気がする(笑)。でも宇陀児だから許す(爆)。
 「山は殺さず」は雪山で死んだ若者の事件が発端となり、過去に起こった誘拐事件にまで連なるという物語。書く人が書けば相当に壮大な話になるはずだが、これを非常にサラッとまとめているのが大下宇陀児ならでは。だが誘拐事件にも一種の密室のような状態を設定するなど、アイデアは悪くない。これはしっかり書き込んで長編にしてもよかったのではないかなぁ。
 「百舌鳥」は三角関係にある男女が挑む犯罪とその心理を描く。主人公の小鳥好きという設定をうまく活かしており、ラストはそれなりにグッと来る。本書の中では最も謎解きから遠い位置にある作品だが、読み応えは一番。


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 大下宇陀児の『おれは不服だ』を読む。表題作を含む短編集で、昭和32年に講談社ロマン・ブックスとして刊行された一冊。まずは収録作から。

「獺」
「娘たちは怖い」
「風が吹くと」
「痣を見せるな」
「おれは不服だ」
「十四人目の乗客」

おれは不服だ

 なかなかバラエティに富んだ作品集。大下宇陀児の通俗的な部分と幅の広さが存分に発揮されてはいるが、いやあ、純粋に質を問われると、これは厳しい(笑)。もちろん端から傑作などを期待しているわけではないのだが、逆に『宙に浮く首』ぐらいハチャメチャなものが読めるのでは、などと思っていたので、この中途半端さがなかなか。以下、各感想。

 「獺」はいわゆる悪女ものだが、それに絡む犯罪の真相をうっちゃったまま終わるのに唖然。リドル・ストーリーとかじゃなくて、本当に無視しちゃうのである(笑)。
 「娘たちは怖い」はあるアパートで起きた殺人事件の物語。通報したくせになぜか肝心の部分で黙秘を続ける女子学生たち。彼女たちがなぜ黙秘するのか、というのが本作の肝だが、あまりにそのまんまのオチでのけぞること確実。
 「風が吹くと」は悪女ものでありつつ、それに溺れて破滅する中年男の話だが、雰囲気なら「獺」の方が上。こちらは変にクライムノベルっぽくしているせいか、かえってテーマがぼけている感じだ。
 「痣を見せるな」は本書のなかでは一番まともな作品。「痣のある子供」ばかりを狙う猟奇殺人という設定からして、実に探偵小説っぽい。今では手垢のついた真相ながら、当時であればけっこういい線をいったはずである。事件解決に至る手段がちょっとアレだが、これぐらいのレベルの作品が半分ほどあれば、本書もオススメできたと思うのだが(苦笑)。
 表題作の「おれは不服だ」は典型的なクライムノベル。ある男に偶然殺しを依頼された主人公だが、実は……という作品。オチはミエミエだが、タイトルや語り口などがコミカルで、それなりに読ませる。
 「十四人目の乗客」は珍しく奇妙な味に含まれそうな作品だが、やはり無理があるなぁ。

 古書としては入手しやすい部類だが、いまネットで調べてみるとけっこう高価で驚く。作品の質や希少性を考えても、あまり無理に読む本ではないので念のため。


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 大下宇陀児の『見たのは誰だ』を読む。こんな話。

 苦学生の桐原進は友人の古川からある犯罪に誘われてしまった。悩む桐原だったが、恋人の木田紀美との間に子供ができてしまったことからまとまった金が必要になり、遂に古川の誘いに応じてしまう。ところが単なる窃盗だと思っていた桐原の目の前で、古川は目撃者の少年を殺害する。その場を去ろうとする桐原は古川ともみあい、誤って古川を殺害してしまうが……。

 戦前の大物探偵作家の一人である大下宇陀児。彼の作風が娯楽重視の通俗的な作品から、徐々に人間の心理や犯罪の動機、あるいは社会問題を重視するタイプへと移り変わっていったのは、ちょっとした探偵小説マニアならよくご存じだろう。
 本日読んだ『見たのは誰だ』は、典型的な後者のタイプである。当時の学生アプレ(無軌道な若者といった意味)の風俗をまじえながら、冤罪について描いた作品なのだが、構成が単なる社会派とはちょっと違っていて面白い。前半と後半の二部構成(本当は三部構成だけど、実質は二部といってよいだろう)で、大きく雰囲気が変わるのである。
 前半は主に桐原進を中心とした犯罪小説風だ。苦学生が恋愛と友情、そして金の狭間で揺れながら、ついには殺人まで犯してしまう過程をかなりねちっこく描いてゆく。
 ところが後半に入ると雰囲気はがらりと変わって、古き良き探偵小説の香りが漂いはじめる。古川殺害ばかりでなく、その他の三件の殺人の容疑まで受けた桐原。木田紀美は彼を救うために、弁護士の俵岩男に調査を依頼する。容疑を晴らすための材料などほとんどないなか、俵弁護士はひとつずつ要素を吟味してゆく。ノートに事件の要素を書き込み、+か−をつけながら推理を巡らす俵はなかなかいい。本格とまではいかないのだが、この演出は悪くない。

 ただ気になったのは、冤罪に対する問題提議の部分と探偵小説的雰囲気が、うまく融合していない点だ。また、事件を解決に導くもうひとつの事件が、とってつけたような印象しかないことも残念。わざわざ冤罪云々をアピールせずとも、そのあたりをもう少しスマートにまとめてくれれば、もっともっと面白く評価できる作品になったはず。
 でも、それはおそらく作者の本意ではないのだろうな。


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