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 菊池仁の『ぼくらの時代には貸本屋があった 戦後大衆小説考』を読む。著者の菊池仁は、椎名誠や目黒考二らと『本の雑誌』創刊に関わり、長らく書評なども担当した文芸評論家。彼らのエッセイ等でもひんぱんにその名が登場するので、古くからの『本の雑誌』読者であれば知らない人はいないだろう。
 本書はその菊池仁が書いた、ちょっと変わった評論集。彼が十代の頃に培った貸本屋体験・読書体験をベースに、当時の貸本で主流だった大衆作家やその作品について熱く語った本なのだ。

 ぼくらの時代には貸本屋があった

 著者が貸本屋「一二三堂」に足を踏み入れるようになったのは小学五年生の時。そこから高校卒業に至るまで、延々読書漬けの生活に浸るようになる。その間、大衆の求める小説に変遷があり、また、大衆小説を支える構図にも変化が起こる。その中で菊池少年は、貸本小説を通じて人生の何たるかを学んでゆく。って思いっきり紋切り型の表現で恥ずかしい限りだが(笑)、実際、著者は本との素晴らし出会いを重ねていたようだ。その結果、人生にまで大きな影響を与えているのだから、これは本読みのひとつの理想といってもいいだろう。

 扱っている作家は、柴田錬三郎、五味康祐、村上元三、角田喜久雄、富田常雄、松本清張、井上靖、白川渥といった面々。時代小説の書き手が多いが、それはそのまま当時貸本で人気のあったジャンルということでもある。
 これらの作家はすべて著者のお気に入りで、当然その語り口は熱い。あまり興味のない作家でも、ひとつ読んでみようかという気にさせられるほどで、これが角田喜久雄や松本清張といったミステリも書く作家の項になると、こちらの趣味もあって実に興味深い。本来、角田喜久雄などは伝奇小説の書き手としての方が有名だから、本書でももっぱらそちらが扱われているのだが、当方としてはそちらはほとんど未読。でも、この伝奇小説をまた実に面白そうに紹介してくれるので、やはり読まなきゃ、という気になるのである。

 ただ、本書のひとつのパターンになっているのだが、他の評論家や作家のコメントを引用し、それに自分の感想を乗せてたたみ掛ける、という書き方はちょっと気になった。そのやり方を否定はしないけれど、もう少し独自の論考などは加えるべきであろう。自分と同意見の引用ばかりでは、評論として物足りない面も感じられる。まあ、菊池氏の半自伝風書評エッセイとして読めば、それほど気にもならないのだが、なんせ副題が「戦後大衆小説考」だしね。

 まあ、若干ケチはつけたけれど、取りあげられている作家や作品は現代ではあまり顧みられることの少ない作品ばかり。先ほど挙げた引用についてもかなりのボリュームで、そういう意味では資料としての価値も低くはない。このジャンルをそのうち読むつもりがあるなら、買っておいても決して損はしないだろう。

テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌



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