ADMIN TITLE LIST
Selected category
All entries of this category were displayed below.

 エマ・レイサンの『死の信託』を読む。経済本格ミステリの先駆者といわれるレイサンのデビュー作で、銀行の副頭取ジョン・パトナム・サッチャーを主人公とするシリーズの第一作目でもある。
 同じ著者の『死の会計』も論創海外ミステリに入っていて、そちらを先に読んでいるが、シルヴァー・ダガー賞を受賞した割にはなんとも退屈な印象しか残らなかった。当時の感想も我ながらきついものがあるが、デビュー作にあたる本作は果たしてどうか?

 かつてシュナイダー一族によって設けられた信託預金。シュナイダーの子供たちが全員死んだ後、孫たちに支払われることになっていたが、いよいよそのときが近づいてきた。だが受取人の一人、ロバートが十年以上も音信不通になっており、その生死が相続金に大きく影響するとあって、他の親族たちは気が気ではない。
 信託預金を扱うスローン・ギャランティー信託銀行では、親族に請われて調査を開始。副頭取ジョン・パトナム・サッチャー自ら先頭に立つが、入ってくるのは一族の勝手な思惑ばかり。やがてロバートが殺害されていたというニュースが飛び込んでくるにいたり……。

 死の信託

 意外や意外、シルヴァー・ダガー受賞の『死の会計』よりは読ませる。殺人事件の動機がかなり明白であり、登場人物たちは怪しい者ばかり。そこを素人探偵ながら、長年の金融業界での経験や知識をもとに切り込んでいくスタイルは悪くない。副頭取のサッチャーが若手社員や秘書、ボーイらを率いて調査を進める様は、さながら弁護士事務所や探偵事務所を連想させるし、彼らのやりとり自体もユーモラスで楽しい。
 本格ミステリとしても体裁はきちんと整えているし、怪しい登場人物ばかりのなか、アリバイ崩しなどを中心に工夫を凝らし、ラストでサプライズを持ってくる点は評価できるだろう。少なくとも『死の会計』よりはだいぶいい。

 ただ、あまり本筋とは関係ない話だが、この本の帯の惹句にもある〈経済本格ミステリ〉という形容は、変な先入観や誤解を与えて、かえってマイナスではなかろうか。
 そもそも中身がそれほど「経済」しているわけではない。単に主人公や事件関係者が経済畑ということだけであり、信託にしてもよくある遺言状ネタの変型に過ぎない。あくまで「経済」部分は味つけであり、要はグルメミステリーとか旅情ミステリーとかいうのと同じ程度の意味合いしかないのである。「経済」がもつ固いイメージは希薄で、むしろ味わいだけでいえばコージーとかのそれに近い。
 まあ、「経済」というキーワードが読者に向けて強い引きになるのならいいのだが、あまり経済ミステリーが売れたという話も聞かないし。それなら普通にユーモアの部分を押し出したり、チーム・スローン・ギャランティーみたいな観点で紹介してもよかったのではないかなぁ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 エマ・レイサンの『死の会計』を読む。論創海外ミステリの第11巻にあたるのだが、なんせあまりにタイトルがつまらなそうなので、刊行から三年間積んでおいたもの。そろそろ消化しておきますかと読み始めたのだが……こんな話。

 経営状態がおもわしくないコンピューターの販売会社ナショナル・キャルキュレイティング社。米軍御用達の一部門を除けば軒並み赤字で、株主配当などは望むべくもない。これに目をつけたのが凄腕の会計士フォーティンブラス。株主たちをあおって株主抗議委員会を結成し、査察のためにナショナル社へ乗り込んでゆく。当然、ナショナル社は大混乱。だが、フォーティンプラスが帳簿に不正の臭いを嗅ぎとったとき、自体は最悪の状況へ……。

 死の会計

 著者のエマ・レイサンは、メアリー・J・レイティスとマーサ・ヘニッサートという二人の女流作家による合作ペンネーム。両者とも金融や経済の専門家であり、趣味のミステリ好きが高じて創作に手を染めるようになったらしい。作風もお得意の経済を扱ったものがほとんどで、これまでポケミスや講談社文庫から邦訳がいくつか出ている。
 まあ、作者紹介はこんなところ。個人的には経済ミステリというものにそれほど触手が動かないこともあって、それも積ん読の理由のひとつだったのだが、一応本作はシルヴァー・ダガーを受賞しているし、多少は期待しつつ読んでみた。

 本作は大きく二つの謎で物語を引っ張っている。ひとつは殺人事件に掛かる謎で犯人当てがメイン、もうひとつはナショナル社の不正に掛かる謎で、こちらはどういう不正が行われていたのかという興味。ただし、展開として、会計士のフォーティンブラスが殺害され、それは不正の事実を嗅ぎとったための口封じらしいことがわかる。したがって二つの謎は収斂され、不正を誰がどのように行ったのか、興味はそこに尽きるといってよい。
 で、ミステリ的には赤い鰊を上手く使っているとは思う。まず前提として、経済やビジネスが苦手な読者にも状況がよく理解できるよう工夫が為されている。経済用語も最低限必要なものだけだし、説明や描写もできるだけ平易な形をとっている。そのうえで読者を欺った方向へ誘導するというテクニックを使うのだから、これはなかなか見事なものである。
 ただ、そのせいなのか。このナショナル社で行われる不正というのが弱い。あまり凝ったものは読者に理解されないと考えたのだろう。その手段は誰にも理解できるほど極端なものであり、このような不正が誰にも気づかれずに行われるのか、という素朴な疑問、っていうか無理だろ(笑)。まあ、日本でも最近信じられない偽装問題やらがいろいろと起こっているので、このような不正があってもおかしくないとは思うが、要はリアリティの問題である。

 もうひとついただけない点がある。むしろこちらこそ問題だと思うのだが、とにかくリーダビリティが弱すぎる。殺人前後はまだ起伏はあるが、それ以外はただただ関係者の雑談が続くだけの印象。事件の解決はもちろんナショナル社の企業としての命運も、もしかしたら誰も気にしてないんじゃないかと思うほど描写が淡泊で、サスペンスもへったくれもない。
 探偵役も特に捜査に絡むこともなく、事件解決も勝手に行われる始末で、読んでてここまでワクワクドキドキがないミステリも珍しい。

 結果的には、論創海外ミステリでもかなり低調な一作。シルヴァー・ダガー賞はたまにこれがあるから油断できない(苦笑)。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



| HOME |

Design by mi104c.
Copyright © 2017 探偵小説三昧, All rights reserved.
ネット小説