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 『不変の神の事件』に続いて、もういっちょルーファス・キング。〈クイーンの定員〉にも選ばれた『不思議の国の悪意』である。

 不思議の国の悪意

 タイトルからしてひと癖もふた癖もありそうで、もしかすると「奇妙な味」の路線かと予想したのだがあに図らんや。意外にもオチの効いたサスペンス系の作品がほとんどである。なかには謎解きをメインにした本格風味もあるのだが、それらの作品もロジックを楽しむとかいうよりは、あくまで意外性を楽しむのが胆。こじゃれた雰囲気を演出するのが上手く、テンポも軽快なことから、全体の味わいはウールリッチに近いと感じた。
 ただ、オビに書かれているような「潜み棲む悪意」「クイーンのお墨付き」という景気のいい惹句に期待しすぎるのはよくない。確かに事実ではあるのだが、昨今の、刺激の強いスリラーや複雑怪奇な本格に慣れてしまった向きには、やや物足りなく感じることもあろう。誇大広告とまでは言わないけれど、あくまでクラシックとして楽しむのが吉。
 とりあえず個人的には十分楽しめる短編集であり、特に表題作である「不思議の国の悪意」は、設定の妙とサスペンス、謎解きが程良くブレンドされた佳作である。この一作のために買っても損はしないはずだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ルーファス・キングの『不変の神の事件』を読む。刊行は1999年。リアルタイムで買って読もう読もうと思いつつ、なんと十年ものの積ん読にしてしまった一冊。

 作者のルーファス・キングは、日本での知名度はいまひとつだが、本国アメリカでは黄金期から戦後にかけて活躍した人気作家だ。戦前はシリーズ探偵のヴァルクール警部補ものの本格でブレイクし、戦後はサスペンスものに作風が移行していったが、その真価が発揮されたのはむしろ短編の方であった。その実力は「クイーンの定員」に選ばれたことからもわかるとおりで、エラリー・クイーンをして「探偵小説においてさえ、クイーンはキングに負けるのだ」と言わしめたほどである。とまあ解説の受け売りはこのぐらいにして。

 不変の神の事件

 かつて送った手紙をもとに強請を受けたジェニー・オールデン。しかし最後の二通を取り返すことができず、ジェニーは自らの命を絶ってしまう。悲しみに暮れる夫や家族だが、その半年後、強請の主リペレンは家族の前にも姿を現した。そしてその場で家族が耳にした話は、あまりにも死者を蔑ろにするものであった。怒りのあまりジェニーの夫ジョナサンはリペレンを投げ飛ばし、打ちどころが悪かったリペレンはそのまま息を引き取る。
 家族はすぐさま事件を隠蔽することに決めた。だが車で死体を運ぶ途中を目撃され、警察に通報されてしまう。もはや冷静さの欠片もない家族は、今度は自家用船で逃亡を企てようとする。一方、捜査に乗り出したヴァルクール警部補は、家族の後を追いつつも、どこか事件に違和感を感じていた……。

 後年、サスペンスに移行したことが頷けるような、非常に動きのある本格である。じっくりと関係者を取り調べたり、犯行現場を検分したりという描写はほとんどなく、基本は家族の逃避行。舞台も二転三転し、およそ黄金期の本格とは似つかわしくない設定なのである。
 当然ながら最初はかなりチープな印象を否めないこの展開が、実は単なる演出上の意味ではなく、ラスト・サプライズを最大限に活かすための伏線だということは、不覚にも最後まで気づかなかった。ただ、悔しいので書いておくと、描写そのものが読者をかなり誘導する書き方ではあるので、そこはちょっと卑怯な気がしないではない。ただ、作者の狙いではなく、単に描写が下手だという可能性もあるにはあるが(笑)。あ、こんな風に書いても叙述トリックとかではないのでご安心を。
 ともあれ1936年に書かれたこの作品が、こんな楽しいアイディアに満ちたものだったというのは実に驚きである。おすすめ。さ、次は短編集だ。

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