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 ルーファス・キングの『緯度殺人事件』を読む。
 著者はアメリカの本格黄金時代の作家の一人。しかし、我が国での知名度はいまひとつで、多くの作品が未訳のまま残されている。創元推理文庫で出た長篇『不変の神の事件』、短篇集『不思議の国の悪意』は十分に面白かったし、湘南探偵倶楽部が『新青年』掲載時のものを復刻した『深海の殺人』も抄訳ながら、けっこう楽しめたのだが、どうにも人気が弾けないのは残念だ。
 一応は本格系の作家ながら、著者の強みはどちらかというとサスペンス部分にあるので、それがメイン読者である本格ファンには響かなかったのかもしれない。いや、面白ければどちらでもいいと思うのだが。

 緯度殺人事件

 こんな話。十一人の乗客を乗せ、カナダへ向かって出航した貨客船〈イースタン・ベイ号〉。その乗客のなかにはニューヨーク市警のヴァルクール警部補の姿があった。実はニューヨークで起きた殺人事件の犯人を追って乗船してきたのだ。しかも、犯人は、ある乗客を狙って〈イースタン・ベイ号〉に乗り込んだ可能性が高い。
 捜査を進めるヴァルクール警部補だったが、その矢先に無線通信士が殺害されてしまう……。

 船上の閉ざされた空間で、限られた人間の中から犯人を見つけ出すという一席。本格というスタイルはとりつつも、実質はサスペンス風味がだいぶ勝っている印象だ。
 しかし、それはそれで十分に面白い。ときどき挿入される犯人視点のシーン、意外な動機の発覚、謎の連続盗難事件、全員が揃ってのアリバイ探しなど、いいテンポで興味もつないでいくし、とにかく設定やストーリーの作り方が巧い作家である。
 とりわけ感心したのは、中盤から挿入されるニューヨーク市警の電報と、見出しの仕掛け。こういうサスペンスはなかなか例がなく、さすが実際に船舶で無線通信士を経験した著者ならではの企みだろう。
 また、被害者候補の女性をはじめとした数人の主要人物もそぞれクセのあるキャラクターで、これもストーリーを盛り上げるのに大いに役立っている。

 惜しむらくは、やはり謎解き志向があまり強くないところだろう。推理はもちろんあるにせよ、ロジックで徹底的に詰めていくわけではなく、ざくっとした印象は否めない。犯人の正体に迫る部分などはいい展開だと思うので、ちょっともったいない感じだ。

 というところで惜しいところはあるけれども、ストーリーや仕掛けの巧さで十分にお釣りはくる。ガチガチの本格を望まないかぎり、決して失望することはないだろう。
 ともかく未訳がたっぷり残っている現状はあまりにもったいない。ぜひ今後も紹介を続けてもらいたいものだ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ルーファス・キングの『深海の殺人』を読む。
 『不変の神の事件』などでも活躍したヴェルコール警部補が登場する長編作品だが、『新青年』の1935年8月号に掲載された抄訳をそのまま復刻しているため、ボリューム的には原作の1/5程度といったところ。短編感覚で読めてしまう。

 深海の殺人

 まずはストーリー。
 大富豪ローレンス・サッカーが友人や親類を乗せて航行中の大型ヨット「ヘルシナー号」が、暗礁に乗り上げ、乗員のうち、わずか十人だけが救命ボートで近くの無人島に漂着した。三日間、彼らはそこに止まったものの、水もない状況では生きていきないため、彼らは再び救命ボートで他の島を目指すことにする。
 だがボートに積んだ樽の水を飲んだあと、なぜか全員が意識を失い、皆が目覚めたとき、そこにサッカー氏とクラインという航海士の姿が消えていた。二人は皆が眠っている間に、海の藻屑へと消えてしまったのだ。
 ボートに残された八人は、その数時間後に救助されたが、ここにひとつの疑惑が残った。全員がボートで眠ってしまったのは樽の水に薬が混入されたためであり、その隙にサッカーとクラインは何者かの手によって海に落とされたのではないかというものだ。
 生存者のなかにはサッカーの財産を相続するものが数名いたため、その遺産を巡っての犯行ではないか。事件を捜査するヴァルクール警部補(本書の訳ではヴァルカー)は、事件の鍵はサッカーと一緒に消えたクラインにあるのではないかと推測する……。

 ルーファス・キングらしく非常に動きのあるストーリーが特徴的な本格。ヨットの遭難事件のなかで発生した殺人事件というのはなかなか思い切った設定で、しかも終盤では遭難事件の現場へ再び関係者がヨットで向かい、そこでかつてない謎解きシーンが展開される。
 正直、ここまでケレンに満ちた本格探偵小説はあまり記憶がない。トリックもまずまず面白いもので、犯人を特定する手段がちょっとアレなことを除けば、1934年に書かれたことを考慮すれば十分満足のいくものではないだろうか。

 ただ、いかんせん抄訳のため、本当の評価は難しい。
 細かい部分、特に探偵小説として重要な細部の積み重ねがどの程度省かれているのかは当然気になるところだし、本書に関しては特に前半の遭難事件の部分がとにかく走りすぎてわかりにくい。ぶっちゃけ梗概を読んでいるような感じのところも少なくないのである(苦笑)。
 まあ、なんせ原作の1/5分。本書は極端な話、予告編みたいなものなので、これは一度しっかりした翻訳で読んでみたいものだ。

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 『不変の神の事件』に続いて、もういっちょルーファス・キング。〈クイーンの定員〉にも選ばれた『不思議の国の悪意』である。収録作は以下のとおり。

Malice in Wonderland「不思議の国の悪意」
Miami PapersPlease Copy「マイアミプレスの特ダネ」
The Body in the Pool「淵の死体」
To Remember You By「思い出のために」
Let Her Kill Herself「死にたいやつは死なせろ」
Agree-or Die「承認せよーさもなくば、死ね」
The Body in the Rockpit「ロックピットの死体」
The Pills of Lethe「黄泉の川の霊薬」

 不思議の国の悪意

 タイトルからしてひと癖もふた癖もありそうで、もしかすると「奇妙な味」の路線かと予想したのだがあに図らんや。意外にもオチの効いたサスペンス系の作品がほとんどである。なかには謎解きをメインにした本格風味もあるのだが、それらの作品もロジックを楽しむとかいうよりは、あくまで意外性を楽しむのが胆。こじゃれた雰囲気を演出するのが上手く、テンポも軽快なことから、全体の味わいはウールリッチに近いと感じた。
 ただ、オビに書かれているような「潜み棲む悪意」「クイーンのお墨付き」という景気のいい惹句に期待しすぎるのはよくない。確かに事実ではあるのだが、昨今の、刺激の強いスリラーや複雑怪奇な本格に慣れてしまった向きには、やや物足りなく感じることもあろう。誇大広告とまでは言わないけれど、あくまでクラシックとして楽しむのが吉。
 とりあえず個人的には十分楽しめる短編集であり、特に表題作である「不思議の国の悪意」は、設定の妙とサスペンス、謎解きが程良くブレンドされた佳作である。この一作のために買っても損はしないはずだ。


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 ルーファス・キングの『不変の神の事件』を読む。刊行は1999年。リアルタイムで買って読もう読もうと思いつつ、なんと十年ものの積ん読にしてしまった一冊。

 作者のルーファス・キングは、日本での知名度はいまひとつだが、本国アメリカでは黄金期から戦後にかけて活躍した人気作家だ。戦前はシリーズ探偵のヴァルクール警部補ものの本格でブレイクし、戦後はサスペンスものに作風が移行していったが、その真価が発揮されたのはむしろ短編の方であった。その実力は「クイーンの定員」に選ばれたことからもわかるとおりで、エラリー・クイーンをして「探偵小説においてさえ、クイーンはキングに負けるのだ」と言わしめたほどである。とまあ解説の受け売りはこのぐらいにして。

 不変の神の事件

 かつて送った手紙をもとに強請を受けたジェニー・オールデン。しかし最後の二通を取り返すことができず、ジェニーは自らの命を絶ってしまう。悲しみに暮れる夫や家族だが、その半年後、強請の主リペレンは家族の前にも姿を現した。そしてその場で家族が耳にした話は、あまりにも死者を蔑ろにするものであった。怒りのあまりジェニーの夫ジョナサンはリペレンを投げ飛ばし、打ちどころが悪かったリペレンはそのまま息を引き取る。
 家族はすぐさま事件を隠蔽することに決めた。だが車で死体を運ぶ途中を目撃され、警察に通報されてしまう。もはや冷静さの欠片もない家族は、今度は自家用船で逃亡を企てようとする。一方、捜査に乗り出したヴァルクール警部補は、家族の後を追いつつも、どこか事件に違和感を感じていた……。

 後年、サスペンスに移行したことが頷けるような、非常に動きのある本格である。じっくりと関係者を取り調べたり、犯行現場を検分したりという描写はほとんどなく、基本は家族の逃避行。舞台も二転三転し、およそ黄金期の本格とは似つかわしくない設定なのである。
 当然ながら最初はかなりチープな印象を否めないこの展開が、実は単なる演出上の意味ではなく、ラスト・サプライズを最大限に活かすための伏線だということは、不覚にも最後まで気づかなかった。ただ、悔しいので書いておくと、描写そのものが読者をかなり誘導する書き方ではあるので、そこはちょっと卑怯な気がしないではない。ただ、作者の狙いではなく、単に描写が下手だという可能性もあるにはあるが(笑)。あ、こんな風に書いても叙述トリックとかではないのでご安心を。
 ともあれ1936年に書かれたこの作品が、こんな楽しいアイディアに満ちたものだったというのは実に驚きである。おすすめ。さ、次は短編集だ。


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