先日の記事でなんとなく鬱な文章を書いたのも、L・P・デイビスの『忌まわしき絆』を読んだからかもしれない。これがまあ、ぶっちゃけ傑作というほどではないのだが、このまま埋もれさせるにはちょっと惜しいタイプの作品なのだ。論創海外ミステリの一冊とはいえ、内容はほとんどホラーといってよく、そういうところもあまり人気に結びつかなかった一因かもしれないが。こんな話。
ある小学校で、少年が体育館に上り、後ろ向きに落下するという不思議な事故が起こった。担任の歴史教師シーコムは、その事故の前、子供たちの間で些細なトラブルがあったことを知り、そのトラブル相手の少年ロドニー・ブレイクから事情を聞こうとする。ところがロドニーの姿はなく、前後して彼にまつわるその他の不思議な出来事を突き止める。いったい少年にどのような秘密が隠されているのか。調査を開始したシーコムだったが……。

主人公が事件の発端にたまたま関わり、どうしても頭の中に引っかかるところがあって、ついつい調査を開始するという流れは、予想以上に探偵小説らしいノリ。加えてその調査が地道な聞き込みをベースにしたもので、この一歩一歩真相に近づいてゆく知的興奮&スリルが本書の読みどころといってよく、ミステリ的にも読める所以である。
少々気になったのは、主人公たちが超常現象をあっさりと受け入れすぎること、そして捜査がスムーズに進みすぎること。もう少し主人公たちにはさまざまな試行錯誤を重ねさせた方が、よりストーリーに膨らみが出たのではないか。
とはいえ全編を包むムードは独特のものだし、語り口も変にエキセントリックなところがなく好ましい。とりわけ新たな謎を次々と提示してゆく前半~中盤はたたみ掛けもうまく、トータルでは合格点といえるだろう。昨今のモダンホラーともタイプが微妙に異なるだけに、もう少し他の作品も読んでみたいという気には十分させられた。
我が国ではほとんど知られていないこともあるし、こういう珍しい作家は、版元がもっとアピールして、次に繋げていってほしいものだ。