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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

徳冨蘆花『徳冨蘆花探偵小説選』(論創ミステリ叢書)

 先日に続いて論創ミステリ叢書から『徳冨蘆花探偵小説選』を読む。
 明治の昔から多くの純文学作家たちが探偵小説に筆を染めてきたことは、ちょっとしたミステリファンならご存じだろう。有名なところでは谷崎潤一郎や佐藤春夫などが挙げられるが、ではそれ以外の作家が実際にどんなものを書いていたかというと、あまり手軽に読めない状況もあって、相当なミステリファンでも実はあまり知らないのではないだろうか。
 本書はそんな文豪の一人、徳冨蘆花が残した探偵小説の数々をまとめたもの。なんと探偵小説系の『探偵異聞』とスパイ小説系の『外交奇譚』の二冊を丸ごと収録した豪華版である。以下は収録作。

『探偵異聞』
「巣鴨奇談」
「身中の虫」
「露国探偵秘聞」
「雲かくれ」
「大陰謀」
「まがつみ」
「秘密条約」

『外交奇譚』
「白糸」
「土京の一夜」
「冬宮の怪談」
「鞭の痕」
「王の紛失」
「北欧朝廷異聞」
「法王殿の墓」

 徳富蘆花探偵小説選

 まず『探偵異聞』からいこう。こちらは警察の捜査に主眼を置いた探偵小説風の物語なのだが、トリックや謎解きに見るところはほとんどなく、結論からいくと流石に厳しい。解説によると、そもそも本作はオリジナルではなく、蘆花の実兄・蘇峰がヨーロッパへ外遊した際に買い求めた原書を、蘆花が翻案したものであるらしい。
 ただ、事件の発生から警察の捜査、そして解決へと流れる結構は、驚くほどに探偵小説的である。発表された明治三十年という時代を考えれば、よくぞここまでスタイルを確立したものだと感心するところなのだが、ただ結局はオリジナルではないため、どこまでその歴史的な価値を認めるかも難しいと言わざるを得ない。
 一方、謀略小説というかスパイ小説というか、ヨーロッパの宮廷を舞台に虚々実々の外交駆引きを描いた短編集『外交奇譚』は、意外に楽しめた。ギミックの使い方やインパクト、キャラクターの造形に至るまで、エンターテインメントとしては明らかに『探偵異聞』より上。明治の人気作家の面目躍如といったところか。とはいえ、こちらも翻案ものではあるのだが。
 日本の探偵小説史の一コマを埋めたい、という人なら。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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