今回はまったくミステリと関係ないお話を一席。
最近は演劇などすっかり観なくなってしまったが、これでも小劇団ブームが起こった頃は、知人にも何人か役者さんがいて、その関係もあって月イチぐらいのペースで劇場に足を運んでいたものだ。
それが二ヶ月に一度になり、三ヶ月に一度という具合でペースダウンし、まあ今ではせいぜい年に一、二回。胸を張って演劇ファンであるなどとは間違っても言えないわけだが、それでもここ十年以上、見続けている芝居がある。
それが白井晃、高泉淳子、陰山泰ら、元「遊◎機械/全自動シアター」のメンバーによる年末恒例の『ア・ラ・カルト』。小さなフランス料理店の師走のある一日を、テーブルについた客の会話で見せていくといった内容で、音楽やショー・タイムも挟みつつ、ほのぼのとした中にそれぞれのちょっぴり苦い人生も垣間見せるところがミソ。
つい昨日も青山円形劇場まで出かけ、公演を楽しんできたばかりだ。今年は何と二十周年ということで、それなりに賑々しく、かといって、いつものペースは崩さずというスタンスが嬉しい。まあ、お芝居の方は相変わらず楽しかったのだが、今年のチェックポイントは、脚本も手がける高泉淳子が舞台をノヴェライズして、その短編集が先行販売されていたこと。しかも著者サイン入りということで、思わず買ってしまった(苦笑)。

で、さっそくその高泉淳子の『アンゴスチュラ・ビターズな君へ』を読んでみる。
上に書いたように基本的には舞台の小説化で、これまで演じた中から十本を選び、それを六作にまとめ直したもの。
当然ながら舞台を観た人には知っている話ばかりだし、会話文がほとんどを占めているので表現的には物足りない個所も感じられるのだが、舞台とは違ってオーバーアクトなところが消され、よりナチュラルな人間像や人生が浮き上がっているのがいい。
会話そのものは実に瑞々しく、このあたりはまさに役者であり脚本家でもある高泉淳子の腕の見せどころ。特に出来事らしい出来事もないまま食事と会話だけが進んでいくが、他愛ない男女の会話からいろいろな恋の形が映し出され、それがラストには、明日を生きていくための元気につながっていくという展開は見事&好感度高し。何気ない話だからこそ読者は自分の体験とオーバーラップし、グッとくるのだ。
短編とは人生をスパッと途中で断ち切って、その断面を見せるものだという言い方があるが、高泉淳子はそういう小説の技術をいつの間にか脚本で身につけていたのである。そりゃ二十年も続く道理だわ。上手い。
ところで『フロスト気質(下)』については相変わらず鋭意読書中(爆)。いや、面白いんですけどね、どうも集中力が続かないというか……。