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 『橋本五郎探偵小説選II』を読む。先だって読んだ『橋本五郎探偵小説選I』はデビュー作を筆頭に初期の作品を集めたものだったが、本書は著者唯一の長編『疑問の三』以降に発表された後期の作品を集めたもの。収録作は以下のとおりで、「箪笥の中の囚人」から「双眼鏡で聴く」までは"はとノ"を探偵役とするシリーズものとなっている。
 なお、"はとノ"の"はと"は漢字一文字で、"蒙鳥"と書きます。"ノ"はこのままでOK。

<創作篇>
「箪笥の中の囚人」
「花爆弾」
「空中踊子」
「寝顔」
「双眼鏡で聴く」
「第二十九番目の父」
「鮫人の掟」
「鍋」
「樽開かず」
「叮寧左門」
「二十一番街の客」
「印度手品」

<評論・随筆篇>
「やけ敬の話」
「大下宇陀児」
「フレチヤーの大・オップンハイムの強さ」
「才気過人」
「支那の探偵小説」
「近藤勇の刀」
「大下宇陀児を語る」
「ポワロ読後」
「広瀬中佐の前」
「支那偵探案「仙城奇案」」
「盲人の蛇に等し」
「面白い話」
「探偵小説の面白さと面白くなさ」
「アンケート」

 橋本五郎探偵小説選II

 デビュー当時はそれなりに注目されていた橋本五郎。しかしクセのない作風が逆に災いしたか、その後は大きな注目も浴びることなく、徐々に探偵小説から離れていった作家である。『橋本五郎探偵小説選I』ではその弱点を確認するかのような読書になってしまったのだが、さて本書はどうかというと、まあ結論をいえばそれほど大きな違いはない。
 とはいえ見逃せない点もちらほら。
 まず注目は、シリーズ探偵が登場すること。戦前には数少ないシリーズ探偵ということだけでなく、一応は本格仕立てである。実は読む前には、探偵小説から離れてゆく過程の作品を集めただけに、『~I』以上に弱いミステリばかりではと危惧していたのだが、むしろ『~I』よりは読ませる。何となく押しの弱かった作品に、シリーズ探偵や本格仕立てという明快な芯が加わったことで、それなりに物語をひっぱる力が生まれている。様式美が探偵小説にとって重要なファクターであることを、あらためて実感した次第。もちろんそれがすべてではないけれど。

 印象に残った作品は、"はとノ"シリーズだと「箪笥の中の囚人」や「空中踊子」あたり。発端と事件の真相がかけ離れている点が見どころ。"はとノ"の探偵振りは奇をてらったものではないから好ましくはあるけれど、同時に物足りなさを感じるのも事実。この加減が難しい。
 他にはアンソロジーで比較的採られることの多い「鮫人の掟」。旧式の潜水服や海中に顕れる殺人者という設定はオリジナリティが高い。ややバタバタした印象もあるし、トリックもこんなものだろうけど、この雰囲気は買い。古代ギリシャを舞台にした「樽開かず」、捕物帖の「叮寧左門」も同様で、意外に趣向を凝らしている作品が多いのは嬉しい誤算だった。

 とまあ、今回はかなり生温かい目で見てしまったが、基本的には上でも書いたように『~I』と大差はないので、過度な期待はしないでほしい(笑)。あくまで「戦前の探偵小説にしては」というフィルターで読んでもらうのが吉であろう。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 論創ミステリ叢書から『橋本五郎探偵小説選I』を読む。
 橋本五郎は1903年生まれの探偵小説作家。若い頃は森下雨村に誘われ『新青年』を発行していた博文館で働いた経験もあり、荒木十三郎や女銭外二(めぜに そとじ)のペンネームでも活躍したが、今ではほぼ忘れられた存在といっていいだろう。アンソロジー等でも掲載率は決して高くなく、ごく一部の作品を除き、本書が出るまではほとんど読むことすら叶わなかった作家である。

 橋本五郎探偵小説選I

「レテーロ・エン・ラ・カーヴオ」
「赤鱏のはらわた」
「狆」
「探偵開業」
「塞翁苦笑」
「海竜館事件」
「脣花No.1」
「青い手提袋」
「お静様の事件」
「ペリカン後日譚」
「地図にない街」
「蝙蝠と空気船」
「眼」
「疑問の叫び」
「撞球室の七人」
「美談の詭計」

 収録作は以上。
 なかには悪くない作品もあるのだけれど、全体的にはパンチ不足というか地味で他愛ない話が多い。ミステリというよりはコント的なものも多いし。なぜ忘れられた作家になったのか、その理由がある程度は納得できる作品集である。
 ただ解説では、橋本五郎が実力的にそこまで低いわけではなく、むしろ構成力やリアリティ、ユーモアという点では評価すべきであり、橋本作品が現在まで生き残れなかった理由については、本格と変格の狭間にいた作家たちの不遇、という観点から説明している。なるほど確かに本書を読むかぎり、そういう側面は見られるのだが、これはいくらなんでも持ち上げすぎだろう。

 例えば本格と変格の狭間といえば聞こえはいいが、その範疇に入る当時の探偵小説は通俗性を押し出した程度の読み物で、そもそも探偵小説として決定的なウリに欠けていたのではないか、という疑問もある。また、構成力やリアリティといった要素は確かに認められるが、本書でそれが際だっているかと聞かれればそれもまた疑問。
 唯一、ユーモアという点に関しては、作風を表すキーワードとして適切な気はするが、橋本五郎のそれは妙にほのぼのとしており、いわゆるブラックな笑いでもなければドタバタでもなく、これまた探偵小説としてはどうなんだろうという気分になってしまう。

 とはいえ本書の価値を全面否定するつもりはない。当時の雰囲気など、それこそ通俗的だからこそ楽しめる部分はあるのだし、少なくとも松本泰よりはしっかりした物語にまとめあげている。惜しむらくは、多少の読者を唸らせるだけの何らかのインパクトがほしかった。けっこう面白そうな話もあるのだが、どうもさらっとまとめすぎている嫌いがある。
 その代表格が「脣花No.1」で、女性の唇紋をコレクションするというフェチなテーマながら、けっこう掘り下げが甘く、意外なほど味わいは淡泊。「眼」も眼科病棟の中の悪意という特殊な設定で途中まではかなりゾクゾクするのだが、やはりラストが弱い。
 出来だけなら「地図にない街」がイチ押し。鮎川哲也のアンソロジーにも収録されただけあって、完成度が高い。乞食に導かれるままに体験する奇妙な世界、その不思議な緊張感を壊すことなく最後まで引っ張っている点がお見事。
 トンデモ系では「蝙蝠と空気船」。タイトルが乱歩っぽくて凄く魅力的なのだが、内容は腰砕けである(笑)。「美談の詭計」もあまりに無茶なトリック(といっていいのかどうか)が逆に潔い。

 まあ、とても全面的にオススメできるような内容ではないが、戦前の探偵小説が好きな人ならどうせ読むに決まっているから、まあいいやね。本書に続く『橋本五郎探偵小説選II』の感想もそのうちに。

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