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 かつて創元推理文庫で出版されながら絶版の憂き目にあい、以後はクロフツの邦訳作品、そして創元推理文庫の中でも最強のレア度を誇ってきた『フレンチ警視最初の事件』。古書やネットオークションでも軽く数万の値が付いていたこの稀覯本が、まさか新訳で復刊される日が来ようとは誰が想像したか。
 クラシックミステリや復刊がブームとしてあったことはもちろんだが、やはりクロフツの著作そのものに魅力があったからだと思いたい。そういう意味では、同じく創元推理文庫から出版された『フレンチ警部と毒蛇の謎』が高評価だったことも幸いしたか。とにもかくにも、幻の一冊だった『フレンチ警視最初の事件』が、こうして気軽に読めるようになったことをまずは素直に喜びたい。

 フランク・ロスコーとダルシー・ヒースは幼なじみ。利にさとく不誠実な性格のフランクだが、なぜかダルシーは愛想をつかすことができず、将来は結婚を夢見ていた。そんなフランクが復員兵として帰国し、ダルシーは自分の勤める病院にフランクを紹介し、共に働き始める。だが、やがてフランクにそそのかされ、ダルシーは患者の支払いをかすめる詐欺の片棒をかつぐはめとなる。
 そんなある日、フランクはある貴族の秘書という職を見つけて転職。だがダルシーという恋人がありながら、フランクは貴族の娘と恋に落ちる。二人の仲睦まじい姿を目撃したダルシーはフランクに復讐を考えるが……その矢先、なんと貴族は自殺を図ってしまう。
 娘には当然、莫大な財産が転げ込んでくる。もしかしてフランクの目当てはそちらだったのか? ダルシーはこのタイミングの良さが信じられず、弁護士に調査を依頼する。

 フレンチ警視最初の事件

 いやあ、幻の作品というと、けっこう腰砕けに終わる作品も少なくないのだが、これは十分に楽しめる作品である。
 正直、話は地味で小粒だし、トリックもそこまで驚かせるようなものはないのだが、じゃあ何が優れているのかというと、つまりはプロットではないか。
 本書でいえば、前半は丹念に犯罪者の心理や生き方が描かれてゆく。まるで倒叙ミステリかと思うほどに。だが、これが後半になると一転して捜査側に視点がおかれ、警察小説のごとき地道な捜査ぶりと推理が描かれる。
 前半後半どちらにも共通するのは、描写が非常に丁寧なこと。そして何よりフェアプレイに徹していること。倒叙ミステリ? 警察小説? いやいやクロフツは計算尽くでそれらのスタイルを用い、その効果を利用しているのである。読者を見事に誤誘導し、その陰でせっせと伏線を忍ばせているのである。だから、ラストのどんでん返しが活きる。
 ややもすると、ちぐはぐさが目立つ構成なのだが、本作や『フレンチ警部と毒蛇の謎』のような成功例に接すると、これは実に魅力的なスタイルであるといえるだろう。

 刺激の強い昨今のミステリに比べるとどうしても不利だが、こういう骨格や狙いがしっかりしたクラシックは、もう少し読まれてもいいんではなかろうか。願わくは本書が長らく読み継がれ、絶版などになりませんように。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 『少年探偵ロビンの冒険』を読む。あのF・W・クロフツ唯一のジュヴナイル作品、というだけでもワクワクするところだが、おまけにフレンチ警視もゲスト出演、しかも初版本の挿絵を完全復刻するというサービスも嬉しい一冊である。

 夏休みを利用して、親友ジャックの家で八週間を過ごすことになったロビン。しかも泊まるのはジャックの実家ではなく、ジャックの父、カー氏が働くイングランド南西岸のライマスという港町だ。この町では新しく鉄橋を建設中で、カー氏はその責任者なのである。鉄道マニアのジャックはもとより、初めて訪れるロビンも町がすっかり気に入った様子。しかも工事で働く鉄道技師の中には、あの有名なフレンチ警部の甥っこまでいるというから、探偵マニアのロビンはもう居ても立ってもいられない。
 そんな二人がある日、洞窟探検をしているときのこと。秘密の場所にやってきた二人の怪しげな男が、何やら物騒な相談を始めたではないか。それを聞いてしまったロビンとジャックは、自分たちも捜査に協力しようとするが……。

 少年探偵ロヒ#12441;ンの冒険

 これは恐れ入った。さすがクロフツ、ジュヴナイルだからといって手を抜く様子はまったく見えない。
 もちろん子供向けの配慮はそこかしこにある。残酷な描写は控えているし、プロット自体は比較的シンプルに抑え、毒も少ない。
 だがミステリ作家としての妥協は一切ない。雰囲気をいやがうえにも盛り上げる地図や見取り図の数々、足跡の型を取る件、脅迫状の解析、犯罪の再構築など、ミステリを楽しむエッセンスは、これでもかというぐらい詰まっている。加えて大人向けではあまり感じられないテンポの良さも心地よい。

 本作の良さはこれに留まらない。本作は児童小説としても、実はなかなかの線をいっているのである。
 ロビンとジャックの友情や正義感を打ち出すところは、まあ当たり前っちゃ当たり前。それも悪くはないのだが、何がいいって二人を取り巻く大人たちの描き方がいいのである。
 特にジャックの父親、カー氏。単に子供たちに優しいとか甘やかすというのではない。子供たちの人格を尊重し、ちゃんと対等に扱ってくれるのがいい。相手が子供だから、ときには諫めることもあるのだが、その理由はしっかり説明するし言い分も聞く。
 いや、いいね。このスタンス。お国柄もあろうが、これはおそらくクロフツ自身のスタンスでもあるのだろう。いうなればこのカー氏のセリフひとつひとつが、作者から読者(子供)へのメッセージでもあるのだ。

 なお、本書は論創海外ミステリの一冊だが、〈ヴィンテージ・ジュヴナイル〉第一弾という触れ込みで発売された。残念ながら本書から三年経った今も第二弾は出ていないのだが、最近の論創社さんのツイートから察するに、やはり売れ行きは芳しくなかったということか。いったい次は何が準備されていたのだろう。気になるね。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 クロフツの長篇で唯一、未訳だった『フレンチ警部と毒蛇の謎』が出たので、さっそく読んでみた。
 ジョージ・サリッジは動物園の園長を務める男。仕事には満足しているものの、身分違いの結婚をしてしまったせいか、妻とは折り合いが悪い。しかも妻の浪費と自分のギャンブル癖も相まって、年中金欠に悩んでいた。そんな彼がこともあろうに愛人を作ってしまい、ますます金が必要になったところへ飛び込んできたのが、伯母の遺産相続。
 これで万事解決かと思いきや、ある理由から遺産がまったく手に入らなくなってしまう。落ち込む彼の前に、差し出されたある儲け話。良心に悩みながらも、ついにジョージは……。

 フレンチ警部と毒蛇の謎

 OK。まずは普通に楽しめる。
 何年か前、これもクロフツの長篇としては久々の翻訳となった『フレンチ警部と漂う死体』があったが、本作もこのときと同様、まったく質的には問題ない。ケレン味には乏しいし、さすがに傑作とかいうほどのレベルではないけれど、クロフツの良さは十分出ているだろう。
 これまで訳されなかった本当の理由は知らないが、少なくとも内容が日本人向きではないとか、作品の出来が悪いからといったわけではなさそうだ。

 クロフツのミステリと言えばまず思い浮かべるのが、アリバイ崩しなどに代表されるような、地味な内容。それは裏返せば天才的なトリックや破天荒な物語とは無縁なリアリティのある物語である。捜査もいわば足を使った地道な警察捜査が主流で、どちらかといえば退屈な物語といった印象を持たれている方も多いと思う。
 ま、確かに地味な作風ではあるが、描写の確かさがあるので退屈ということはまったくない。とりわけクロフツはお得意の倒叙スタイルを効果的に使うことで、犯罪者の心理や犯行の妙などを非常にうまく描いている。
 例えば本作では、動物園の園長ジョージ・サリッジを主人公として犯行の様子が語られるが、実はジョージは実行犯ではない。直接犯罪に手を下す主犯は別にいて、彼はあくまで共犯である。したがって通常の倒叙ものの面白みをキープしつつ、ハウダニットの興味も加え(残念ながらそのトリックはそれほど面白いものではないけれど)、その結果ジョージを中心としたサスペンスも盛り上がるという趣向。何よりジョージの犯罪に手を染める過程が丁寧に描かれていて、それだけで十分面白いのだ。

 クロフツもここが胆と心得ているから、本作ではジョージのパートが大部分を占めている。そのためフレンチ警部のパートが短い(つまり捜査パートが少ない)のはやや物足りないが、フレンチが捜査に乗り出すきっかけが、「本来、現場にあるべきはずのものがない」という理由であったり(この辺、ちょいとコロンボっぽい)、要所はしっかり効いているのであまり気にするほどでもないだろう。むしろフレンチが乗り出した後が意外と盛り上がらず、その方がマイナス点か。

 実は本作でもっとも気になるのは主人公の行方であろう。
 確かに責めを負うべきジョージではあるが、その人柄や境遇からか、憎めない人物なのである。その足の踏み外し方も、何となく日本の中間管理職っぽいイメージもあり、読んでいる途中では、悲劇的なラストが待っているかと思うとある種の悲哀を感じないではない。
 ところが、ここでクロフツがつける落とし前。いや、さすがである。単に後味がいいというだけでは収まらない、クロフツの思想や人生観が表れているラストだ。
 本書は地味な作品ではあるのだが、同時に滋味に富んだ作品でもあるのだ。

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 本日の読了本は、実に久々のクロフツで、『フレンチ警部と漂う死体』。

 電気機器会社を経営するウィリアム・キャリントンは、年齢による衰えから、会社を後進に譲る決意をする。ところが本来なら候補一番手の甥のジムは、仕事に興味がないばかりか会社のお荷物になっている始末。そこでウィリアムはオーストラリアに住むもうひとりの甥、マントを呼び寄せた。しかしマントは期待通りの働きを見せるものの、ウィリアムの一族の間にぎくしゃくした空気が流れ始める。そんなある日、ウィリアムの誕生日での晩餐において、一族全員の食事に毒物が混入されるという事件が起こる……。

 フレンチ警部と漂う死体

 いやあ、クロフツ、本当に久しぶりに読んだのだが、予想以上に楽しいではないか。
 一応、『樽』『マギル卿~』『クロイドン~』といった有名作品をはじめとして十作ぐらいは読んでいるのだが、それももう三十年ぐらい昔の話。当時は本格ミステリ黄金期の五大作家、ということで読んだはずだが、どうしてもクイーンやクリスティあたりに比べると地味だから、それほどのめり込むことがなかった。
 ところがこっちも年をとり、ようやくクロフツを楽しめる準備が整ったということなんだろう。ここまで自分の波長に合うとは思わなかった。

 ややもすると退屈な作風と評されたりもするクロフツだが、おそらくそれは退屈と地味を混同している。本書に関していえば、練られた人物造形、(こぢんまりとはしているが)しっかりしたトリック、適度なユーモア、そして屋敷での最初の事件~船旅と第二の惨劇~フレンチ警部の捜査という構成の妙など、確かに突出した部分はないけれど、非常にバランスよく仕上がっている。実にまっとうな英国の本格ミステリなのだ。
 また、フレンチ警部のキャラクターについても、捜査一筋、真面目一辺倒の面白みのない性格という記憶しかなかったのだが、本書を読むかぎりは、これもけっこう印象が異なる。
 仕事の合間に観光もできるだけやっておきたいぞという俗っぽいところ、ロンドン警視庁に誇りをもちすぎているせいか田舎の警察官をちょっとなめているところ、推理する過程での一喜一憂、奥さんとのユーモラスなやりとりなど、クイーンやポアロに比べればはるかにリアルで人間くさく、これがまたいい味つけになっている。

 クラシックブームの功績としてよく挙げられるのは、何より未知の作家や作品を読めるようにしてくれたことなのだが、こうした評価されるべき作家をしっかりと再評価、再認識させてくれる意義もあったようだ。反省も踏まえつつ、二十年物の積ん読クロフツを少し消化しなければ。

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