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 宮野村子の『童女裸像 他八篇』を読む。戦前の探偵小説家のなかではベスト3に入れたいぐらいお気に入りの作家なので、手持ちのラスト一冊がもったいなくて読むのをためらっていたのだが、とうとう我慢できずに読んでしまった。

 童女裸像 他八篇

「狂い咲き」
「かなしき狂人」
「草の芽」
「山の里」
「臘人形」
「狂った罠」
「雨の日」
「花の影」
「童女裸像」

 本書は盛林堂ミステリアス文庫から『探偵心理 無邪気な殺人鬼 他八篇』に続いて刊行された単行本未収録作品集で、上記の九作が収録されている。しかも、うち一篇は高木彬光の遺品から生原稿の形で見つかった未発表長編というから、とんでもなく貴重な一冊である。

 内容もその期待をまったく裏切らない。宮野村子の作風はこれまでの感想でも何度か書いているが、基本的にはサスペンスを基調とした犯罪小説である。しかし、そこらのサスペンスと違うのは圧倒的な密度を持っていること。本格味はそれほどないけれども、心理描写が濃密で、かつ独特のウェット感があり、それらが重苦しいまでにサスペンスを高めてくれるのだ。
 なかでも日常のなかに垣間見える狂気を描いた作品は絶品である。ふとした拍子に見せる妖しげな目の輝き、いびつなまでの感情表現、好きな物・人に対する異常な執着……そのひとつひとつは犯罪でも何でもないのだが、そういった他人から見た何か心に引っかかる不自然なエピソードが積み重なり、この先に待ち受ける破滅をじわじわと炙り出してゆく。その手際が最高なのである。格調高いイヤミスといってもよい。

 以下、簡単に各作品のコメントなど。
 「狂い咲」は巻頭を飾るに相応しい一篇。両親の強すぎる愛情のままに育った美津江はわがままな性格というだけでなく、異常さすら感じさせるものだった。そんな妻と長続きする結婚相手がいるはずもなく、美津江はこれまで三度も離婚を繰り返していたが、最後の男だけは……。
 愛情と憎しみのねじ曲がった方向性が怖い。宮野村子の作品に時折見られるが、感情のほとばしる先がまったく読めないのだ。

 愛しい息子がようやく戦争から帰ってきたものの、その人柄は別人のようであった。「かなしき狂人」は変わってしまった息子ではなく、それを受け入れようとする母親に焦点をあてるのが妙。怖くもあり悲しくもあり。

 「草の芽」は宮野村子流の奇妙な味ともいうべき一篇。失った息子のかわりになればと、空き部屋を貸し出したお重。ところが紹介もされていない老人がやってきて、よくわからないうちに間借りを始めてしまう。挙げ句に深夜、女性を家に引き入れ……。
 これは家主が逆に支配されるパターンか、と嫌なイメージしかなかったが、ラストで予想外の展開。よく考えればユーモラスな一作のはずだが、あえて逆ホラー的な作品と呼んでみたい。

 前妻の浮気現場を見て逆上し、射殺した赤沼。それを承知で結婚した絹枝は下男と狐の三人と一匹で暮らし始める。しかし、絹枝は徐々に不満を抱き、下男を誘惑するというのが「山の里」。割とストレートな展開で、絹枝の心理より、赤沼の異常さをもう少し掘り下げてもよかった。

 「臘人形」も「山の里」と同じ展開、同じ特徴をもつ。異常な愛憎を描いてはいるが、その異常さを感じる前に物語が終わる感じで、語り手を変える手もあったかもしれない。
 ただ、ラストは乱歩を彷彿とさせる趣味もあって絵的には怖さもある。

 「狂った罠」も男女の愛憎劇ではあるが、男側がトリックを用いて殺人を企てるという、比較的正統派の探偵小説。ネタとしてはそこまで独創的ではなく、こういうタイプになると、宮野村子の作品は少々物足りなくなる。

 「雨の日」と「花の影」は、宮野村子には珍しいシリーズキャラクター・広岡巡査が登場する作品。いかにも昭和の推理小説といった内容で、味わい的には「狂った罠」と同様なのだが、しっかりとまとめられており、こういう作品も書けるのだという、ちょっとした驚きを味わえる。

 「童女裸像」は未発表長篇(ただし短め)で、本書一番の注目作。幼友達の三重子と再開した淳は、三重子が好きでもない男と婚約していたことを知り、発作的に二人で心中を企てる。しかし、淳だけが生き残ってしまい、悩む淳は子どもの頃に可愛がってもらっていた弁護士・深見のもとを訪れる……。
 ミステリとしての肝は、心中を試み、気を失っていた二人に、ある細工が仕掛けられたところだろう。三重子には首を絞められた跡があり、惇には疵を保護した跡があったのだ。果たしてその理由は? 真犯人はいるのか? という謎があるわけだが、全体的には小粒なので予想はつきやすく、かといって本格というほどの論理性はない。
 読みどころはこれらの犯罪のベースにある登場人物たちの異常な心理であり、彼らにどのような相互作用が起こり、このような結果を招いてしまったかということ。全編を覆う妖しいムードは悪くなく、それが心理描写とあいまって宮野ワールドを作り上げているのはさすが。
 ただ、タイトルになっている「童女裸像」は作中にも絵画として登場するが、このイメージが作中でも強く取りあげられているのに、事件の鍵を握るところまではいっていないのが惜しい。

 ということで本書も十分満足できる一冊。盛林堂さんには多大なる感謝しかないものの、あえて書かせてもらうと、やはり宮野村子はマニアだけの同人誌で終わらせるような本ではない。できれば商業出版という形で広く読まれてほしい作家である。そして長らく絶版の長篇もどこかで出してほしいものだ。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 宮野村子の短篇集『探偵心理 無邪気な殺人鬼 他八篇』を読む。宮野村子は論創ミステリ叢書の『宮野村子探偵小説選I』&『宮野村子探偵小説選iI』を読んで以来、その内容と描写の濃さにすっかりやられしまった作家である。長編こそ三作程度だが短編は意外に多く、そのほかの作品も読みたくてたまらないのだが、いかんせん入手困難な上に、見つかっても、まあ高いこと(笑)。
 仕方ないので、そのうち縁があればという感じだったのだが、そこに昨年降ってわいたのが盛林堂ミステリ文庫での刊行である。恐ろしいことに収録作すべてが単行本初収録。なかには2019年に発見された未発表作品まで収録されている(以前にコメントで黒田さんから教えていただいたアレかな)。
 そして今月。とうとう盛林堂ミステリアス文庫から第二弾『童女裸像 他八篇』が刊行された。実は本書はもったいなくてなかなか読めなかったのだけれど、こうして一冊ストックができたことで、この度安心して読むことができた次第である。

 どうでもいい枕で申し訳ない。それでは収録作から。

「死後」
「探偵小説 運命の使者」
「探偵心理 無邪気な殺人鬼」
「冬の蠅」
「白いパイプ」
「時計の中の人」
「ロマネスクスリラー 吸血鬼」
「善意の殺人」
「死者を待つ」

 探偵心理 無邪気な殺人鬼

 いやあ、やはり宮野村子はいい。レアな作品が刊行されると往々にして希少性ばかりが話題になって、内容は二の次なんてことも多いけれど、宮野村子は違う。
 その作風はひと言でいうと美しい犯罪心理小説。あるいは格調高いイヤミスである。語り口もドラマチックで濃密な描写に酔わされる。『宮野村子探偵小説選』も素晴らしかったが、本書に収められている作品も、なぜこれまでまとめられていなかったのかというぐらい、傑作、佳品揃いだ。

 「死語」はタイトルどおり、死語の世界について盛り上がる三人の女性たちで幕を開ける。そこへ割り込んできた見知らぬ女性が、自らの体験を聞かせる怪談話。最後にオチを効かせてはいるが、そのオチも信じていいのかどうか。主人公のみならず読者も夢の中へ誘われるような気になってくるのが魅力。

 「探偵小説 運命の使者」は兄妹二人きりになってしまった、かつての名家が舞台。そこに仕えるのも今では使用人の母娘の二人しかおらず、四人で静かに大晦日の夜を迎えていた。そこへ想いもかけない訪問者が現れ……。
 過去の悲劇が呼び水となり、大晦日の夜に再び悲劇を招くという構図。中盤までの雰囲気作りは絶品だが、ストーリーの急ぎすぎというか、後半の慌ただしさがもったいない。惜しい作品である。

 「探偵心理 無邪気な殺人鬼」は表題作だけあってさすがに読ませる。前半の幼児の視点で描かれる母娘の暮らしがまずえぐい。母親の商売を幼児が客観的に語る部分が生々しく、それだけでやばい。そこへ隣に越してきた若夫婦の登場、母親の持っている薬の存在が明らかになると、もう穏やかに読み進められる読者はいないだろう。
 ラストも強烈で、直接的な描写がないのにこれだけ気持ちをブルーにさせてくれる著者の語りに感嘆するしかない。傑作。

 派手な事件などは起こらないが、いかにも宮野村子らしいテイストを感じられるのが「冬の蠅」。準二は幼馴染の元男爵の令嬢・冬美をからかおうとして、わざと庶民的な飲み屋に連れてくる。しかし高慢な性格の冬美には、そんな冗談が通じるはずもなく、むしろ店や客に嫌な思いをさせてしまう。ところが偶然その店にいた準二の先輩が、冬美の興味をひいてしまい……。
 実は冬美に惹かれていた準二の心情がどうこう……という展開であればよくある恋愛小説のパターンだが、宮野村子はここでえげつない捻りを入れてくる。

 「白いパイプ」は宮野村子には珍しいハッピーエンド(笑)。自分の留守中に、客を家にあげている妻の行動に不審なものを感じる夫の心理が読みどころ。

 「時計の中の人」も読ませる。吉村あきは息子の達也、甥の貞雄と暮らしていたが、あるとき貞夫が殺人罪で逮捕されてしまう。その貞雄が刑期を終えて戻ってくることになったが、あきには悩んでいることがあった。息子の達也が貞夫の婚約者・春江と結婚したいというのだ。
 カタストロフィを予想させるリアルな人物描写に加え、墓を作るという一人遊びに耽る達也の娘の存在が秀逸。イメージ、テーマ、事件の謎、すべての鍵を握っていたことに驚かされる。
 
 「ロマネスクスリラー 吸血鬼」は文字どおり吸血鬼の話。他の作品に比べるとプロットは物足りないが、婦人にそそのかされる少年というイメージが妖しく鮮烈。

 「善意の殺人」は珍しく普通に刑事が犯罪を捜査するというストーリーで、こういうオーソドックスなミステリも書いていたのかということにまず驚く。真相自体には宮野村子らしさも盛り込まれており、謎解きミステリとしての出来もまずまずなのだが、やはりこのスタイルでは宮野村子の持ち味があまり発揮されない印象を受ける。

 「死者を待つ」は未発表作品で本書の目玉。といっても管理人にとっては本書の全作が初読なので、あまり関係はないのだけれど(苦笑)。土砂崩れ災害の直後を舞台にしたミステリで、真相の意外性、雰囲気の凄さ、ストーリーの面白さ、描写の生々しさも含め、これも傑作といってよいだろう。
 なんせ原稿のまま見つかった作品ということで、編集者の校正や著者の推敲などもこれからだった可能性もあり、完成度はやや低い感じなのだが、それでも読む価値はある。

 ということで大満足の一冊。盛林堂さんではまだ在庫があるようなので、興味をもった方はぜひこちらで。
 ↓
 http://seirindousyobou.cart.fc2.com/ca1/662/p-r-s/

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 『宮野村子探偵小説選II』読了。
 先月読んだ『宮野村子探偵小説選I』と同様、実に味わい深くスリリングな一冊。玉石混淆の感が強い「論創ミステリ叢書」なれど、『宮野村子探偵小説選』の二冊は間違いなくトップレベルである。
 戦後の女流探偵小説家を挙げるとき、仁木悦子はまず外せないところだと思うが、宮野村子はその実力を考えると二番手に挙げられる資格を十分に備えている。仁木を陽とすれば宮野はまさしく陰。確かにトリック等に関してはめぼしい成果を上げていないものの、この息苦しいまでの心理描写を基調とした犯罪劇の数々は、余人を持って代え難い。
 作品のほとんどがこれまで読めなかったという事実にはただただ驚くしかなく、宮野村子は普通に文庫化されて普通に読まれるべき作家であると断言する。

 男女の関係や血の絆など、多少の変化はあるものの、宮野村子の作品のテーマは基本的に人間の愛憎である。彼女はそのテーマに沿って作品内で執拗にそれを繰り返し語り、何層にも塗り固めてゆく。一行一行の描写が濃密で、なんてことを『~I』の感想でも書いたのだが、とにかく読者を洗脳するかのごとく、呪文のように繰り返し語るのである。
 本書の作品のうち、「令嬢殺人事件」から「銀杏屋敷の秘密」までの五作は短編集『紫苑屋敷の謎』を丸まる収録したものだが、これは十年間の作品から著者自らセレクトしたものというだけあって、とりわけ強烈。正直、イッキ読みはおすすめできないし、お子様は避けた方が無難だろう。一作読み終える度に相当のダメージを覚悟すべきで、ラストでどんな結末が待っていようとも、読み手は主人公と共に、それを定められた運命のごとく受け入れるしかないのである。

 宮野村子探偵小説選II

<創作篇>
「令嬢殺人事件」
「いたずら小僧」
「紫苑屋敷の謎」
「夢の中の顔」
「銀杏屋敷の秘密」
--------------------
「考へる蛇」
「猫と鏡」
「愛憎の倫理」
「ナフタリン」
「神の裁き」
「相剋の図絵」
「悪魔の魂」
「ヘリオトロープ」
「二冊のノート」
「悪魔の瞳」
「廃園の扉」
「手紙」
「愛憎の果て」
--------------------
<随筆篇>
「アンケート」
「孫の言葉」
「姉女房」
「ひとりごと」
「私より長生きを」
「某月某日」

 論創社さん、次は長篇の方をぜひ!


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 例のミサイルはとりあえず大きな事故につながらなかったのは幸いだが、あの国の考えることだけはほんとにわからん。国自体の精神年齢が子供過ぎますな。こういう騒ぎは、ほんとスパイ小説や軍事小説だけで十分である。


 『宮野村子探偵小説選I』読了。岩谷選書版の『鯉沼家の悲劇』を丸ごと採録し、プラス短篇九作、随筆四編を収めた作品集である。以下は収録作。

<創作篇>
「鯉沼家の悲劇」
「八人目の男」
「柿の木」
「記憶」
「伴天連物語」
「柿の木」(シュピオ版)
「斑の消えた犬」
「満州だより」
「若き正義」
「黒い影」
「木犀香る家」
「匂ひのある夢」
「赤煉瓦の家」
「薔薇の処女」

<随筆篇>
「はがき回答」
「宿命ーわが小型自叙伝」
「生きた人間を」
「奇妙な関係ー大坪砂男様に」 

宮野村子探偵小説選I

 探偵小説は芸術か娯楽か、なんて論争が戦前戦後とあったわけだが、概ね芸術派の代表だったのが木々高太郎で、宮野村子はその木々に師事し、作家としての位置を固めていった。宮野は元々、木々のファンだったというから、探偵小説を書くに際し、謎解きよりその人間やドラマにより興味を強くもっていたと想像するのは難しいことではない。
 本書はそんな宮野村子の特徴がいかんなく発揮された作品集で、実に読み応えがあった。
 人間関係が壊れた旧家、毎度のように縁談相手に起こる不審な事故、奉公に行った先でその家の娘を溺愛する少女等々……。彼女の作品世界はちょっとヤバ気な設定ばかりであり、そのなかで営まれる登場人物たちのドラマや心理がまたなんとも。それほど予想外に進むわけでもなく、驚くような仕掛けなども少ないのだが、とにかく一行一行の描写が濃密で、しかも実にウェット。個人的にはこのウェット感が好みで、いわゆるサスペンスとも違う、数多の人間関係がじわじわとカタストロフィに向かっていく有様をスローで見せられているという感じ。非常に日本的なサスペンスである。誤解を覚悟で書くと、宮野村子の小説はこの筆力だけで読ませるといっても過言ではないだろう。
 ただ、作品によっては結末を急ぎすぎるきらいがあり、時としてそこが作品のトーンを一気に落とす場合もあるのはいただけない。

 作品単位では、やはり長篇「鯉沼家の悲劇」は外せないのだが、惜しむらくは、上で書いた欠点“急ぎすぎる結末”がある。当時、一週間で書き上げたという事情はあるのだが、もっと余裕のある紙数を使って書き直せば、戦後ベストテン級の傑作になった気もする。いや、今の状態でも十分に凄いのだが、それだけにもったいないのだ。
 実際、「柿の木」は、初稿時のシュピオ版と、単行本に収められた改稿版が両方収録されているのだが、これは圧倒的に改稿版がいい。今なら異常心理ものといえる作品だが、読んだ後かなりブルーになれることは保証する(苦笑)。

 今回、初めて宮野村子の作品をまとめて読むことができたが、とにかく予想以上に安定したレベルであることに驚いた。個人的には好きな作家だったが、そうはいっても過去に読んだのは数作だ。いざ読んでみると、それ以外の作品はダメダメの可能性もあるわけで、得てして幻の作家とはそういうものだから(苦笑)。
 そういう不安を気持ちよく払拭してくれた本書は間違いなく貴重な一冊。既に論創社のHPでは続巻の収録作も発表されており、こちらも期待大である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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