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 木々高太郎の『三面鏡の恐怖』を読む。不定期ながらも着々と刊行が進んでいるKAWADEノスタルジック〈探偵・怪奇・幻想シリーズ〉の一冊である。
 
 こんな話。病気で亡くした妻の母親、妹と三人で暮らす電気製品会社の社長・真山十吉。日本の将来を変える事業を夢見る彼は、以前の恋人・嘉代子の妹と名乗る女性・伊都子の訪問を受ける。十吉はかつて政略結婚のために嘉代子を捨て、そのため捨て鉢になった彼女は好きでもない男と結婚し、その後病死してしまったのである。しかし、伊都子は十吉を激しく責めるでもなく、別れたあとも姉が愛し続けた男の気持ちを確かめにきたようでもあった。
 やがて十吉は姉と瓜二つの顔を持つ妹・伊都子を愛し、結婚する。だが、そこへ嘉代子に先立たれた弁護士の平原が現れ、十吉に接近する……。

 三面鏡の恐怖

 帯に景気のいい推薦文が踊っているので、読む前は逆に不安なところもあったのだが、予想したよりは楽しめた。
 ストーリーはいたって地味なのだが、要所々々で胡散臭いエピソードを放り込んでくるのがいい。重吉と伊都子の結婚(この結婚がまたとりわけ胡散臭い感じではあるのだが、意外にさらっと流している不思議)、平原の登場、そして新たな重要人物の登場と、いい意味で小骨を喉に引っかけるようなエピソードというか(笑)。そんなあれこれが前半で展開され、同時に登場人物の思惑が錯綜して、疑惑とサスペンスが高まっていくのがいいのである。
 事件の発生を遅らせたせいで終盤はややバタバタしているけれども、それなりにハッタリやどんでん返しも効いているし、プロットの勝利といえるだろう。
 ただ、著者自身はどの辺りを狙っているのかいまひとつ釈然とはしない。冒頭にある作者の言葉では相変わらず文学云々みたいなことも書いているのである。まあ、実際に読んだ限りでは本格とサスペンスの中間ぐらいのところか。映画原作というのも頷ける話である。

 ちなみにこの「冒頭にある作者の言葉」だが、それ以外にも気になることが書いてある。
 ここで著者は、本作が「心理的多元描写」というものにチャレンジしたと宣言しているのだが、これは要するに三人称ではあるが、各人の心理描写もやりますよというもの。
 ただ、叙述トリックでもあるまいし、正直なぜ、それをミステリでやるのか意味がわからない。これはかなり上手くやらないと、むしろ説明過多になったりアンフェアになったりする弊害があるし、何より人物描写としては拙くみえてしまう。
 まあ、それをあえて宣言してやるところが、探偵小説芸術論を唱えた木々らしいといえば木々らしいのだが。

 あと注目すべき点としては、全編を通して描かれる登場人物たちの姿がある。戦後間もない頃、価値観が大きく変動した時代のなかにあって、著者は登場人物を大きく旧世代・新世代・中間世代というふうに分け、それぞれの行動や考え方をストーリーに落とし込んでいる。
 いつの時代にも当てはまるといえば当てはまるのかもしれないが、著者が同世代や若い性代に対して感じているところが素直に表れていて興味深かった。ああ、もしかするとそれをやりたかったから、「心理的多元描写」なんてものを持ち込んだのかもしれないな。


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 論創ミステリ叢書から『木々高太郎探偵小説選』を読了。
 木々高太郎といえば探偵小説芸術論を打ち出して文壇に論争を巻き起こしたことでも知られ、この叢書の中では比較的メジャーどころといえるだろう。ただし、知名度の割には探偵小説ファンの間でいまひとつ人気がない印象だ。
 そんな論考が本書の解説にも少し収められている。直木賞を受賞したことで代表作として紹介され続けてきた『人生の阿呆』が、そもそもそれほど探偵小説として面白くないことに問題があったというのは、けっこう的を射ているだろう。
 ただ、本書を読んで不人気の理由はそれだけでもないかなと朧気ながら感じることができた。

 木々高太郎探偵小説選

「風水渙」
「無罪の判決」
「高原の残生」
「白痴美」
「桜桃八号」
「猫柳」
「秘密思考」
「心眼」
「詩人の死」
「騎士出発す」

 収録作は以上。注目はやはり連作長篇の「風水渙」だろう。
 連作長篇というのは各短編としても完結しているが、合わせて読むことで長篇としても成立するスタイル。もちろん今では珍しくも何ともない趣向だが、当時としては木々自身も「作者の言葉」で書いているようになかなか斬新な企画であった。ただし解説にあるように、ルブランの『八点鐘』をヒントにした可能性はかなり高そうだ。

 肝心の内容はというと、短編も含めて正直微妙である。一定の質は確保しているものの、単純な面白さでは以前に読んだ講談社大衆文学館の『光とその影/決闘』や春陽文庫の『網膜脈視症』に比べると一枚も二枚も落ちる。しかしながら各作品を読んでいると、その書きたいところやメッセージは痛いほど伝わってくるわけで、木々作品はこの辺のジレンマが歯がゆいところだ。
 芸術性云々は主張としてはごもっともだが、お行儀が良すぎるのか。探偵小説が生まれながらにして持っている魅力、それは論理の妙であったり、ある種のいかがわしさであったりするのだが、本書の作品の多くにはそれらが感じられない。提唱した探偵小説芸術論が結果的に自らの創作の幅を狭め、作品そのものの輝きを失っていったようなところがあるのではないだろうか。

 まあ、きつい感想にはなってしまったが、論創ミステリ叢書の一冊としてみればそう悪くはないレベルだし、例によってレアどころを盛り込んで紹介してくれるのはまったくありがたい限り。木々作品もまだまだ読めないものが多いので、次はとりあえず大心池先生全集でも期待したいところである。


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 先日、松本清張を読んだら、師匠筋の木々高太郎が読みたくなって、大衆文学館の『光とその影/決闘』を引っ張り出してきた。長短、織り交ぜた作品集で、「光とその影」が長篇、それ以外は短篇というラインナップ。優に二冊分はあろうかというボリュームだが質も申し分なく、木々入門書としても最適の一冊。これと創元推理文庫の『日本探偵小説全集7木々高太郎集』があれば、ほぼ傑作は網羅できるか。
 とりあえず本書の収録作は以下のとおり。

「光とその影」
「決闘」
「大浦天主堂」
「死の乳母」
「死固」
「債権」
「恋慕」
「青色鞏膜」
「冬の月光」
「眠られぬ夜の思い」

 光とその影/決闘

 上で”入門書としても最適”などと書いたはいいが、実は長篇「光とその影」だけは、正直しんどかった。自ら提唱した探偵小説芸術論を実証するかのように、本作では人の光と影に踏み込みつつ、正義についての問答なども組み込むなど、文学的なアプローチを企てている。ところが肝心の事件や真相にそれほど魅力がなく、サプライズにも乏しい。ヒロインの心理もいまひとつ共感できず、本作でいちばん乗れなかった。

 それに比べると短篇は佳作ぞろいで、各種アンソロジーに採られている作品も多い。「決闘」はバカミスと紙一重の驚愕のラストが見もの。
 「大浦天主堂」や「債権」「眠られぬ夜の思い」などの大心地先生ものもアベレージ高し。探偵小説としてのバランス的には「ン~」というところもあるのだが、精神分析ネタを上手く絡め、その興味で物語を引っ張ってゆく。
 「死の乳母」は、こんなものも書いていたのかという、驚きのホームズものパスティーシュ。出来はまあまあ(笑)。
 「恋慕」と「青色鞏膜」は恋愛風味の強い探偵小説。個人的には、この二作が本書中のベストを争う。「恋慕」はシンプルながら非常に気合いの入った描写で、ラストでいきなり探偵小説になるのが不思議なほどの力作。「青色鞏膜」はいわゆるエピローグに当たる部分が尋常ではない。構成としては正直破綻していると思うが、木々の目指したところが理解できる作品である。

 ところで「大衆文学館」も久しぶりに読んだが、やっぱりこの叢書は凄い。いろんな形で復刊がなされる現在、思い切って「大衆文学館」を丸ごと復刊してくれる方が手っ取り早くないか、とも思ったり。


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 探偵小説芸術論を唱え、その実践として書いた『人生の阿呆』で、探偵作家として初めて直木賞を受賞した作家といえば、もちろん木々高太郎。その功績は著作のみならず、宮野村子や松本清張を見出したことでも評価されて然るべきだろう。とはいえ『探偵小説芸術論』がいまでも通用するのかといえばそれは無理もあるし、『人生の阿呆』が探偵小説として傑作かといわれれば、それもまた厳しい話と言わざるを得ない(苦笑)。
 ただ、持論と実践を一致させるのは木々に限らず難しい話で、論争相手だった甲賀三郎や江戸川乱歩にしても然りである。重要なのは、この探偵小説黎明期において、木々が実に真面目に探偵小説を考え、数々の活動を行っていたことだろう。その情熱をこそ買うべきであり、短編のいくつかはまさに傑作といってよいと思う。
 本日の読了本は木々高太郎の『網膜脈視症』。

 網膜脈視症

「網膜脈視症」
「就眠儀式」
「妄想の原理」
「ねむり妻」
「胆嚢(改訂)」

 本書はデビュー作の「網膜脈視症」を初めとする初期の短編を集めたもので、元本は昭和十一年に刊行された。当然ながら芸術論云々はまだ発表しておらず、好きな探偵小説を、自分の武器である医学知識を駆使して書いていた頃の作品である。
 とりわけ心理学や精神医学をモチーフにした作品が多く、人間の心理を深く掘り下げるという点では、後の探偵小説芸術論につながる部分も見えないわけではない。しかしながら、やはりここは素直に、事件の隠れた真相を炙り出すための探偵小説的ギミックとして、心理学などをうまく料理していると評価しておきたい。
 特に精神医学教授の大心地先生を探偵役とする「網膜脈視症」や「就眠儀式」は、奇妙な謎を論理的に解明するという実に真っ当な探偵小説である。しかも心理学等をネタにすることで木々ならではの個性も強く打ち出せ、結果として十分楽しめる「娯楽」作品となっている。
 なお、「胆嚢(改訂)」のみ珍しいことに戯曲形式だが、ネタは予測しやすいし、出来としては並。ただし、この登場人物のねちっこいやりとりこそ探偵小説の醍醐味、とか思ってしまうところが、我ながら悲しい性である。


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