ちくま文庫の「文豪怪談傑作選」から『小川未明集 幽霊船』を読んでみる。児童文学の書き手として有名な小川未明の、怪奇小説を集めた作品集である。収録作品は以下のとおり。
なお、本書は大きく四つのテーマに沿って収録され、プラス数編のエッセイと怪談実話という構成をとっている。ただし実際には下のように「■幼年期の幻想」といった章題みたいなものはない。これは編者の東雅夫氏の解説をもとに、管理人が便宜上、勝手につけたものなので念のため。
■幼年期の幻想
「過ぎた春の記憶」「百合の花」「稚子ヶ淵」「嵐の夜」
「越後の冬」「迷い路」「不思議な鳥」
■土俗の怪異
「黄色い晩」「櫛」「抜髪」「老婆」
「点」「凍える女」「蝋人形」
■童話
「赤い蝋燭と人魚」「黒い旗物語」「黒い人と赤い橇」
「金の輪」「白い門のある家」
■異国籍風の怪奇物語
「薔薇と巫女」「幽霊船」「暗い空」「捕われ人」
「森の暗き夜」「扉」「悪魔」「森の妖姫」
「僧」「日没の幻影」
■エッセイ
「北の冬」「面影」「夜の喜び」
■怪談実話
「貸間を探がしたとき」

さすがに「赤い蝋燭と人魚」ぐらいは読んでいたが、小川未明の作品をこれだけまとめて読むのは、実は初めてである。そして、今さらながら、その語りの極めて美しいことに唸らされた。
大雑把にいうと小川未明の文体は文節をひとつひとつ重ねていくようなスタイルである。「~では、~で、~して、~した。」という感じ。整った文体というのではないけれども、これが独特のリズムを持って非常に澄んだ心地よい響きをもつ。静謐さ、といってもいいだろう。
本書には上で書いたように、四つのテーマに沿って作品が収められているのだが、この文体にぴたっとくるのは、やはり「■幼年期の幻想」といった極めて日本風のモノクロームなイメージの怪談だ。完成度の高さやカラフルさなら「■童話」「■異国籍風の怪奇物語」もいいのだけれど、「過ぎた春の記憶」「百合の花」「稚子ヶ淵」等を立て続けに読んだ日には、ワンパターンだなぁとは思いつつも、いつのまにか夕暮れが恐くなること請け合いである。
まだ小川未明を読んだことがない、という人は、騙されたと思って冒頭の「過ぎた春の記憶」だけでも読んでみてもらいたい。おすすめ。