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 なんだか最近またアガサ・クリスティーの映像化が目につく。半年前にはNHK-BSでBBCが製作した『そして誰もいなくなった』を放映していたけれど、今度はなんとテレビ朝日が日本初の映像化という謳い文句で『そして誰もいなくなった』を二夜にわたって放映していた。

 BBC版は録画しそこねてしまって、まだ観ていないのだけれど、テレビ朝日版はこの週末でようやく録画しておいたのを観ることができたので、少し感想を残しておく。
 ちなみにBBC版は評判も良いようなので、発売されたばかりのDVDを買ってしまった。こちらもそのうちに視聴したいところである。

 さてテレビ朝日版『そして誰もいなくなった』だが、ストーリーは今更という気もするが、現代の日本に置き換えた内容であり、かつオリジナルの部分もあるということなので軽く紹介しておこう。ちなみに脚本は乱歩賞作家でもある長坂秀佳である。

※なお、今回は有名作品のうえ、すでに放映済みということもあるので、ある程度はネタバレありで進めます。原作未読、テレビ版未視聴の方はご注意を。


 舞台は八丈島沖に浮かぶ絶海の孤島「兵隊島」。一件のホテルだけが存在するその孤島で、ホテルの宿泊客と従業員を含む十名の男女の遺体が発見される。そのすべてが他殺と思われ、しかも島全体が密室状態という状況のなか、いったい犯人はどうやって島を脱出したのか。警視庁捜査一課の相国寺警部が島に派遣されるが……。
 話はその数日前に遡る。「兵隊島」のホテルのオーナーによって、八名の男女がホテルに招待された。元国会議員に元刑事、元女優、元水泳選手、推理作家、元判事、元傭兵、女医と職業はさまざま。何ひとつ共通点のないように思えた彼らだったが、その夜のディナーで共通点が明らかになった。突如、ホテルに謎の声が響き渡り、彼らが過去に犯した罪を一人ずつ告発していったのだ。
 姿を見せないオーナーの狙いは何なのか。執事夫婦を含んだ十人が互いの過去を話し合っていたとき、招待客の一人が全員注視のなかで毒殺される。そして、その事件を皮切りに一人、また一人と殺されてゆく……。

 二夜連続の前後編という構成、オリジナル部分も追加ということで、どうしても比べたくなるのがフジテレビで2015年に制作された『オリエント急行殺人事件』だろう。
 ポアロ役の野村萬斎はじめ豪華キャストが良かったのはもちろんだが、構成が悪くなかった。つまり二夜連続のうち前編を原作どおりに、後編を事件の前日譚すなわちオリジナルドラマとして構成したのである。これなら原作ファンも納得させつつ、新規ファンにもアピールできるという仕組みだ。
 テレビ朝日版『そして誰もいなくなった』もその構成を意識したか、前編では主に原作の八割程度まで放映し、後編では原作の残り二割に加え、オリジナルの警察の捜査部分を加えている。

 だが、それがどうも効果的には思えなかった。
 まず原作の部分を二夜に分けたことで、せっかくのサスペンスや緊張が途絶えてしまったことが悔やまれる。最後の被害者については演者が演者なので相当にインパクトあるシーンなのだから、それを前編のラストシーンとしたほうが、はるかに興味を持続させることができたはず。
 また、オリジナル部分については警察の捜査や推理が中心となるのだが、これも狙いは悪くないけれども、肝心の警察の捜査がただの宝探し的なところに終始しており、推理部分もそれほどのものではない。
 要はオリジナルの捜査や推理シーンだけでは後編(第二夜)全部を埋めるには至らなかったところに、ミステリドラマとしての本作の限界がある。

 正直、今回のオリジナル部分はミステリドラマとしては腰砕けであり、まったく不要である。
 むしろクリスティーがもともと芝居や映画用に書き下ろしたバージョンのラストを用いて、それを単純に前後編で作ってくれた方がはるかに良いものになったのではないか。

 実際のところ、途中で後編(第二夜)に続いたことを除けば、豪華キャスト共演ということもあって原作どおりの前編(第一夜)はそれほど悪くなかった。
 渡瀬恒彦、津川雅彦、余貴美子、柳葉敏郎、大地真央、向井理、國村隼、橋爪功、藤真利子というメンバーはなかなかのもので、しかも第一被害者に向井理をもってくるところがにくい。
 まあ、この面子なら確かに冷静にみれば向井理が第一被害者にもっとも似合っているのだが、先入観ですっかり九番目の被害者だと思っていたのだ。まずここでいい意味で裏切られると同時に、スタッフにも相当気合いが入っていることがうかがえて気持ちよい。
 演出も悪くない。ややホラーチックにまとめているのは気になったが、それ以外は全体的に手堅く、各人の回想などを差し込んでサスペンスを高める感じはよかった。
 各人の過去に犯した罪というのは、個々にはそれほど大きな意味があるわけではないのだけれど、今までの映画などでは、それでもかなり説明不足のものもあって歯がゆいところだったのである。同じ映像をリピートするのは手抜きっぽい感じもしたが、まあ説明不足よりはよいでしょう。
 また、現代風にアレンジされている箇所はまずまず無難な感じで気にならなかった。

 そんなわけで前編(第一夜)については、それほど悪くないと思って観ていたのだが、第二夜は前述のとおり、なんだか典型的な蛇足を観ているような感じになってしまった。
 批判ついでに書いておくと、探偵役と犯人役のキャラクター設定にも疑問がある。
 探偵役でいうと、沢村一樹演じる警部が昔の名探偵のパロディのような変人タイプ。対する犯人役は渡瀬恒彦だが、正義感と殺害衝動が同居し、かつ自己顕示欲も強いという異常人格者。極論すればどちらもいわゆるサイコな方々である。もちろん要素として入れたくなる気持ちはわからないでもないが、なんだかリアルな前編(第一夜)の恐怖感が、後編(第二夜)で戯画化されるようなイメージで、ちょっと違うんじゃないのかと感じた次第。

 そう考えると、フジテレビが放送した三谷幸喜脚本による『オリエント急行殺人事件』は、なかなかよくできていた作品である。本作はそちらのようにオリジナル部分が作りにくい物語でもあるので、現代の日本にうまくアレンジした形で、通常の芝居や映画用のバージョンで作っていれば、かなりの傑作になったのではないか。

  最後になるが、先日逝去された渡瀬恒彦の演技は、あまりに役柄と現実がシンクロしており胸を打った。こういう見方は邪道だけれども、彼の最後の力を振り絞った演技こそが本作最大の見どころなのかもしれない。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 DVDで『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』 を視聴。第二次世界大戦中にドイツ軍のエニグマ暗号の解読に取り組み、のちに同性間性行為の罪で罰せられ、最後は自害したイギリスの暗号解読者アラン・チューリング。その悲運の生涯を描いた歴史スリラーである。
 日本では2015年公開。監督はモルテン・ティルドゥム、主演は傲慢な天才役をやらせたらピカイチの(笑)ベネディクト・カンバーバッチ。

 ときは1939年。イギリスがドイツに宣戦布告した年のこと。数学者アラン・チューリングは政府暗号学校が置かれるブレッチリー・パークを訪れ、デニストン中佐の指揮の下、数名の仲間とチームを組み、ナチスの暗号機エニグマの解読に挑むことになる。
 朝から晩まで暗号の解読に励むメンバーたち。だがチューリングだけはひとり暗号解読装置の設計に没頭していたため、両者の間には溝が深まってゆく。だが後から加わったクラークがチューリングとメンバーの中をとりもつことで、チームは徐々に結束、ついに装置は完成した。
 だがドイツ軍は暗号のパターンを毎日変えるため、装置の処理が追いつかない。業を煮やしたデニストンは装置の破棄とチューリングの解雇を命じる。仲間の協力でこれを回避したチームだったが、問題はそれだけではなかった。両親から仕事を辞めろと迫られるクラーク、チームにかけられるスパイ容疑、そしてチューリング自身に隠された秘密などなど。
 そんななか、チューリングは通信を傍受する役目の女性職員の話から、ついに暗号解読のヒントを思いつく……。

 イミテーション・ゲーム

 ううむ、まずまず楽しめたけれど、チューリングの天才っぷりや暗号解読についての見せ場がそれほどではないのが残念。
 確かにチューリングという人物に注目した場合、数学者としての偉業もさることながら、その不遇な生涯に目を奪われる。自己中心的な性格や性的嗜好が災いしたことで、最終的には逮捕されて科学的去勢を施されてしまう。挙句に四十一歳という若さで自ら命を断つことになるわけで、どうしてもヒューマンドラマ寄りにしたい制作サイドの気持ちはわからないでもない。
 しかし、そのドラマもチューリングの天才的数学者としての部分があってこそ。だから、その天才っぷりや暗号解読の描写をがっつりと見せてくれないことには何とも物足りないのだ。

 ちなみにプロットとしてひとつ気になったのは、装置完成後にチューリングが下した決断である。
 エニグマを解読したことがドイツにばれてはその苦労が意味のないものになってしまう。よってエニグマから得る情報を取捨選択し、より重要な情報のみ対応していくべきだというのである。これは逆にいうと、戦略的に重要でない情報は、多少の犠牲が出るとわかっていても、あえて味方にも教えずにスルーするというのだ。
 これ、見る人の価値観でまったく意見が分かれる重要なところだし、暗号解読チームの中でも意見が対立する見せ場の一つのはずだが、意外にあっさり意見がまとまり、国も素直にそれに応じるのがやや違和感のあるところである。ドイツの作家シーラッハなどは、まさにこのテーマひとつで『テロ』を書いたほど重いテーマなのだが。

 ということでカンバーバッチの名演技は見る価値ありだが、ヒューマンドラマとしてはまずまずだろう。歴史スリラーや暗号興味で見る人はあまり期待せぬように。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 DVDで『サスペリアPART2/紅い深淵』を視聴。ダリオ・アルジェント監督による1975年の作品である。何を今頃こんな中途半端に古い映画を観たかというと、先日読んだ『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』の影響である。実は同書で数あるミステリ映画の一位に輝いたのが、この『サスペリアPART2/紅い深淵』なのだ。

 おいおい、ちょっと待て、『サスペリア』ってホラー映画じゃなかったっけ?という方もいると思うが、本作は原題を『Profondo rosso』といい、何を隠そう(いや別に隠す必要もないのだが)、『サスペリア』よりも以前に作られた純粋なサスペンス映画であり、オカルト要素は一切ない。それどころか『サスペリア』とストーリ−的な関係もまったくなく、完全に別物の映画なのである。
 ホラー映画のファンには常識なのだが、日本では先に公開された ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』がヒットしたせいで、日本での配給会社がその人気にあやかるべく、同監督のすでにあった映画『Profondo rosso』を引っ張り出していかにも続編的なタイトルをつけて公開したのである。

 で、『サスペリアPART2/紅い深淵』だが、先に書いたように本作は純粋なサスペンス映画である。しかも『映画秘宝EX 最強ミステリ映画決定戦』で一位に輝いたように、ミステリとしてかなり上質の作品なのである。
 などと知ったようなことを書いている管理人も、実はこの映画がそこまで凄かったという印象はあまりなかった(苦笑)。もちろん面白かった記憶はあるのだが細部はほとんど覚えておらず、一位と言われてもピンとこなかったのが正直なところである。
 これではいかんだろうというわけで、わざわざDVDを購入し、あらためて視聴した次第である。

 サスペリアPART2:紅い深淵

 まずはストーリー。
 プロローグとして挿入されるのが、ある家でクリスマスの夜に起こった出来事である。レコードで子供の楽しげな歌が流れる中、子供の叫び声が響き、床には血まみれの包丁。そして、その包丁に近づく子供の足。何らかの惨劇が行われたことを暗示しつつ、物語はとあるホールへと変わる。
 そのホールで行われているのは超心霊学会で、テレパシーの持ち主であるヘルガの公演の真っ最中であった。ところが突如、ヘルガが悲鳴をあげる。聴衆のなかに過去に殺人を犯した者がいて、その人物は再び人を殺そうとしているというのである。
 その夜のこと。ヘルガがホテルの一室で電話をしていると、どこからともなく子供の歌が聞こえてきた。不審に思ったヘルガは邪悪な者の存在に気づいたが時すでに遅く、彼女は何者かの手によって惨殺される。
 その場面を屋外から目にしていた一人の男がいた。たまたまホテルの前で、しがないピアニストの友人カルロと立ち話をしていた同じくピアニストのマークだった。マークはヘルガがホテルの窓際で殺される瞬間を目撃し、急いで部屋に向かうが、現場には事切れたヘルガの姿しかなかった。
 やがて警察も駆けつけ、警察と部屋を検分していたマークはある違和感を覚える。それは部屋にかけられた不気味な絵の数々だった。自分が現場に来たときにあったはずの絵が一枚なくなっているのではないか?
 事件に興味を持ったマークは独自に調査を開始するが……。

 いやあ、なるほどねえ。こう来ましたか。
 犯人と真相はなんとなく覚えていたが、あらためて観るとけっこう衝撃的ではないか。しかも、ただびっくりするだけではない。プロットが非常に練られているうえに、伏線をガンガン張りまくっているのが凄い。真相を知ったときに、ああ、あれはああいう意味であったかと、すとんと腹に落ちていく。
 ミステリ的なギミックもなかなかのもので、特に冒頭から引っ張る殺人現場の絵の謎はうまい。これなど小説でやっても大した効果は得られないが、映画では実に有効。映像ならではの強みである。
 また、映画ならではの部分でいうと、中盤で提示される殺人場面を描いていると思われる子供の描いた絵のネタもいい。主人公たちが発見するその絵が、実は全体の一部でしかなく、これを効果的に見せて、なおかつ新たな疑問を観る側に生じさせるテクニックなど実に心憎い。
 他にもバスルームのダイイング・メッセージなども仕掛けとしては面白い(ただ、その中身はいまひとつであるが)。

 世界観の作り方も実に堂に入ったものだ。原題にもある”rosso”(赤)、さらには”絞首刑”というイメージを全編に擦り込ませて雰囲気を盛り上げるが、実はもっと素晴らしいのが、それらの表面的なイメージの下に性や男女の問題を隠しテーマとして含ませていることだ。これがまたいくつものエピソードを何層にも重ねることで、物語に奥行きを与えている。
 ここを詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが、こういう描き方をすることでより世界観がしっかり構築されているように思える。

 疵もないではない。完全に余計としか思えないアクションシーンを入れたり、BGMがちぐはぐだったり、主人公がどうにも不用心過ぎるなど、全体に作りが荒っぽいし、バランスも多少悪い。早い話がいかにもB級然とした作りなのである。
 ただ、そんなところは多少なりとも我慢して観るべきだろう。そういう欠点を含めてもお釣りは十分にくる。
 まあ、正直な話、さすがにすべてのミステリ映画で一位とは思わないが(笑)、ベスト20クラスの力は確かにある。どんでん返しの効いたミステリ映画が好きなら、一度は見ておいて損はない。

テーマ:サスペンス・ミステリー - ジャンル:映画


 本日は立川のシネマシティに出かけて『キングスマン』を視聴。劇場の予告編を観たときからそのアクションシーンが気にはなっていたのだが、監督が『キック・アス』のマシュー・ヴォーンと知り、それも納得。心の必見リストに入れておいた作品である。

 こんな話。ロンドンにある高級テーラー「キングスマン」は独立スパイ組織。どこの国にも所属せず、数々の難事件を解決してきた秘密組織である。
 あるときキングスマンのメンバーの一人が、アメリカのIT起業家リッチモンド・ヴァレンタインを調べるうち、命を落とす。キングスマンのベテラン工作員ハリーはその欠員を埋める試験に、かつて自分が命を救われた仲間の息子エグジーを推薦し、試験に参加させる。
 エグジーは過酷な試験に挑戦することになり、徐々に勝ち進んで行くが、その頃ヴァレンタインは人類の存亡を揺るがす陰謀に着手していた……。

 キングスマン

 『キック・アス』の監督さんということで期待したのだけれど、見事なまでに内容が『キック・アス』の二番煎じでびっくり。面白いことは面白いのだが、その結構があまりに『キック・アス』を踏襲していて、オリジナリティという部分ではどうよ?というのが残念。
 そもそも『キック・アス』や従来のスパイ映画を越えようという意識が製作者に強すぎるのか、やりすぎの部分も目立ち、それが裏目に出ているところもちらほら(例えばラストの首が破裂するシーンとか)。

 ただ、英国紳士を前面に押し出したスパイというアイディアが秀逸で、武器などのギミックにもしっかり反映されているから、なんだかんだで評価は甘くなってしまうんだよねぇ。
 名優コリン・ファースの演技も素晴らしく、トータルではオススメといっておきたい。

テーマ:サスペンス・ミステリー - ジャンル:映画


 1979年に公開された野村芳太郎監督によるミステリ映画『配達されない三通の手紙』をDVDで視聴。
 原作はあのエラリイ・クイーン中期の傑作にしてライツヴィルものの第一作、『災厄の町』である。名匠、野村芳太郎がエラリイ・クイーンの傑作を映画化するということで、当時はそこそこ話題になったものだが、いかんせん今ではミステリファンでも知っている人は少ないかも。
 映画史においてもミステリ史においてもすっかり影が薄くなった『配達されない三通の手紙』だが、久々に観直しての感想となる。

 まずはストーリー。
 山口県萩市で名家として知られる唐沢家。銀行を経営する光政を筆頭に、妻のすみ江、次女の紀子、三女の恵子とともに暮らしていた。そこへ日本文化を学ぶため、アメリカへから親戚のロバートという青年がやってきた。歓迎する一家だが、次女の紀子だけは気分がすぐれない様子。彼女は三年前に婚約相手だった藤村敏行が突如失踪して以来、自宅に引きこもる毎日だったのだ。
 そんなある日、藤村が突然、萩に帰ってきた。光政は娘に与えた悲しみと家の面子を傷つけられたことから、藤村を許すつもりはなかったが、紀子可愛さから二人の結婚を認めることにする。
 だがその幸福も束の間の出来事だった。結婚翌日から現れた藤村の妹、智子、そして紀子が見つけた三通の手紙の存在が、再び唐沢家に悲劇を招くことになる……。

 配達されない三通の手紙

 ううむ、大筋では確かに『災厄の町』だが、やはり日本に舞台を置き換えたことでいろいろと無理が目立つし、演出にも疑問が残る(むしろこちらが問題なのだが)。
 いいところで言うと、やはり俳優陣の熱演に尽きる。とりわけ紀子役の栗原小巻、智子役の松坂慶子は絶品。義理の姉妹という表面的な関係に隠された因縁の凄まじさを、天下の美女が熱演している。長女麗子役の小川眞由美も出番は少ないながら存在感はさすがだ。
 エラリー・クイーン役の蟇目良はずいぶん脇役的になってしまっているが、傍観者としての立ち振る舞いがいい距離感で思ったほど悪いイメージではなかった。

 まずいところは先に書いたとおりなのだが、一番の問題はドラマ性を強調するのか本格ミステリとしていくのか、あるいは(ハードルが高いけれども)それを両立させるのかがはっきりしていないことだろう。それらが中途半端なせいかアラばかりが目立ち、結果的に豪華な二時間サスペンスドラマのような効果しか生んでいないのである。
 具体例を挙げていくときりがないのだが、ミステリとしては、妹の存在を結婚相手に教えないとか、警察がヒ素の入手経路を調べないとか、被害者の身元も調べないとか、基本的なことを疎かにしているのはお粗末。また、推理の道筋をきちんと説明する場面が意外にさらっと流されているのは残念。探偵役が原作ほどには固定されていないこともあるのか、特にラストの事件を総括するシーンは物足りない。
 ドラマとしても恵子のロバートの関係性をまったく無視していることとか、智子の存在についての説明不足とか、後半に登場する記者の意義についての説明不足とかが非常に残念。原作『災厄の町』についてはかなり忘れたところも多いのであまり断言できないのだが、人間心理や宗教、共同体と個の関係などといったところが重点的に描写されていたはずで、だからこそ傑作たり得たはず。これをほぼ三人の愛憎の問題だけに絞ったところが、本作最大のマイナス要因となるのだろう。二時間サスペンスドラマと呼ばれるのもむべなるかな。

 クイーン原作とか野村芳太郎のミステリ映画とかの先入観なしに、できれば過度な期待を抱かず観れば、それなりには楽しめる一作である。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画


 録画してあった三谷幸喜版『オリエント急行殺人事件』を一週間遅れで消化。
 ネット上では賛否両論ありすぎて結局世評がどうかよくわからないのだけれど、管理人としてはテレビのミステリドラマとしては十分楽しめた。
 以下、感想となるが、極力注意はするけれども、どうしても構成上ネタバレを含む可能性があるため、『オリエント急行殺人事件』について未読・未見の方はご容赦ください。



 本作の肝は何といっても第一夜と第二夜の二部構成にしたところだろう。
 予備知識のない時点では単に原作を前編後編にしたのかなと思っていたのだが、蓋を開ければこれがなんと原作に沿って作られた第一夜、そして犯行の裏側を犯人側から描いた第二夜という二段構え。当然、第二夜の方は三谷幸喜完全オリジナルとなるわけで、もともと豪華キャストを配しているドラマだけに、その活躍を倍楽しめる仕組みはなかなかうまいやり方と言えるだろう。
 
 第一夜に関しては、原作はもちろん映画版をかなり意識した作りで、映画で見たような構図があちらこちらで再現されているのが楽しい。シナリオについてもかなり映画版を踏襲しており、クリスティファンからすると悪くないのだが、三谷ファンにはさてどうだったのだろう。黄金期の本格ミステリとしてみれば中盤の聞き込みシーンなどはけっこうな見どころなのだが、三谷ファンにはやや冗長で退屈に思われた可能性もあるわけで。
 とはいえ真相はミステリファンならずとも驚きの内容だから、少なくとも第一夜に関しては、三谷幸喜もそれほど無茶はしなくて済んだというところだろう。

 問題はオリジナルの第二夜か。まあ、犯行の裏側を描くといっても、すでに結末が決まっているわけで、料理できる範囲は限られている。おそらく脚本の制限もいろいろとあるだろうし、無い物ねだりの気もするのだが、やはり三谷脚本にしては意外にまっとうというか大人しめというか。
 三谷幸喜が本当にやりたかったのはこちらだろうし、もう少し弾けても良かったのではないかというのが正直なところだ。ただし、決してつまらないわけではなく、こちらも普通には楽しめた。共犯者が増えていく件などはけっこうな見せ場であろう。

 ただ、シナリオも要注目ではあったのだが、本作で一番の話題になっていたのはキャストである。特に野村萬斎が演じる勝呂武尊(すぐろたける)。
 あまりに独特で過剰な演技に賛否両論だったが、もともとポアロ自体がそういう個性的なキャラクターとしてクリスティに創造されたのであり、映画版でもそれを踏襲している。だから今更、野村萬斎が非難されるのは筋違いだと思うのだが、まあ、予備知識なしで客観的に見れば、確かにあのキャラ造形はすぐに受け入れられんよなぁ(笑)。
 むしろ管理人などは、若い役者さんとベテランの役者さんの力量に差がありすぎて、そちらを見ている方がやや辛かった(苦笑)。

 ともあれこの手のドラマには常に最悪を予想してしまうので、今回は比較的楽しめたのが嬉しい誤算。ミステリ好きを公言している三谷幸喜だけに、従来のクリスティファンに相当気を配りつつ、可能な範囲で挑戦しているのはすごく伝わってきた。
 これならもう一本、何か別のミステリをやってみても良いのではないかな。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画


 本日は三谷幸喜版の『オリエント急行殺人事件』をやっていたのだが、外出のためとりあえず録画で済ます。面白ければ後日感想をまとめてみよう。


 クリスティつながりというわけではないが今週は読書が進んでいないので、ひとまずDVDで観た映画『情婦』の感想など。
 こんなサイトに来ている方なら今更『情婦』については言うまでもないだろうが、本作はアガサ・クリスティ原作『検察側の証人』を、巨匠ビリー・ワイルダーが1958年に映画化したもの。原作のプロットを生かしつつも、登場人物にかかるドラマの膨らませ方など、映画ならではの魅力も加わり、ミステリ映画の古典として名高い作品である。

 こんな話。舞台は1952年のロンドン。老弁護士ウィルフリッド卿が口うるさい看護婦同伴で退院を果たしたその日、金持ちの未亡人殺害の疑いをかけられたレナードを連れて事務弁護士メイヒューが現れた。アリバイの証明者はレナードの妻しかおらず、状況は極めて不利だという。程なくして警察に逮捕されるレナード。ウィルフリッドたちはレナードの妻クリスチーネと会見するが、彼女の態度は夫を信じていないかのようであった。
 やがて裁判が始まり、検察側と弁護側の丁々発止のやり取りが進む。そんな中、なんと検察側の証人としてクリスチーネが現れた……。

 情婦

 さて、ン十年ぶりに観た『情婦』だが、やはりこの作品は抜群にいい。
 言ってみればコンパクトにまとめられた法廷ものだが、プロットが実に綿密に練られており、まったく無駄がない。ワイルダーらしいコミカルな部分も少なくないのだが、それすら全体のサスペンスや感動を最大限に活かせるよう、周到に計算されている印象である。
 もちろんクリスティの原作ありきではあるけれども、法廷での検察側と弁護側の駆け引きひとつひとつから、最後の十分間の怒涛のどんでん返しに至るまで、ミステリ映画としてはこれ以上望むべきこともないほどだ。

 俳優陣も見事。まずは何と言ってもクリスチーネを演じるマレーネ・ディートリッヒ。彼女はこのとき五十代後半のはずだが、この気高さと若々しさはどうだ。彼女の存在がなかったら、この映画の評価はまた変わったものになっていたかもしれない。
 老弁護士を演じるチャールズ・ロートン、付き添う看護婦役のエルザ・ランチェスター(ロートンとエルザは実の夫婦だったりする)も素晴らしい。この二人の掛け合いが一服の清涼剤になっていると同時に、場面転換にも一役買っている。本来なら後味の悪いはずの真相が、この二人によって希望を抱かせるラストへと変化するのも非常にうまい手だ。

 本当ならこの映画の伏線とかいろいろ書いてみたいのだが、やりすぎると興を削ぐので本日はこの辺で。
 ひとつだけ言えるのは、本作がミステリ映画史に燦然と輝く傑作であるということ。まだの人はとりあえず観ておく方向で。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画


 1970年に公開(日本は1971年)されたビリー・ワイルダー監督による映画『シャーロック・ホームズの冒険』を観る。
 もともとは四つのエピソードを盛り込んだ四時間近い超大作として撮られたが、公開にあたって二時間ほどに編集されたという曰く付きの一本。その際、エピソードも削られ、謎の美女とネス湖の怪物を中心とした話にまとめられたという。

 ストーリーは完全オリジナルである。ホームズの私生活に深く関わるため、当時未発表だったエピソードが、ワトスンの死後50年を経て公開されたという設定で、物語は幕を開ける。
 さて舞台は変わって19世紀末のロンドン。あるときホームズはロシアのバレリーナから強引な求婚を受けてしまうが、ワトスンと同性愛の関係にあるからと偽って逃れることに成功する。ワトソンは自分の名誉が汚されたと激怒するが……といったところがプロローグ。ここでホームズとワトソンの生活ぶりが楽しめるわけで、本筋はここから。
 ある日、彼らのもとに記憶喪失の女性が運び込まれる。やがて記憶を取り戻した女性ガブリエルの依頼で、ホームズは彼女の夫を探し始めるが、そんな彼らの前にホームズの兄マイクロフトが現れ、調査の中止を勧告する……。

 シャーロック・ホームズの冒険

 ロバート・スティーブンス演じるホームズの造型は悪くないが、個性が弱いか。やや冷たさに欠けるというか、それなりに雰囲気は出ているけれど物足りなさは残る。本筋とは関係ないが化粧が濃いのもちょい気になった(苦笑)。
 一方のワトソンはコリン・ブレークリーが演じており、こちらはえらくお調子者。一般に定着しているまぬけなワトソン像もどうかと思うが、こっちも微妙だ。
 それでも二人とも一応は基本に忠実にやっている感じではあるので、これはこれでありだろう。むしろ記憶喪失の女性ガブリエルが、どことなくアイリーン・アドラーを思わせる雰囲気でかなりよい。後のホームズもの映画やテレビにけっこう影響しているのではないだろうか。

 内容の方はといえば、ビリー・ワイルダーらしいコメディ色の強いものだが、ホームズ譚のポイントはきっちりと押さえているうえ、ミステリー映画としても予想以上に伏線や推理の部分が効いており、個人的には非常に楽しめた。
 謎解きのシーン、ホームズとワトソンの関係、コカインやバイオリンなどお馴染みの小道具の使い方、マイクロフト(なんとクリストファー・リーが演じている)の登場、当時の街並みや221Bの部屋の雰囲気、どれもこれもがいい感じ。目新しさはないが、どうすればファンが楽しめるかがわかっている。
 おすすめ。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画


 ただいま公開中の映画『推理作家ポー 最期の5日間』を観てきた。

 エドガー・アラン・ポーといえばアメリカの偉大なる小説家にして詩人。もちろんミステリファンには世界初の推理小説を書いた作家としても知られているが、恐るべきは彼の残したわずか五作の推理小説に、現在につながる推理小説の手法が山ほど詰め込まれていることだ。例えば探偵役とその友人というスタイル、例えば不可能犯罪と推理による論理的解決、他にも密室や暗号などなど。とりわけ謎の論理的解決を文学的カタルシスにまで昇華させたことは、すべてのミステリファンが感謝すべきであろう。
 ポーは自身の生涯にも謎が多い。特にその最期は、泥酔状態で発見されたことや不可解な言葉を残していたことなど、今も不明な点が多いという。
 そんなポーの亡くなる最期の5日間にスポットを当て、彼の死の謎に迫ったのが、ジェームズ・マクティーグ監督の『推理作家ポー 最期の5日間』である。

 1849年、アメリカはボルティモア。ある静かな夜を女性の叫びが切り裂いた。現場に駆けつけた警官たちが目にしたものは凄惨な殺人現場。母親は絞殺ののち首をかき切られ、娘は煙突の中で逆さづりになって息絶えていた。しかも現場は完全な密室……。だが刑事は窓のバネ仕掛けを発見し、密室からの脱出方法があったことに気づく。
 だが、気づいたのはそれだけではなかった。このトリックも殺害方法も、ある作家の書いた小説と酷似しているのだ。刑事はその作家ポーを呼び出し、捜査に協力を求める。だが、やがて犯人の真の狙いが明らかになり……。

 推理作家ポー最期の5日間

 ジョン・キューザック演じるポーの人物像がどこまでリアルなのかはわからないが、全体の雰囲気は悪くない。当時のアメリカの景観や風俗などはもちろんだが、ポーの描いた小説をいろいろな形で作中に再現しており、その世界観やビジュアルは満足できた。役者さんも実力派が多くてマル。

 惜しむらくは、いや、むしろ致命的といってもよいのだが、ミステリとしてポーの考えたものには遠く及ばないということだろう。
 CMや広告ではミステリファンに対するアピールが凄いけれど、これはかなり誇大広告。謎解き興味はほとんどなく、それどころか、そもそもどの犯罪にも無理がありすぎる。「モルグ街の殺人」を模した最初の事件にしても原作では犯人が●●●●●●●だから成立するのに、それをどうやって本作の犯人は再現できたというのか。
 この最初の事件に限らず、とにかくすべての事件で突っ込みどころが多すぎなのである。雑すぎる上に推理や論理的解明もほぼ皆無という状態で、ミステリ映画でそれはないだろうという感じ。ミステリドラマとしてはテレビの『SHERLOCK(シャーロック)』、ポーを扱ったミステリとしてはルイス・ベイヤードの『陸軍士官学校の死』の方が全然上である。
 真相もかなり残念。上で書いたように雰囲気自体はいいのでラストまでは退屈せずに見れるのだが、真相には何の驚きもカタルシスもない。犯人の意外性、動機、人物像はどこかで見たようなものばかりだし、おまけに深みも感じられない。ポーと犯人の対決シーン、それに続くポーが死にいたるシーン、これらもなんでそういうふうに展開するのか必然性に乏しく、理解に苦しむばかりだ。

 ポーの小説や詩をある程度読み込んだ上でその映像化を楽しみたい、当時のアメリカの空気を感じたいという興味であればOK。ただ、ミステリ映画としてはとてつもなく期待はずれなのでご注意を。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画


 少し未見の映画も片付けておきたいということで、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』をDVDで視聴。言うまでもなくトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル』シリーズ第四作。

 ブダペストで極秘ファイルを奪う任務に就いていたIMFエージェントのハナウェイたち。だが、簡単なはずだったその任務はハナウェイの死と任務の失敗で幕を閉じる。
 その後、ハナウェイなきあとのチームはロシアにいた。モスクワ刑務所に収容されているイーサン・ハントを救出し、ファイルを奪い返すミッションのリーダーを依頼するためだ。新たなチームを引き受けたイーサンは、ファイルを受け取る予定だった「コバルト」という男の正体を探るため、クレムリンに潜入するが……。

 監督のブラッド・バードは、『トイ・ストーリー3』や『レミーのおいしいレストラン』『Mr.インクレディブル』なんてところを撮っているアニメ畑の人で、実写作品はなんとこれが初。大丈夫かいな?と思っていたが、いやいや、やってくれるではないですか。個人的には一作目が一番いいと思っているのだが、それと同程度もしくはそれ以上の満足感はある。
 まあ、御都合主義が目に余るのはハリウッド映画の常ではあるし、このシリーズではとりわけひどかったりもするが、それを笑って許せるぐらい本作はがんばっている。予告編やCMでさんざっぱら見せられたドバイの世界一の超高層ビルのアクションなどはもちろん凄いのだが、ホテルでの極秘ファイルの取引シーンなどは本来のスパイ映画らしい趣向でなかなかよろしい。

 ただ、このぐらいのことは最近のエンタメ映画ではそれほど珍しいわけではない。本作がそれなりに面白いと感じた理由はどこにあるのか。
 つらつら考えてみるに、どうやら下手なドラマを削ぎ落としてスパイの活躍に絞っているところではないかと思えてきた。脇の人の小さいドラマはいろいろ詰め込んではいるのだが、よく考えるとトム・クルーズ演じる主人公イーサン・ハントに関しては、最近の映画には珍しいくらいドラマがないのである。だからチームリーダーである彼は任務に際し、何の迷いもなく危険に飛び込み、臨機応変に対処する。このプロフェッショナルな感じが非常に気持ちよい。ついでにいえば、それがストーリーのテンポにも貢献している。
 そういう意味では本作はトム・クルーズのための映画であり(当たり前っちゃ当たり前だけど)、トム・クルーズやっぱり凄いぞと再確認するための映画なのである。

テーマ:ミステリー・サスペンス - ジャンル:映画



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