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 金曜に朝まで飲んだ後遺症が出て(要は二日酔いなんだけど)、なんだか冴えない休日を送りつつ、ジュリアン・シモンズの『非実体主義殺人事件』を何とか消化する。

 スウェーデンからイギリスに戻ってきたばかりの若者、ジョン・ウィルソン。彼はさっそく友人らが非実体主義と標榜する前衛芸術の展示会に誘われた。非実体主義、それはそこに存在しないものに価値を見出すという思想である。そんな奇妙な主義の若手芸術家やその支援者たちの集まる展示会で、事件は起こった。なんと彫刻の中から死体が発見されたのだ。
 警察からはブランド警部が捜査に乗り出し、ジョンは遠縁にあたる私立探偵チーク・ウッドに捜査を依頼。推理合戦の様相を呈する中、第二の殺人が起こる……。

 非実体主義殺人事件

 ジュリアン・シモンズの長編デビュー作。その出来のまずさにシモンズが再版すら許さなかった曰く付きの本らしいが、帯のキャッチでは「イネス、クリスピン顔負けのユーモア本格ミステリ」とある。思わず「どっちやねん」とツッコミを入れたくなるが、読み終えた限りではそのどちらでもないような。

 なるほど設定こそは、非実体主義とか芸術系の変人ばかりを集めた異色な体裁をとってはいるのだが、それを取っ払うと根はまじめな本格である。メインのネタはアリバイ破り、プロットもけっこうちゃんとしている。著者自らがいうほどひどいレベルでは決してない。
 まあ確かにそれほど強い仕掛けでもないし、派手さもないのが辛いところだが、そこを補うのが、先ほど挙げた奇抜な設定、そしてユーモア、ということになろうか。アバンギャルド(死語?)に染まった登場人物の言動、そこかしこに埋められた文学ネタやミステリネタ、古典的名探偵のパロディのような私立探偵などなど、この辺の味つけは決して薄くはない。ただ残念なことに、これがそれほど面白くないのである。独りよがりなギャグというか、少なくとも「イネス、クリスピン顔負けのユーモア本格ミステリ」と言い切るのは、いくらなんでも無茶である。

 結局、本作はミステリマニアが書いた習作レベルの作品と見るのが妥当だろう。決していま読んでそれほど面白い作品ではない。
 だが、やがて犯罪者の心理などに注目し、エンターテインメントとしての虚構を評価しない立場をとったシモンズが、実はガチガチの本格の書き手としてスタートしたという事実は興味深い。単なるミステリを書きたくない、後年との方向性こそ異なれど、シモンズのそんな意識は本書からでもヒシヒシと感じた次第である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ジュリアン・シモンズの『自分を殺した男』を読む。
 レクトレクス電気商会を経営するアーサー・ブランジョンは、家で妻の尻にしかれ、仕事もパッとしない惨めな男。かたや結婚アシスタント社を経営するイースンビー・メロン少佐は、仕事もまずまず順調で、妻からも愛される幸せな毎日を送っている。何から何まで正反対の二人だが、アーサーはとうとう妻を殺そうと決心する。犯人をイースンビー・メロン少佐に仕立てて……。

 一種の倒叙ミステリだが、謎の要素はあまり重要視されず、主人公の犯行前後の心理の移り変わりに主眼が置かれている。著者のシモンズが主張していた犯罪小説論はエンターテインメントとしての虚構を評価しないものであったため、本格派の愛好者からはすこぶる評判が悪かったわけだが、本作はそういう本格擁護派への回答といった趣がある。
 ここが大事なことだが、本書のネタをそのまま本格の謎解き小説に仕上げても、けっこういいレベルの作品ができあがったはずだ。それを倒叙という形でネタを先にばらし、あくまで主人公が転落し、壊れてゆく姿をメインテーマとするところにシモンズの自負があるような気がする(本当にあったかどうかは知らぬが)。実際、本作の主人公の心理や行動の描き方は絶妙であり、ブラックユーモアの効いた優れた犯罪小説に仕上がっている。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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