昨日は花見がてら相模湖リゾートプレジャーフォレストへ。元は相模湖ピクニックランドという名称だったが、親会社の変更を機にリニューアルしたようである。
今回のお目当ては「さがみ湖花絵巻」というイベントだったが、いまひとつ量的には物足りなかった。実際、花の種類や桜の本数などはけっこうあるはずなのだが、敷地が広いので密集している感じがなく、見た目に損をしている。乗り物などもあるので親子連れにはいいのだろうが、大人を呼び込むにはもっと工夫が必要だろう。犬連れには優しいし、自宅からも意外に近いので、もっと頑張ってほしいのだがなぁ。

論創ミステリ叢書の『酒井嘉七探偵小説選』を読む。酒井嘉七といえば戦前の数少ない本格派で、アンソロジーなどではたまにお目にかかる作家である。少なくともマニアであれば名前ぐらいは知っている作家だが、残念ながら現在入手できる単独の著書は一冊もない。論創社でも企画自体は以前にあったらしいが、いかんせん著作そのものが少なく、一冊にまとめるとなるとやはり作品が足りないというところで、棚上げになっていたらしい。そこへ遺族からの打診があったことで企画が再始動、著者の作品集を何とか残しておきたいという遺族の意向もあり、論創社ミステリ叢書として刊行された経緯があったという。
おお、なんだかいい話だなぁ(笑)。正直、商売としてはあまりおいしいとは思えない企画だが、コツコツ真面目にやっていれば、こういう僥倖もあるわけだ。これまで不明だった著者や著作権についての情報がこうして明らかになるだけでも、意義ある仕事だし、探偵小説にとっては大きな貢献だ。
さて、肝心の中身だが、探偵小説選と謳ってはいるが中身は全集そのものであり、随筆や遺稿もフルに収録。酒井嘉七の全貌をこの一冊で体験できるとあれば、まずは文句なしの一冊である。
これまでは航空や飛行機をモチーフにした作品のイメージが強かったが、これは著者自身がかなりモダンな人だったことに理由があるようで、実は本人は飛行機に乗ったこともなかったらしい。だから本書では航空もの以外にもタイプライターとか映画とか、当時の新しいものや風俗をネタにした作品が多い。
さらには、そういったモダンな作品とは真逆の、長唄もの(というほど作品はないけれど)といった和風路線の作品もまとめて読めたのはよかった。
ただ、戦前の本格探偵小説ということで、質自体に疑問をもつ向きも多かろうが、そりゃ過大な期待は抱かない方がいい。今回初めて読めた作品も多かったが、やはり出来がいいのはアンソロジーなどに採られているものだ。オススメは航空ものであれば「呪はれた航空路」だし、長唄ものであれば「ながうた勧進帳」あたり。多くの作品は残念ながらトリックが弱かったり、他愛ないものだったり欠点も目立つ。
しかしながら多少トリック等が弱いとしても、当時の探偵小説をみた場合、この本格というセンスをしっかり理解しているところが重要である。酒井嘉七はこの辺のツボを押さえているから、読んでいて非常に楽しいのだ。
また、そういう弱点を含めたとしても、論創ミステリ叢書の中では比較的、レベルは高い方である(ううむ、これ褒めていることになるのか)。とにかく戦前の探偵小説好きには堪えられない一冊と言えるのではないだろうか。
以下、収録作
■創作篇
「亜米利加発第一信」
「探偵法第十三号」
「郵便機三百六十五号」
「実験推理学報告書」
「撮影所殺人事件」
「空飛ぶ悪魔」
「呪はれた航空路」
「霧中の亡霊」
「ながうた勧進帳」
「ある自殺事件の顛末」
「両面競牡丹」
「空に消えた男」
「遅過ぎた解読」
「京鹿子娘道成寺」
「ある完全犯罪人の手記」
■評論・随筆篇
「探偵小説と暗号」
「大空の死闘」
「『幸運の手紙』の謎」
「細君受難」
「地下鉄の亡霊」
「魂を殺した人々」
「雲の中の秘密」
「『霧中殺人事件』序」
「神様と獣」
「アンケート」
「十年後の神戸」
■遺稿篇
(※創作)
「ハリー杉原軍曹」
「猫屋敷」
「異聞 瀧善三郎」
「静かな歩み」
「目撃者」
「S堀の流れ」
「未定稿」
(※創作以外)
「探偵小説の話」
「猫屋敷通信」
「ほどけたゲートル」
「みすせれにあす・のーと」
「みすせれにあす・のうと Ⅱ」