先日訪れた世田谷文学館の「星新一展」にすっかり感化され、寝る前にぼちぼち読んできた本がある。星新一のお弟子筋にあたる新井素子が編纂した『ほしのはじまり』がそれ。
編者自身の好みによるセレクトだが、そのジャンルや年代も十分に考慮し、ひととおりの代表作は読めるようにしたということで、星ワールドをサクッと網羅しておきたい人にはなかなか便利な傑作選である。

で、久しぶりに星新一作品をまとめて読んだわけだが、あらためてこの人の才能というか、イマジネーションの豊かさには参った。インターネットとか彼の考えた内容がそのまま現実になった事例も多いし、この才能は誰もが認めるところだろう。
ただ、星新一の魅力はこういう想像する力だけではない。
彼の作品で意外に多いのが、苦いオチや、ラストでクールに登場人物を突き放すシーンだ。科学の発達や幸福を追い求める人間社会を、どこかでシニカルに捉えている部分があり、それが軽やかな深みともいうべき独特の味になっている。星製薬二代目として、倒産処理にあたるという体験が影響したと考えるのは、それほど的外れともいえないだろう。
ところで今の若い人、特に中学生や高校生は星新一を読むのだろうか。
「はじめに」と題した前書きで、新井素子は、自分の世代は中学生の頃に文庫でみな星新一の洗礼を受けたというようなことを書いているけれど、管理人自身も世代が近いこともあって、正に同様の体験をしている。猫も杓子も、と書くと大げさだが、少なくとも当時の本好きの連中はみな読んでいた記憶がある。先日の「星新一展」の映画上映でもけっこう年齢層が高くて、やはり懐かしさで来る人が多いのかと少し気になった次第だ。
まあ、オッサンやオバハンが読んでノスタルジーに浸るのも悪くないとは思うが、やはり星新一は若い人にこそ読んでほしいな。