サラ・ウォーターズの『半身』読了。
2003年度の『このミス』と『文春』の両方で1位を獲得し、当時、大評判となった作品。それ以前にもサマセット・モーム賞をはじめとした数々の文学賞にも輝いており、これは期待するなという方が無理な作品である。こんな話。
時代は1874年秋。テムズ河畔にそびえるミルバンク監獄へ慰問にやってきたマーガレットは、そこで不思議な女囚に出会う。年はまだ19歳だというその女囚は元霊媒師。降霊中の暴行、そしてその騒動の最中に心臓麻痺で死んだ主人の責任までを問われて罪に服したのだ。深い静寂をまとったその女囚に、マーガレットはいつしか心を奪われてゆく……。
悪くない。特にその描写力、筆力は素晴らしい。主人公マーガレットと霊媒師、二人が交互に語る手記の形式で物語は進むが、当時のロンドンの雰囲気、ミルバンク監獄の描写、何より「老嬢」と揶揄されるマーガレットの屈折した心情が、リアルにねちねちと描かれる。この重く陰鬱なムードが魅力だ。19世紀という時代設定にすることで、主人公の自立やアイデンティティといった問題、母親との屈折した関係、霊媒の少女との同性愛など、現代にも通じるテーマがより鮮明に浮かび上がっているのも見事だ。
問題はラストのサプライズだろう。アンフェアといわれるのはおそらく作者にとっても承知の上なのだろうが、それまでのテーマの有り様まで吹き飛ばしてしまうのはいかがなものか。本作にどんでん返しは不要なのだ。そのままスーパーナチュラルな話にして、主人公もろともどん底に沈めてくれた方がよかった気がする。